第2話

「それじゃあ、起こすよ。せーのっ!」

私に覆いかぶさったところから、ぴょこんと立ち上がったクルが、

すぐさま手を取り、助け起こしてくれる。

・・・誰のおかげで派手に押し倒されたのかは、気にしても仕方ない。


「ふう・・・こんなことをしてると、こっちに来たって気持ちになるなあ。」

服のあちこちに付いた草を、ぱたぱたと払う。

辺りを見回して、空をちょっと見上げて、

クルが傍にいるのを感じたら、この世界にもただいまという思いが湧いてくる。



「じゃあ、早速私の家に行こうか。

 今日は狩りに出てないから、お父さんもお母さんもいるよ。」

「うっ・・・待って、クル。まだ心の準備が・・・」


「えー、早く行こうよ。甘いの持ってきてるんでしょ?」

これまでの経験から尻込みする私が、肩から提げる鞄に目をやり、クルが鼻をひくつかせる。

うん、私が住む世界の犬よろしく、いつもながら鼻が利く。


私だって、クルの家族と一緒にお菓子を食べるのは大好きだし、

早く行きたい気持ちはあるけれど、そこにたどり着くまでには、大きな問題があるのだ。



「ほらほら、早くしないと日が暮れちゃうよ。」

「ちょ、ちょっと待って・・・!」

クルが私をひょいと抱え上げ、そのまま流れるように背中に乗せる。


日々を過ごす環境の違いか、そもそもの種族の違いか、クル達の身体能力は驚くほど高い。

それ自体は本当に頼りになるのだけど、一緒に行動するのは簡単じゃないこともあって・・・


「足のほうはちゃんと持ってるから、しっかり私に掴まっててね。

 それじゃあ、行くよ!」

「あっ、待って・・・・・・い、いやああああああーーー!」



この草原を駆け回ることに慣れたクルの脚が、私を高速の世界に連れてゆく。

いや、単純な速さなら、大都市の間を結ぶ特急列車のほうが上だろうけど、

ああいった乗り物は、あまり揺れないように作られているから、

とてつもない速度の中でも、安心して座っていられるのだ。


一方、整備などされているはずもない、でこぼこの地面を飛ぶように走るクルの背中は、

その揺れも、土を踏みしめる衝撃も、私の全身に直接伝えてくる。


例えて言うならば、遊園地で一度試しに乗ってみた結果、

自分には耐性が無いのだと気付いてしまった、絶叫マシーンと呼ばれるものと同等である。

お願い、誰か助けて・・・・・・真っ先に助けてくれそうな子が、主な原因なのだけれど。




「はい、着いたよ。思いっきり走ると、やっぱり気持ちいいね。」

「クル、お願い・・・少し休ませて・・・・・・」

私を背中から降ろし、気持ち良さそうに伸びをするクルの横で、ふらふらと地面に倒れ込む。

頑張ったよ、私、頑張ったよ・・・・・・


「ねえ、クル。いつものお願いしていい?」

「しょうがないなあ。その代わり、元気になったら早く一緒に甘いの食べようね?」

クルが少し面倒そうに言いながらも、尻尾を揺らしつつ私を膝枕してくれる。

『犬の民』と言うだけあって、クルの足はもふもふである。

そう、夢のようなもふもふの膝枕である。


そもそも、私がこうなったのはクルが原因でもあるので、

これくらいのお返しはもらってもいいだろう。

回復するまで暫しの間、寝心地の良いクルの膝を堪能するのだった。

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