復活
「ハァハァ……もう疲れたぁー!」
「こらヒカリ!シャキッとしなさい!」
「だって……疲れたんだもん……休もうよぉ」
ここまで来て、ヒカリは幼児退行のような言動が目立つようになった。
今まで「一人旅」だったり、「悪魔と一緒」だったり、「リタとヘクの保護者」だったりと、ずっと緊張感が続く旅をして来たヒカリ。
今は信頼できる親友が隣にいて、更には自分に忠実なしもべがいることもあってか、心に隙のようなものが生まれたのだろう。
それは良いことでもあり、悪いことでもあることは、言うまでもない。
「デーオス、何かいい魔法とか使えないの?」
「と、とんでもねぇ!あっしなんか悪魔族の中でも、貧弱で脆弱で最弱なんスから!」
「えー、そんなこと言わないで、何とかしてみなさいよぉ」
「うーん……せめて姉御を背負って歩くくらいなら……」
「それはダメ!私の高貴な身体が汚れるわ!」
「……ヒドイ言われようッス」
「ねぇミライ、何とかならない?私、ここまでみんなの為に頑張ったじゃない」
「……ハラー生産してただけじゃん」
「えぇー!大事なことじゃない!腹が減っては何とやらよ!」
「アタシだって
「ミライのと一緒にしないで!私はハラーを極めし者……ハラーを甘くみないでよね!!」
「まだ叫ぶだけの元気はあるみたいじゃない」
「ハラーの事になると、つい……ね」
そんなヒカリの幼稚さに嫌気が差したのか、ついにミライが譲歩した。
「……もう!しょーがないなー!アタシがヒカリを直接呼びに行った分、アタシ達が多分一番遅れてると思うから、ここからは一気にスピードアップよ!」
「さっすがミライ!話がわかる!」
「デーオス!あんたちょっとその辺に立ってちょうだい」
「へい、……この辺りッスか?」
「そう!……ていうか、今更だけど、デーオスってよく見るとイイ男よね」
「へへっ、そうらしいッスね!前も言いやしたが、城下町で色んな女性が大した用事でもないのに、やたらと「助けてください!」って言い寄ってきやした!」
「……あっそ。何か、自慢げに話すから、一気に冷めたわ」
「へっ?」
ミライはまるで無関心な態度になった。
それを誤魔化すかのように、ヒカリが尋ねる。
「そ、そういえば、アンタ達、悪魔族?が着てる服って、似たり寄ったりよね?」
「あぁ、コレッスか?そう言われると、気づけば悪魔族は、みーんなこんな感じの服装になってたッスね」
「どういう原理なの?」
「わかんねぇッス」
「……設定がテキトーだわ」
「そんな事言われても……。そもそも「悪魔族」ってのは、地獄界にギャァァァァァ!!」
デーオスの話を遮って、詠唱を済ませたミライが、魔法をデーオスにぶつけた。
「
すると、デーオスの身体がチカチカと明滅した後、モクモクと煙に包まれた。
「な……なんかヤバそうな雰囲気だけど……大丈夫なの?」
「へーきへーき!」
「デーオス、悲鳴上げてたわよ?」
「大丈夫だって!まぁ見てなさい!そろそろだから!」
ミライがそう断言すると、デーオスを覆っていた煙が消えていく。
すると、そこには何と「馬」の姿に変化した、デーオスの姿があった!
