Episode.14 Chaos

 さて……これからは心機一転! 自分からは『結婚して』と言わずに生活するぞ!


 今日はオフなので、久しぶりにウィンドウショッピングに出かけることにした。


 ちなみに、私が住んでいるのは『八本足』町……『やもたし』町と読む。


 ……実はこの名前も気に食わないのだが『はっぽんあし』と読まないだけ良いと思って諦めている。


 『八本足やもたし駅』に向かって歩いていると早速「お姉さんひとり?」と男性が声をかけてきた。


 その男性ひとは、暫く私の顔を見てフリーズしたあと「か……可愛い……」と、真顔でボソっと呟いた。


『じゃあ、結婚して!』


 ……と言いそうになり、慌てて止めた! 


 危ない危ない! ……条件反射で、つい口からいつものセリフが出る所だった(汗)


ね〜」……と手を振って別れようとしたが、その男性は付いてくる。


 ……別の男性が近付いて来て……


「こいつ、女性と見ると誰にでも声を掛けてるみたいですから、無視して良いですよ」……と小声で教えてくれた。


 ……その男性も私の顔を見て「か、可愛い!」と言った。


「可愛い? じゃあ結婚……」


 危ない危ない! また言っちゃう所だった(汗)


「じゃあで〜す」と適当に誤魔化して先を急いだ。


 すると、またまた別の男性が……


「可愛いお姉さん、こんな所を歩いていると続々とナンパされちゃうよ! 俺の車に乗りなよ!」


「おねいさん! 乗るなら俺の車にして!」


「俺の車の乗り心地は最高だぜ! 行こうよ!」


「いや! 俺だっ!」


 ……ん!?


 うわぁ~〜〜〜!


 ふと見渡すと、私の周りは男性だらけ! 黒山くろやま人集ひとだかりができている!


 結婚はしたいけど、いくら何でもこれは多すぎ〜(泣) 


 さすがに怖くなったので、パンプスを脱ぎ、裸足で脱兎の如く逃げた!


「可愛いおねえさ〜〜ん! 待って〜〜っ」


 必死で逃げるが、地鳴りと共に男達が迫って来る!


「ウ〜〜〜〜〜ウ〜〜〜〜〜〜〜」……と、サイレンが鳴り響き、回転灯が見えた。


 パトカーだ! ……騒ぎに気付いた誰かが通報してくれたんだろう! 助かったぁ〜


 パトカーのドアが開き、中からお巡りさんが「お嬢さん! 早く乗って!」と言ってくれた!


 急いで乗り込むと……


「警官があのを独り占めにしたぞ〜」

「そうはさせるか!」

「彼女を取り返せ〜〜」

「うおーっ!」


 男達が駆け寄り、パトカーをちからづくで抑え込んだ。 ……エンジンが空回りして、金切り声のような異音がした!


「……こちら八本足やもたしいち! 『マル被』と思われる人物を保護するも、暴徒に包囲され進めない! 至急『マル援』う」……と、お巡りさんが無線機のマイクに向かって叫んだ!


『警視庁から各局! 八本足やもたし駅前にて暴動発生! 機動隊出動のようありと認む。 繰り返す……機動隊出動の要ありと認む!


 けたたましいサイレン音と共に、たくさんのゴツい警察車両が到着し、盾を手にした機動隊員が大勢降りてきて、男性達と揉み合いになった。


 お巡りさんが……「お嬢さん、残念だが、このパトカーでは君を守り切れない。 機動隊の装甲車に君の身柄を移す。 もう少しの辛抱だよ!」と言った。


「は! はい!」


「特警いち! 放水を頼む! 暴徒がひるんだ隙にそちらに向かう! ……そして、本官の代わりに『マル被』の保護を……頼む!」


『特警いち了解! 貴官の無念は我らが晴らす!』


『バシュ〜〜〜〜〜〜〜〜!』


 巨大なバスのような車両からの放水で、パトカーの前にいた男たちが逃げ出し、車が一台通れるくらいの道が現れた!


「強行突破するぞ! お嬢さんしっかり掴まって!」


「……お巡りさんは……大丈夫ですか?」


「なぁに! 貴女あなたのような可愛い女性を助ける為なら、例え死んでも本望さ!」……と言って笑顔を向けてくれた!


 なんて……素敵な笑顔!


 も……もしかして、このお巡りさん……私の運命の男性ひとでは?


「せめて……せめてお名前だけでも!」



「本官は『柄池えち……柄池 伸太のびた巡査長』であります!」


 えち……


 のびた……


 …………結婚したら……


柄池エッチ 使手恵してえ


 ……あるいは……


蛸殴たこなぐり 伸太のびた


 ……


 はい、さよ〜なら(泣)



 そのあと……私は機動隊員に変装して無事に帰宅出来たのだが、騒ぎは収まる気配がなく、暴徒と化した男たちは、私の開放を求めて、車やバイク、更にはトラックや重機まで持ち出して、機動隊との大乱闘を繰り広げた。


 事態を重く見た内閣総理大臣は、自衛隊の治安出動を命じ、圧倒的な武力をもって、これを制した。 ……実に7日間にも及ぶ、長く苦しい闘いであった。


 のちに『八本足やもたし駅前ナンパ未遂事件』として語り継がれるこの事件は、こうして幕を閉じた。


 ……って……なんでこーなるの〜!?(泣)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る