パーティーから追放された魔力ゼロのロクデナシ冒険者、十年ぶりに再会した高スペックなヤンデレ気質幼馴染達の求婚を回避しながら魔剣を握る!~最高の冒険者になるための魔王奇譚~
第35話 生きるため、俺はロクデナシになる 【過去編6】
第35話 生きるため、俺はロクデナシになる 【過去編6】
「……あ?」
心地よい風に鼻腔をくすぐられ目を開けると、満天の星空が仰向けに寝そべっているスパーダを出迎えた。
「どう、なったんだ……俺」
ゆっくりと体を起こすスパーダは記憶を辿ろうとするが、
「ぅあ……!」
それは激しい頭痛で叶わなかった。
『起きたか』
「……ゼノ」
靄もや掛かっていた意識を吹き飛ばすように、その声は鮮明にスパーダの耳に届く。
「ここは……」
『地上じゃ。お前が魔剣を使い、中のモンスターどもを一掃し、下層からここまで上がって来た』
周囲を見渡したスパーダは、ここが『覇ノ墓標』から少なくとも数キロは離れた場所であると把握する。
どうやらダンジョンを脱出し、そのままここまで飛んできたらしい、と。
「そ、そうか……」
スパーダは自身の手の平を眺める。
恐らく先ほどまで、ゼノディーヴァを握っていたであろう自分の手を。
意識が無かった……けど、分かる。
体中に俺がダンジョンのモンスターを殺し尽くし、自分の身体であり得ない跳躍をしてここまで戻って来たって言う……感覚がしっかりと残ってる。
肉体に残る達成感にも似た感覚が、ゼノの発言を裏付けた。
「……消えてる」
しかし、その代わりとは言わんばかりに……スパーダは自身の魔力が消失していることを再認識する。
「はは……」
意識が無くなる前、あれほど取り乱していたスパーダだったが、何やら憑き物が落ちたように……乾いた笑いを浮かべるだけだった。
『それにしても、ここは薄いな』
「薄い……?」
『うむ。大気中に魔力がほとんど存在せん。どうしたものかのう。これでは全然足りんぞ』
「足りないって……何がだよ?」
『思念体の儂は、自身の存在をこの世に維持するのに魔力を使っている。儂がいたあの場所は常に魔力が充満しておった。だから存在の維持にはその魔力を消費していたからその点に関してだけは問題なかった。しかしここにはそれがほとんどない。これではその内消滅してしまうぞ』
「消えるってことは、死ぬってことか……?」
『まぁ
死ぬと言っているにも関わらず、全くと言っていいほど緊張感のないゼノの声音に、スパーダはため息を吐いた。
しかし、そんなこと彼にとっては最早どうでも良いことだった。
「……はぁ……知らねぇよ。何はどうあれ、俺はダンジョンから脱出できた。お前も外に出れた。後は誰か別の奴に拾ってもらえ」
重い腰を上げ、そのまま立ち去ろうとするスパーダ。
『何を言うとる。儂が死ねばお前も死ぬぞ』
「……え?」
しかし、そこで発した言葉に彼は足を止めた。
『言ったじゃろうが、儂らは運命共同体と。リンクしているどちらかが死ねばもう片方も死ぬぞ?』
言われて、スパーダは意識が消失する前のやり取りを思い出す。
「はぁ!?」
そして、ようやく彼はことの深刻さに気が付いた。
「ど、どどどどどどうすんだよ!? 折角生き延びたのに死ぬって!?」
『まぁまぁ、慌てるでない。魔力を供給する方法はちゃんとある』
「言え!! 早く!!」
『せわしないのう……まぁいいじゃろ。ずばり、それはモンスターを殺すことじゃ』
「モンスターを、殺す……?」
『うむ。魔剣を使いここまで来る道中、儂の魔力がみるみる内に消費されていった。流石の儂もこればかりは想定外で、マズいと思ったんじゃが……モンスターを殺し、そいつの魔力を魔剣を通して食えば消費した分が供給できることが分かったのじゃ!』
得意げにゼノは言う。
「……」
スパーダは沈黙し、表情を暗くした。
『む? どうした急に黙りおって』