「み、ミライの姉御……まさか……」
「そのまさかよ!」
そう言うと、ミライは勢いよくピョンと股がった。
「ほら!ヒカリも早く!」
ミライは手を差し伸べ、その手を掴み、恐る恐る股がったヒカリ。
そして、ミライは元気よく大きな声で、
「よーし!神導院まで出発よ!!」
と、叫んだのだが……。
「あ、あのー、ミライの姉御」
「何よ?早く走りなさい!馬のように駆け巡るのよ!」
「……うまく身体が動かせないッス」
ヒカリ一行の元に、一陣の通り風が吹いた。
「何でよ!?アタシの魔法は完璧なはず……」
「あっしにもわかんねぇッスよ!とにかく思い通りに動けなくて……」
「……そっか!まるで構造が違う生き物に変化させると、拒否反応が起こっちゃうのか。一つ学んだわ……」
「学んだわ……じゃねぇッス!どーするッスか?あっしは、いつまでこの姿のままなんスか!?」
「アタシが「解除」するまでよ」
「えぇ?そ、そんなぁ……」
「……ミライ、ここは私に任せて」
ミライの後ろに股がっているヒカリが、何やらカバンの中をゴソゴソし始めた。
「……あった!コレよコレ!」
リーピ村を出発する際に「悪魔」が折った、リタとヘクの父親の形見の剣。その折れた剣先が、そこにはあった。
「リタがいつか大きくなった時に、鍛冶屋で修理してもらって使いこなせるようになれば……と思って拾っておいた物が、まさかこんな形で役に立つなんて……」
そう言うと、ヒカリは折れた剣先を、持ち歩いていた布でグルグルと巻いて、自分の腕と一体化させた。その見た目はさながら太い棍棒の様だ。そして、「馬」の状態のデーオスの
バコン!!
【いっ……痛いッスゥゥゥッ!!!】
大声を張り上げたデーオスは、痛みのまま、そこら中を駆け回った。
「やった!動いた!」
「ホラホラ!このまま北まで向かう……のよ!!」
バコン!!
【ギャァァァァーーッス!!】
デーオスはまるで本当の馬のように、北に向かって走り出した。
「やるじゃないヒカリ!」
「いやいや、私じゃなくて、デーオスが頑張ってる……のよ!」
バコン!!
【ヒヒィィィィン!!】
最早、本物の馬のような叫び声を上げたデーオスは、物凄い速度で荒地を駆け抜けて行く。
そしてついに、神導院の跡地が見えてきた。
大理石で造られ、まるで神殿のようにそびえる立派な建物だったが、今はその見る影も無い。
しかし、鮮やかに咲き誇る色とりどりの花たちは未だ健在のようで、ここが神聖な場所である事を主張しているようにも見える。
段々と近づくにつれ、シーアによって呼び戻された、他の修道女達の姿も見えてきた。
「デーオス!もういいわ!止まって!」
突然そう告げられたデーオスは、まだ身体の操縦がうまく出来なかったのだろう。急ブレーキをする形になり、結果、股がっていた2人は勢いよくポーンと飛ばされた。
キャン!と尻もちをついて着地した2人は、身体の痛む箇所を摩りながら起き上がり、デーオスに一瞥くれると、そのまま皆が集まっている場所へと歩いて行った。
「ゼェゼェ……あ……あっしは、いつまでこのまま……ッスか?」
独り言虚しく、デーオスはドサッと倒れ込むように寝転んだ。
「うわぁ!ヒカリだ!」
「ミライも!久しぶり!」
「みんな、久しぶりね!」
ヒカリとミライを含めた20人は、再会の喜びを分かち合うと共に、これまでのことや、これからのことなどの話に花が咲いた。
「あっ!そうそう!ヒカリ!ミライ!ほら見てみて!」
1人の修道女が地面を指差した。
そこには、ヒカリ達には意味不明な言語で書かれた文字列や、不思議な形の図形が描き込まれた、とても大きな「魔法陣」が白くゆらゆらと光っていた。
「きっと、この魔法陣を使って神を復活させるのよ!」
その修道女は少し興奮気味に、はしゃぎながら、ヒカリとミライに言った。
