第13話 事後処理と赤ドレスの君
オレガ達が町の異常事態を防いで三日が過ぎた。
「オレガ君、その……調子はどうですか?」
「…………」
メノシータの問いに顔を背けるオレガは現在自室のベッドに横たわる。オレガは最終奥義と言える「
少し話変わって「
そしてあの時の状態は緊急事態も相まって服を脱ぐ余裕など無い、加えて「炎武零式」は彼の体全体をピィちゃんの炎で纏う奥義――つまり。
「……その、いい身体でしたよオレガ君」
「ぐすんっ」
半分意識を失っていたという事は、半分意識があったという事。
――あの時の一コマ
崖上で姫様に抱かれたオレガの状態は生まれたままの姿。そこに勝利と労いの一言を掛けようと嬉々として集まる近衛隊は彼の体の一部分を凝視していた。
「うむ、なかなかのサイズだ」
「左向きね」
「こらっ! お前達そんなに見たら(チラチラッ)」
「俺 の 負 け だ!」
「前もいいネ!」
「ナゼはやらんぞっ!?」
姫様はオレガをギュッと抱いた。
「――もうお婿に行けません」
生まれたままの姿を先輩達に見られた彼は自室に引きこもったと言えなくもない。けれど実際は体力や精神力を根こそぎ持っていかれたので動けないのは事実。
「心配せずとも妾がもろうてやるでな」
「姫様っ! すみませ……」
「よいよい、寝ておれ」
メノシータが入ってきた扉からサカリナ・ヨル・ヤルヨが桶を持ってやってきた。本来であれば執事達が彼の世話をするはずだったが、「命の恩人の奉仕は妾がする」と強い口調で言われたので引き下がった。
「調子はどうじゃナゼよ」
「はい。身体はまだ半分といった所でしょうか」
「うむ。しっかり食べて良く寝る事じゃ」
「ありがとうございます」
サカリナは湯気が出るタオルを絞りながら彼の体を起こして背中や脇を拭いてゆく。その様子を見てメノシータは少しモヤモヤした感情になる。
「姫様、私がやっても?」
「ならん」
「少しぐらい」
「下心が見えておるわ!」
「姫様も下心満載でしょうに」
「当たり前じゃ!」
不毛な争いが繰り広げられていた。
姫様とメノシータの信頼関係(?)がそうさせているのだろうか。
「あの……下は自分でできます」
「もっとならんっ!」
くわっ!
という擬音が出てきそうな剣幕の姫にオレガは無の心になる事にした。
メノシータはしばらく姫とオレガのやり取りを凝視していたが仕事モードに入ると報告も兼ねて教えてくれた。
「――オレガ君の力に関しては近衛隊内だけの秘密にします」
「ありがとうございます」
誰にも知られたくない事はある。
それに彼の力はともすれば一国を傾ける程強大なものだと理解できたから。それに姫様はその事を知っているご様子。メノシータはそこを深く追求するつもりはない。
「村についてですが現在騎士団に調査依頼を出しています。そちらにはアキヨとウルサが同行してます」
「ウシロガさんとミギノヤツさんがですか?」
意外な組み合わせだと驚くオレガ。
「はい。アキヨは言わずもがな故郷の事象に似ているから。ウルサはあぁ見えてアキヨの事を心配しているのですよ」
近衛隊の内部事情を少しだけ理解した。
「という観点から姫様の護衛にさける人数は現状、私、ナガス、ムキニの三名です。この事から姫様は城から出ないでくださいね!」
「むぅ、しかし……」
「く だ さ い ね?」
「……わかったのじゃ」
ミギノヤツ先輩のような圧力の隊長に少しだけ恐怖を感じたオレガであった。
そして昼食まではオレガの部屋にいるという姫の言葉を信じて隊長は事後処理があるとの事で部屋を出ていった。
「姫様、その……今回の事は」
「うむ。察しておろうがナゼの後悔を払拭する為に発案したのじゃが」
近衛隊に入った以上、切った張ったは出てくる事。その為にシャベリン・ジャベリンを相手に訓練をしてもらおうとサカリナは考えていた。
「あの町での事は予想外じゃった」
「ですね」
誰もが予想できない事。
しかしウシロガ・ガラ・アキヨという当事者のお陰で仮説は付けられる。
「ギマン国という国があったんじゃがの」
「はい」
「過去に栄華を誇った大国じゃったのじゃが、先代の王が疑り深い性格でな」
「その国がウシロガさんの故郷を滅ぼしたんですか?」
オレガの問いに頷くサカリナ。
「ヨッキュー国含む連合国が首謀者どもに天誅を下したのじゃ」
「もしかしたらその生き残りがいたという事でしょうか?」
オレガの顔に少しだけ緊張が走るが、「仮説じゃがな」と姫は言う。
「今はそんな事を気にする必要は無い。むしろ早めに対処できたと思えばプラスでな」
「そう……ですね」
行きを正規ルートで進んでいたらと少しの後悔はあるがそれは言わない約束。
部屋全体からしんみりとした雰囲気を漂わせていると突然ノックも無しに部屋の扉が豪快に開かれた。
――ドバァァンッ
「オーッホホホホホ!」
開いた主は高飛車な笑いを発しながら金髪縦ロールをいかんなく振り回す。
「げっ!?」
一瞬思考がフリーズしたサカリナだったが真っ赤なドレスと金髪縦ロール、さらには耳に付く笑い方を聞いて顔をしかめる。
そして真っ赤なドレスの君は真っ直ぐにオレガの方へヒールを打ち鳴らし歩いてくる。
「アナタ名前は?」
キョトンとしたままのオレガは聞かれた意味を理解するのに数秒を要した。
「そう、ワタクシから名乗らせるのね。いい度胸じゃない」
それを別の意味に取った赤ドレスの君は鼻をフンッと鳴らしながら大仰に口を開く。
「ワタクシはタベーテ・ノン・デリシャス! この国の姫よ! 敬いなさいっ!」
その名前にオレガの顔は真っ青になった。
聖職の姫さまの「せいしょく係」に任命されたけど、その職業初耳です トン之助 @Tonnosuke
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