第4話

「ところで、ハルカのほうはどう?

 こっちにもっと来られるようになるかも・・・って話はどうなったの?」

お兄さんの話が一段落したところで、クルが聞いてくる。いつもより目が真剣。


そう、今までこちらの世界に来られたのは、三か月に一度くらい。

両親と共に都会で暮らしていた私は、学校が長期休みに入る度に、

田舎にある祖父母の家を訪れ、クル達にも会いに来ていたのだ。


そんな私も、この春で高校を卒業。

大学受験で第一志望に選んだのは、祖父母の家から電車で数駅のところ。

成績は大体クラスの真ん中くらいだったけど、受験勉強は頑張りました。

そして何とか受かりました。だから・・・



「うん、ここに来る場所の近くに、住むことになったんだ。

 だから、もっともっと来られるようになったよ!」

「本当! 嬉しい!!」

笑顔で言う私に、クルが勢い良く私に飛び付いてくる。


大学が決まれば、近くにある祖父母の家から通うのは自然な流れ。

志望校を決める時、両親と何度か話をすることになったのは仕方ない・・・

小さい頃から可愛がってくれた、祖父母がもう居ない家は少し寂しいけれど、

クルにたくさん会いに行けるのならば、田舎の一人暮らしだって平気だ。


「ちょっとクル、くすぐったいよ!」

顔をすり付けてくる友に圧されながら、こんなに喜んでくれるのが私も嬉しくて、

ぎゅっと抱きしめ返した。



「ねえねえ、ハルカ。こっちにたくさん来られるなら、狩りとかやってみない?

 一緒にご飯も作って・・・そうだ、うちに泊まっていこうよ。」

ようやく私の体を離したクルが、まだ興奮した様子で言う。


「か、狩りは上手く出来るか分からないけど・・・ご迷惑にならないなら、お泊まりはしてみたいかな。」

クルのご両親の顔をちらりと見ると、あっさりと了承してくれた。

あっ、お土産もちゃんと持ってこなきゃ。


「じゃあ、いつ泊まりに来る? 早速今日泊まっていく?」

「うーん、今日はさすがに急すぎるから、明後日はどうかな?

 ゆっくりできるなら、私のところの物も、もう少し持ってくるよ。」

気持ちとしては今日でも良いのだが、準備もあるだろうご両親に悪い気がするし、

これから大学生になる私にも、全く予定が無いわけでもない。


お菓子以外のものに、クル達が触れてどう思うのかも気になるし、

しっかり準備をしてからお邪魔したいな。


「えっ、気になる気になる! 私はいつでも大丈夫だよ。ねえ、いいよね?」

クルが勢い良くご両親に確認を取り、初のお泊まりが決定した。




「あーあ、早く明後日にならないかな。」

しばらく話し込んだ帰り道、来る時と同じように、

私を背中に乗せてクルがため息をつく。


行きは私が怯えるほどに速く走るけれど、帰りはゆっくりだ。

もちろん、私だって少しでも長くクルとの時間を過ごしたい。


「まあまあ、明後日なんてすぐだから。

 私は明日、ここに何を持ってくるか、考えて準備しておくね。

 それから・・・」

だから、もう一つ聞いてみたかったことを、

二人だけの今、口にする。


「クルは今でも、私が住む世界に来てみたい?」

「・・・! うん、うんっ!! ハルカのところ、行ってみたい!

 でも、難しいんじゃなかったの?」


「難しいのは、今もそうだよ。

 でも、私も少し大きくなったし、ここに来る場所の近くに住み始めたから、

 クルが私のほうに来られるように、頑張ってみたいな。」

「嬉しいっ! ハルカの所に行けるよう、私も頑張るよ!」


・・・クルの頑張らなきゃいけないことは、彼女の想像とは違うのかもしれない。

私が住む世界の人達から見れば、クルの姿はまるで物語の登場人物だ。


そうした格好に着飾る趣味を持つ人も少なくないけれど、それだけで周りの目を誤魔化すのは無理があるし、

別の世界からやって来たことも含めて、隠し通さなきゃいけないものは沢山あるだろう。

それでも・・・


「ありがとう! どんな風に難しいかの話は、次にこっちへ来た時にするから、

 本当に大丈夫そうなら、私のところも案内するね。」

私の住む世界に来てみたいっていうクルの気持ちを、無下にはしたくないし、

向こうでも一緒に歩きたいのは、私も同じなんだ。

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