そんなこんなで、みんなと一緒に盛り上がっていた2人だが、会話をしながらも、気づけば改めて神導院の現在の様子を観察していた。
「修繕活動」のおかげか、何本かの柱や、小部屋、スピーチをする為の壇上の様な部分は、何とか原型を留めていた。
そして、神導院の脇には瓦礫が高く積まれていた。
「アレよアレ!アタシが手伝ってた!」
「あぁ、ミライが言ってた「修繕活動」のことね?」
「そう……聞こえは良いけど、実際は瓦礫を運び出すだけのただの力作業だったわ……。これが辛くて辛くて……」
―― その時だった。
「皆、無事に戻って来れたみたいで何よりだわ。おかえりなさい」
いつの間にか、その壇上に、シーアの姿があった。
相変わらず、白髪ではあるものの、五十代とは思えない若々しい女性である。
【シーア先生!!】
一同はシーアとの再会に、全身を使って大いに喜んだ。シーアに対する厚い信頼と尊敬を、皆が持っていることがわかる。
キャーキャーと騒ぐ修道女達を、嬉しそうに優しい笑顔で眺めるシーア。しかし、いつまでも騒ぎ続ける修道女達に対して、次第に笑顔がピクピクと引きつってきた。
【黙りなさい】
シーアが一言。それだけで、あれだけ騒がしかった修道女達は一斉に静かになった。
「はい、よく出来ました」
そう言ってニコリと笑いかけるシーア。
「……これだわ」
ヒカリがとても小さな声で呟く。
「何が?」
ミライもそれに合わせて聞き返す。
「アンティが言ってた「言葉の力」……よ」
「……確かに、みんな言いなりだわ」
「でも、何で私たちには効いてないんだろう?」
「そうよね……何か心当たりは無い?」
「うーん……あっ!そう言えば、昔の私は、確かに「言葉の力」に従っていたわ」
「まだ神導院で勉強してた頃ね?その時と何か違いがあるとすれば……」
2人のヒソヒソ話を遮るかのように、シーアは20人全員の顔を眺めながら語り始めた。
「……これまでの旅で、あなた達は何を学びましたか?」
すると、1人の修道女が答えた。
「私は、神の偉大さに気付かされる旅でした。行く先々で争いが起こっていて、人々はみんな……苦しそうに見えました」
別の修道女も答える。
「私は誤解を恐れずに言うと、逆に人々から元気をもらった……そんな旅でした!修道女としては失格かもしれないですが、沢山の笑顔に出会えて私は満足です!」
「あたいは何だかガッカリしました。あたい達に頼るばかりで、自分達では何も出来ない……。そんな人々に喝を入れる旅でした」
20人もいれば、20通りの意見がある。シーアはその一人一人の言葉を真剣に聞き入っていた。
そして……
「ミライの働きぶりは、この目でずっと見てきましたから、何も言わずともわかります」
「は、はぁ……」
「……ヒカリ、あなたはどうだったの?」
「私……ですか?」
ヒカリは言葉に詰まった。
先に答えた修道女達の意見に、ヒカリは概ね賛同していた。
だが、そこには何かが足りない。
「善」とは何か。「悪」とは何か……。
「悪魔」と交流していく内に、その定義が一体何なのか、ヒカリにはまだ答えが出せていなかった。
「……正直、わかりません」
「わからない?」
「はい……申し訳ありません」
「……そう。でも、それも一つの答えなのかもしれないわね」
そう言ってヒカリに微笑みかけるシーア。
「シーア先生……」
「あなた達が何を学んできたのか、よくわかりました。しかし、皆が感じたこと、経験した事は決して無駄ではありません。そういった困難を乗り越えてこそ、皆に魔力が湧き上がるのですから」
シーアは目を閉じて、大きく深呼吸をすると、にこやかだった顔つきから一転、真剣な表情へと変わった。
「……それでは、復活の儀式を始めたいと思います。私が三日三晩かけて描いた「魔法陣」……それを囲むように並んでください」
