第5話

クルと約束をして別れた翌日、自転車を駅へと走らせて、

電車で数駅先の、少し大きな街へ。


一人暮らしに必要そうなものは、両親と暮らしていた家から、一通り持ってきたけれど、

いざ始めてみれば、あれが足りない、これがもっと欲しいと気付かされることも少なくない。

クルへのお土産を準備するのが一番の目的だけど、それなりに長い買い物になりそうだ。


お洒落な服が並ぶ店の前を通りかかれば、目を惹かれるものもあるけれど、

親からの仕送りで生活している身には、高い品はいくつも買えたものではない。

落ち着いたらアルバイトを始めようかと考えつつ、安さが謳い文句の量販店へと足を向けた。


色々と選んでいたら、家に着く頃にはもう夕方。

少し疲れたけれど、明日クルに会えるのを楽しみに、荷物の整理を始めた。




・・・翌日。

「今日もハルカに会えて嬉しいっ!!」

一昨日と全く変わらぬ勢いで、クルに押し倒されるところから、

こちら側の世界での一日は始まった。


「わ、私も嬉しいけど・・・今日はちょっと、クルに謝らないといけないことがあるの。」

「えっ、何?」

クルの顔がきょとんとなる。言いにくいけれど、伝えないわけにはいかない。

ここに来るまで、一つの問題をすっかり忘れていたのだから・・・


「わ、私ね・・・今日は張り切って、たくさん荷物を持ってきちゃったの。

 だから、その、重かったらごめんなさい。」

うん、いろんな意味で重いとか言うのは恥ずかしい。

だけど、クルの家まで背負って運んでもらうことを忘れていた私が、完全に悪い。


「うん? 全然そんな感じしないけど?」

「え・・・?」

クルは不思議そうに言うと、私を助け起こし、すぐさまひょいと抱え上げる。


「やっぱり、いつもとそんなに変わらないよ。

 狩りの時は、もっと重いのを運ぶこともあるんだから。」

「そ、そうなんだ・・・それなら良かった。」

ほっとした気持ちと、これから始まることへの嫌な予感。

いや、文句を言える立場ではないし、ここへ来ている時点で既に手遅れなんだけど・・・


「それじゃあ、行くよ! しっかり掴まっててね!」

「うう・・・あんまり揺らさないでね・・・いやああああーーー!」

うん、一昨日乗せてもらったばかりとはいえ、すぐに慣れることはありませんでした。



「ねえ、ハルカ。今日は泊まっていくんだし、いっぱい時間あるよね。

 一緒に狩りに行こうよ!」

いつものように悲鳴を混じらせながら、クルのお家にお邪魔して間もなく、

クルがきらきらした瞳で聞いてくる。


うん、さっき回復したばかりなんだけどな・・・

周りの景色が激しい揺れと共に駆け抜けていった、その後遺症はまだ抜けきっていない。


って、そういう問題ではない! クルにとって狩りは日常であり、生きるために必要なことでもあるのは、

これまで交わしてきた会話から、察することができるけれど、

そうしたものと縁遠い生活を送り、基礎体力だって全く敵わない私が付いていったところで、

文字通り足手まといになる未来しか見えない。


「ねえ、クル・・・一緒に行くのはいいんだけど、

 私、速く走ったり重いもの持ったりできないし、狩りのこと、何も分からないからね・・・?」

「大丈夫! そういうのは私がやるから! ハルカも来てみようよ!」

不安そうな顔をしているだろう私に、全く変わらない笑顔でクルが答える。

うん、とにかく一緒に行きたい、私にも見せたいってことだよね。


「う、うん・・・! それじゃあ、お願いね。」

「もちろん! 楽しみにしてて!」

本当に大丈夫かな・・・という気持ちが、それで消えるわけではないけれど、

クルが手招くその先を、私も見てみたいから、付いて行くことに決めた。

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