Episode.12 Destiny

 宏美は吹き出していたが、私にとっては切実な問題だ。


 前にも言ったが、私は周りの人たちから『蛸殴たこなぐりさんて、名前は酷いけど顔は可愛いね』と言われ続け、やれスカウトだ、やれ美少女コンテストに出ろだ……と騒がれ続けてきた。


 しかし!


 テレビや雑誌に出た時、私の顔に『蛸殴たこなぐり 使手恵してえ』という名前が重ねられる……と考えただけで、恐怖で目の前が真っ暗になり、かたくなに断り続けてきた。


 この『名前』という『恐怖の呪縛』から逃れる方法はたったひとつ! 


『結婚して名字を変える』!


 それしか無かった。


 ……それを知った日から、私を『可愛い』と言ってくれる男たちに『結婚して下さい』と懇願してきた。 しかし、どの男も笑いながら去っていった。 な……なんでぇ〜⤴!?


 あ……そう言えば、たった1人、『良いよ』と言ってくれたひとがいた。


 ……彼は私の理想そのものだった。 優しく、強く、顔も良い!


 この人こそ、私の運命のひと! 勇者さま! キング&プリンス! 私を地獄の底から救い出してくれる人だ!


 そう思っていた。


 喜び勇んでその事を友人に報告すると、その子は心配顔でこう言った……


「本当に良いの? めぐみ、その人と結婚したら……」


『ガ〜〜〜〜〜〜ン』……と、頭をバールのような物で殴られたような気がした!


 そのひとの名前は『渕航路ぶちころ 慶牙けいが


 私が彼と結婚したら、名前が『渕航路ぶちころ 使手恵してえ』(ぶち殺してぇ)、あるいは『蛸殴たこなぐり 慶牙けいが』(タコ殴りケガ)の2択になる事を指摘された……


 い……今より酷い(泣)


 ……それと同時に彼との結婚願望は綺麗さっぱり消え、さよならした。



 ……男なんて星の数ほどいる。


 この広い世界のどこかに、必ず私の名前を理想に変えてくれるひとが存在する……


 そう信じ続けてきたが、未だに結婚出来ない。


 私ももう二十歳をとっくに過ぎた。20年以上も現れなかった理想のひとが、あと数年のうちに現れるんだろうか? そもそも女と男って、どーすれば仲良くなれるの?


 ……と、それを私が心の奥底で好きだった瀬楠のハートを射止めた宏美に聴きたかったんだ。

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