シーアに言われるがまま、修道女達は円を描くように魔法陣の周りを囲んだ。もちろん、そこにはヒカリとミライも混じった。
「そして目を閉じて跪き、祈りを捧げるのです。「神よ、復活を遂げよ」……と!」
修道女達が祈り始めると、それに共鳴するかの様に、魔法陣から円柱状の白い光が現れ、天高く昇って行った。
「こ、これは……。私の想像以上に皆、魔力を高めていたのですね……素晴らしいわ!」
興奮しながら語るシーア。そしてそのまま続けた。
「これで準備は万全……そろそろ最後の段階に進みましょうか」
そう言うと、シーアは
【皆の持つ魔力。その全てをこのシーアに渡しなさい】
と、「言葉の力」と思われる、語気を強めた不可解な言葉を、修道女達に言い放った。
すると、修道女のほとんどがバタリと倒れ込んだ。まるで魂が抜かれたかのように、顔の血色は一気に悪くなり、指先一つも動かせぬ程に身体は硬直していた。
そして、修道女一人一人の頭上には、その者が持っていたであろう「全魔力」が白い光球となってフワフワと浮かんでいたが、「魔法陣」から発せられる白い光の柱へと、まるで吸収される様に消えていった。
無事にその場に残されたのは、ヒカリとミライの2人だけだった。
2人はあまりの出来事に、大混乱していた。
「……はて、あなた達はなぜ私の言いなりにならないのかしら?」
「そ……そんなことより、これは一体どういう事なんですか?」
【黙りなさい】
シーアはまてしても「言葉の力」を使った。
「……シーア先生。無駄ですよ?アタシとヒカリはなぜだかあなたの「言葉」の影響を受けないようです」
やはり2人には効き目が無い。そう感じとったシーアは、少し考える素振りを見せた後、ヒカリとミライに問いかけた。
「もしかして、あなた達……私のバカ息子に会ったのでは?」
ヒカリはその言葉を待っていたかのように、怒涛の勢いでシーアを問いただす。
「やはり……アンティはシーア先生の息子だったんですね?なぜ実の息子にあんな悪事を働かせたんですか?それに今のこの状況だって……。シーア先生、あなたの目的は一体何なのですか!?」
「勘違いしないでほしいわ。あのバカ息子とは、とっくの昔に親子の縁を切っているのよ。だから、あの子がどこで何をしようが、私には関係の無い事……。ただ、残念なのは、あの子の中途半端な言葉の力に、あなた達2人が関与してしまった事。この「言葉の力」はあくまで言葉を巧みに操り、相手の心を意のままにする「技術」であって、「魔法」でも何でもないのよ。それをあの子が真似をして、そして看破されたのだとしたら、私の「言葉の力」も通用しないわ。それはもう、種も仕掛けも無いただの言葉でしかないのだから……」
真実を聞かされたヒカリとミライは、一つ謎が解けた事によって顔を見合わせたが、まだ混乱状態は続いていた。
「そして、今のこの状況について、だったわね?……そもそも、あなた達は「神」の本質を理解しているのかしら?」
「……どういう事ですか?」
「神とは……魔力を持ち過ぎた人間の成れの果てなのよ」
「な……なんですって……!?」
「そして、今は亡き「神」の正体は……私の夫」
シーアの突然の言動、倒れていった仲間達、言葉の力の秘密、そして「神」の正体……。
ヒカリとミライが受けた衝撃は、計り知れないものだろう。2人ともが揃って絶句し、唖然としていた。
「私たち夫婦は、無能な息子を家から追い出し、いずれ来る「神」の世代交代にむけて、「神導院」を造り、未来の「神」を育成していた。しかし……その時があまりにも早く来てしまった……。どこぞの悪魔によって、夫は亡き者になったわ。でも、ただでは死ねないのが神たる所以。死の間際、わたしの脳内に天啓が届いた……」
―― 私の「種」を、ある女に託した。その「種」を見つけ出し、大事に育て上げろ
