終幕
これは少し前の事。
ヒカリ達は、盾となってくれている悪魔の健闘も虚しく、悪魔の頭上や左右からすり抜けて来る、シーアの暴走した魔力に襲われそうになっていた。
だが、それに反応するかのように、ヒカリの髪に結んである「ピンクのリボン」が光りだして、強力な結界を生み出し、それによって事なきを得ていた。
子を想う母親の強さに護られながらも、事の顛末を見届けるしか出来ないという事実に、ミライ、デーオス、そしてヒカリは、暴走した大魔力に猛然と立ち向かう悪魔の背中を見つめ、歯がゆい思いをしていた。
……そして、見事に全てを最後まで受けきった悪魔。
世界を救い、倒れゆく悪魔を抱きとめたヒカリは、わずかに言葉を交わし……。
「ダメ!死なないで!
「ヒカリ……」
「
「姉御……」
「どうして……うぅ……」
ヒカリは慟哭した。
「どんな事が起きようとも、決して涙は流さない」
そうヒカリは心に誓っていたはずなのに。
ヒカリの膝枕の上で、安らかな顔つきで目を閉じている悪魔。その顔には、ヒカリの涙の雫がポタポタと落ちている。
「……起きてよ……起きてってば!!」
しかし、悪魔からの返事はない。
「成し遂げられぬ事はないんでしょ?……なんで……なんでよ!?」
脱力した悪魔の身体を激しく揺さぶりながら、ヒカリは呼びかけ続けた。
……そして。
「もうやめなさい!ヒカリ!」
「……ミライ?」
「悪魔は……充分アタシ達を助けてくれた……もう休ませてあげよ?」
ミライも泣きながら、ヒカリに訴えた。
そのすぐ横で、デーオスもわんわんと号泣していた。
ヒカリは、ミライの言葉と、2人の姿を見ると、少しずつだが我に返り、改めて悪魔の顔を眺めた。
「…………ゴルロラヴィン。こちらこそ、ありがとう」
ようやく決心がついたのか、ヒカリはそう悪魔に呟くと、そっと膝枕していた頭を地面に置いた。
すると、とても色彩やかな光の粒子が、悪魔の全身を包んだ。
ミライ、デーオス、カイモスと残ったリーピ村の悪魔達、そしてヒカリは、跪いて祈りを捧げた。
やがて、悪魔自身の身体も虹色に輝く光の粒子となって、サラサラと風に流される様に消えていった。
ヒカリはその粒子を見送ると、顔中を覆っていた涙を袖で拭い、軽く頬を叩いて気を引き締めた。
そして……
「……私には、まだやらなきゃいけない事がある」
そう呟いて神導院の壇上の方へと走って行った。
「シーア先生!!」
「……ヒ……カリ……?」
「待っててください!すぐに魔法で……」
「……もう、いいのよ」
「はい?」
「私は……我が子のように育てた神導院の子達を……裏切ったのよ?」
「……確かに、シーア先生の犯した罪は、許されるモノではありません。でも……それとこれとは別の話です。私は目の前の困っているシーア先生を助けたいだけなんです!」
「……フフフッ……不思議だわ……最初は抜け殻の様だったのに……あっという間に成長して……時には問題児だったあなたが……こんな素晴らしい子に成長するなんて……」
「……先生、それは言い過ぎです」
「……ゴメ……ゴホッ!ゴホッ!」
「せ、先生!?」
「ハァハァ……私ももう限界のようね……」
「諦めないで下さい!……私が……何とかしますから!」
すると、シーアはヒカリの両手をギュッと握った。
「この程度しか残ってないけど……ヒカリ……あなたは……立派な「神」になりなさい」
そう言うと、シーアはわずかに残されていた魔力を全てヒカリへと渡した。
……そして、そのまま眠るように息を引き取った。
「……シーア先生」
「ヒカリ!シーア先生は……?」
ヒカリはうつむくと、首を横に振った。
「……そう」
「でもね……私、「神」になれたみたい」
ヒカリは今まで感じたこともない魔力が、身体の内側からどんどん湧き上がってくることで、確信した。
「えっ?嘘?」
「姉御が……?」
「しかし……「神」と言われても、見た目は変わっとらんようだが……」
「シーア先生や……ゴルロラヴィンも言ってたじゃない。「神」とは魔力を持ちすぎた人間の成れの果てだと。私……今、自分でも信じられないくらい、魔力を感じるの」
そう言うと、ヒカリは宙に浮いて見せた。
その光景に驚きを隠せない面々を後目に、魔法を唱えた。
「
すると、世界中を覆っていた暗雲が晴れていき、地上に光が差し込んだ。
そして、魔力を抜かれ、動く事さえままならなかった、神導宗の仲間達や、リーピ村の悪魔達が、一斉に動き出した。
だが、それと同時にヒカリは悟った。
「こ、これは……?」
「あっ!ヒカリ?なんで浮いてるの?」
「キャアッ!なに?あ……悪魔!?」
「え、えーっと……どこから説明すればいいのかな……?」
ヒカリは、困惑するみんなを見て困惑したが、胸を張って堂々と大きな声で叫んだ。
「えー、私、ヒカリは、「ゴルロラヴィン」という英雄のおかげで「神」になりました!これから私は、ゴルロラヴィンの功績を後世に語り継ぐと共に、世界平和を目指して頑張っていく所存です。皆さん、これからもよろしくお願い致します!!」
「ヒカリのくせに……素晴らしい決意表明ね」
「姉御……最高ッス……」
「でもよぉ、あんな美人なんだから、「神」じゃなくて「女神」じゃないか?」
「おっ!お前上手い事言うじゃねぇか!」
「いやいや……悪魔さん達、あの子は見た目は美しいですけど、性格が……」
「こ、コラ!神に向かってなんて事言うのよ!裁く?裁くわよ?」
「……ね?」
「……確かに」
「ぐぬぬ……お前らぁ!!」
「キャァー!神に裁かれちゃうわー!悪魔さん達も一緒に逃げましょ!」
「おう!そうだな!お前ら!逃げろ逃げろ!」
「……やっぱり姉御は姉御のままッスね」
「そうね。でも……ヒカリならきっと……」
―― こうして、ヒカリと悪魔の長い旅は、幕を閉じた……。
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