そんな表情を見せたのは、『起きてしまうかもしれない』悲惨な可能性が瞬時に頭に浮かんだからだ。
だからこそ、彼がその決断を下すまで……大した時間は掛らなかった。
「ゼノ。悪いが、それは無理だ……」
『む、なぜじゃ?』
「俺はもう……この魔剣を使わないからだ」
『何?』
「理由は二つ……一つ目は魔力消費が激しすぎる。これじゃあよっぽど強力なモンスターを殺さない限り戦闘が成立しない」
ゼノが魔力を消費した分、モンスターを殺して魔力が補給されるならば良い。
だが魔剣を使用しスパーダは感じた。
この魔力消費は、間違いなくそこらのモンスターを狩った程度では魔力供給が追い付かないと。
そこにもし、ゼノの存在維持に使われる魔力まで使ってしまえば、俺とゼノは共倒れすることになる。
スパーダは辛うじて冷静を保ちながら、情報を整理する。
『なら強いモンスターを狩ればよいではないか。それか大量に殺すとかどうじゃ?』
「そんな単純な話じゃねぇよ……」
確かに、ゼノの言う通りにすれば魔力の供給と消費が追い付くかもしれない。
だがそれは……その点だけを考慮すればの話だ。
「二つ目の理由は、魔剣を使った時俺の意識が消えることだ」
『それの何がマズいのじゃ?』
「マズいだろ。要は制御が利かない。暴走みたいなもんだ。もし周囲に誰か人がいたら、俺はそいつを殺すかもしれない……」
『何を言うとる。他の人間などどうでも良いではないか』
「お前な……」
ここでスパーダは、初めてゼノの価値観に直面する。
同時に、コイツとは相容れないと実感した。
だがここで何か怒りに任せて言う必要はない。
スパーダはゼノを納得させる言葉を持ち合わせていたからだ。
「……魔剣を使った後さっきみたいに倒れて、そこにモンスターが来たらどうする?」
『……分からん!』
「はぁ……無防備に獲物が倒れてんだぞ。モンスターに食われるに決まってんだろ」
『おぉ! なるほどのう、天才かお前!!』
スパーダがそこまで言うと、ゼノは「はっ」とさせられたように声を上げた。
『まぁゼノディーヴァを使わないというなら別に構わん。儂の目的はこれからこの世界を堪能することじゃしな! じゃが魔力供給はどうする?』
そう……いくら魔剣を使わないと言っても、思念体であるゼノが存在を維持するための魔力は必要。
すなわち、どう足掻いたところで魔力供給は必須なのだ。
「……俺とお前がリンクしたってことなら、俺が魔力の供給や回復をすればいいってことだよな?」
『理屈で考えればそうじゃな』
俺はゼノみたいに殺したモンスターから直接魔力を吸収するなんて出来ない。
というか、ほとんどの人間がそんなこと不可能だろう。
なら、魔力を供給する方法は……普通にメシを食うことだけか。
スパーダが思いついたのは至極単純な普段から自身が行っている行為だった。
問題は金だが……まぁ、それもリュードたちのパーティーなら大丈夫か。せいぜい寄生して、稼がせてもらうさ。
『おいスパーダ、何かすごい
悪辣な笑みを浮かべたスパーダにゼノはそんな言葉を浴びせるが、彼は特に気にする様子はない。
「はは、さてと……とりあえず近場の町から馬車で戻るか」
こうして、半ば強制的にスパーダとゼノの依存生活が始まった。
ロクデナシでゴクツブシの冒険者としての一歩を、踏み出したのだ。
◇◇◇
小話:
スパーダとゼノの存在がリンクしたことで、ゼノの存在維持のための魔力消費が為されないとスパーダも死にます。
リンゼとの決闘では戦闘の最中に魔力を供給ができない+戦闘での魔力消費が多かったため、スパーダは魔力欠乏症になってしまいました。
スパーダが食べるだけで欠乏症を回復するのは、ゼノの魔王としての体質が一部共有されているためです。
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