「私は躍起になって探し回ったわ。そして見つけた」
シーアは壇上から指を差した。
「あなたよ、ヒカリ」
「……えっ?」
「あなたは「神」の力をもつ、特別な存在なのよ!」
ヒカリには、2年以上前の記憶がほとんど残っていない。
それが意味することは、最早、言うまでもなく……。
「わ……私が……神の……?」
「何があったのかは知らないけれど、抜け殻みたいにフラフラと歩いているあなたを見つけた時、私はすぐに理解したわ。「この娘」が「種」なんだと。意識は朦朧としているのに、異様なまでの魔力をあなたから感じた私は、あなたを大事に育てたわ。夫の忘れ形見ですから。……それなのに……それなのになぜ……どうして……!!」
突然シーアは発狂したかの様に、「魔法陣」から発している白い光の柱の向かう先を、天空から、掲げた己の右手に誘導した。
「私もただ黙ってこの2年を過ごしていたわけじゃない!皆が魔力を集めて持ち帰る日まで、その魔力を受け止めきれる程の「器」になれるよう、日々修練してきた……。ヒカリ!「器」になる資格はお前だけのものじゃない!!」
そう言い放つと、シーアは右手に向かう白い光を、握り潰すように体内に取り込んだ。
その瞬間、シーアの身体から目が眩む程の激しい光が放たれた。
そして、世界中の空に暗雲が立ち込め始めた。
城下町で友達と話していたメラン。
食糧となる動物と戦っていたリタ。
それを後方から支援していたヘク。
賑やかになったアマルティア国民。
その国民をバルコニーから眺めていたフォス王。
城に戻る道中、馬車を走らせている部隊長と、その中にいるアンティ。
全速力でここまで駆け抜けた疲労を癒すように横になっていたデーオス。
皆が同時に空を見上げていた。
「ワタシハ……神ニナル……ソノ……仕上ゲニ……ヒカリ……オマエノ魔力……ワタシニ寄コセェェェェ!!」
まるで別人となったシーア。高すぎる魔力の影響か、白髪は逆立ち、目の色も白く変色し、全身を駆け回る魔力によって身体は宙に浮き、あれだけ雄弁だった言葉は見る影も無くなっていた。
そして、シーアがおもむろに腕を振ると、暗雲の中から稲妻が轟音をたてて出現し、呆然としていたヒカリとミライのすぐ側に落ちた。
ピシャァーン!!
「外シタカ……次ハ……当テル……」
そう言うと、シーアは腕を振り上げた。
「ヒカリ!危険だわ!逃げましょう!」
「でも……シーア先生が……」
「……あんた、まさかこんな状況で、シーア先生の心配してるんじゃないでしょうね?」
「だって……あんな姿に……」
「話聞いてた?……まぁアタシも全てを理解した訳じゃないけど。とにかく今のシーア先生は間違いなく私たちの「敵」よ!」
ピシャァーン!!
「キャァァァァッ!!」
シーアによって放たれた稲妻が、ヒカリとミライを遠ざけるかの様に落ちた。
「グギギギ……ヒカリィ……ヒカリィィィィ!!」
もうあの頃のシーアはいない。
それどころか、「神」になる為に魔力を一気に吸収したシーアだが、その風貌はまるで……。
「この悪魔!!」
突然、ヒカリが声を荒らげた。
「ナン……ダト……?モウイチド言ッテミロ……タダデハオカン!」
「この悪魔悪魔悪魔悪魔悪魔ぁ!!」
「キ……キサマァ……!!」
「……もう私も吹っ切れたわ。そんなに私の魔力が欲しいなら、さっさと奪ってみなさいよ!その代わり、ミライに何かあったら……死んでも絶対に許さない!」
「ヒカリ!何言ってんのよ!」
「大丈夫。私は悪魔の扱いには慣れてるから!」
そう言ってウインクまでして、余裕を見せつけるヒカリ。
「……オモシロイ。ナラバ……望ミドオリニシテヤル!」
シーアは魔法の詠唱に入った。
そうは言ったものの、ヒカリは冷や汗だらけで、動悸も激しく、この後どうしようかと必死に頭を回転させていた。
「オマエノ魔力……喰ライツクス!!
シーアの唱えた魔法が、右手の指先から白い光線となって、ヒカリ目掛け一直線に向かって来た。
「ヤバいヤバいどうするヒカリとりあえず落ち着いて目を閉じて開けたら実は夢でしたみたいなオチかも知れないそうよきっとそうだわ!」
物凄い早口で脳内会議を行ったヒカリは、結果として悪手を選んでしまった。
目を閉じて、その場に立ち尽くすヒカリに、シーアの魔法が直撃する……まさにその時。
「
ズドォーン!!ビビビビビビ……
「み、ミライ!?」
「……言ったでしょ?……ヒカリを守る……って」
ミライの唱えた魔法は、大きな光の壁となってシーアの放った光線を遮った。
「……でも……ごめん……これも長くは……続……かないわ……」
両手の先にある光の壁。それを光線に向けて踏ん張っているミライ。しかし状況は悪く、ミライも大量の汗をかき、顔を真っ赤にして歯を食いしばりながら、一心に食い止めていた。
「ミライ……どうして……」
「当たり前の事……言わせ……ないでよ……私たち……親友じゃない!……くっ!」
シーアの魔法の威力に押されて来たのか、少しずつジリジリと身体が後方に下がっていくミライ。
「そんな……簡単にさ……命を粗末にしないで!!」
気づけばミライは泣いていた。そして、泣きながらも懸命にヒカリを守り続けた。
それを見たヒカリは後悔した。自分の命を易々と捧げるような言動。それを自分に置き換えれば簡単にわかることなのに、気づけなかった。
「私も……ミライがいなくなっちゃったら……絶対にイヤ!!」
そう言うと、ヒカリも
「グ……グギギ……無駄ナアガキヲ……」
シーアは更に魔法の出力を上げた。
それに共鳴するかの様に、世界中のあちこちで稲妻が降り注いだ。
その光景は、まるで世界の終わりを示唆しているかのようだった。
「ミライ!まだ頑張れる?」
「……当たり前……よ!!」
ミライは涙を拭い、ヒカリはその膨大な魔力を使い、そうして2人はシーアに対して抵抗し続けた。
奇しくも「神」の存在を否定するかのように……。
―― その時。
「あ、姉御たちー!無事ッスかぁ!?」
パカラッパカラッと足音をたてて現れたのは、「馬」のデーオスだった。
「……って、エェェェェッ!?なんスかこの状況!?」
目玉が飛び出るほど驚くデーオス。
「あ、あんたこそ……無事で何よりだわ……」
「で、デーオス……何とかならない……?」
「そ、そそそそんなこと言われても……あっしは貧弱で脆弱で最弱の悪魔……」
そう言いかけたデーオスだったが、ふと兄貴のあの言葉が、脳裏をよぎった。
「……今あっしがするべき事……」
「ハッハッハ!ナンダ?ソノ汚イ生物ハ……」
空いていた左手を振り下ろすシーア。
すると、デーオス目掛けて稲妻が落ちてきた。
ピシャァーン!!
「デーオス!!」
「……当たらなければ、どーってこと無いッス」
見事に稲妻を避けていたデーオス。そして続け様にミライに対して懇願した。
「ミライの姉御!頼むッス!あっしを元の姿に戻してくだせぇ!!」
「わかったわ……「解除」!」
ミライの一声に反応して、デーオスの周りにモクモクと煙が上がり、包まれていった。
そして煙が晴れると、元の姿に戻ったデーオスの姿があった。
「……よし、これで魔法が使えるッス!!」
そう言うと、デーオスは人間には理解出来ない言語をブツブツと呟いて、魔法を唱えた。
「
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