パーティーから追放された魔力ゼロのロクデナシ冒険者、十年ぶりに再会した高スペックなヤンデレ気質幼馴染達の求婚を回避しながら魔剣を握る!~最高の冒険者になるための魔王奇譚~
第34話 そうして、少年と魔王は運命を共にする 【過去編5】
第34話 そうして、少年と魔王は運命を共にする 【過去編5】
揺らぐスパーダ。
……いや、落ち着け。俺。
だがスパーダは絆されかけた自身の意識に、すんでのところで自ら制止を掛ける。
あぶねえ、少し揺らいだ……けど、揺らいだだけだ。決意が変わることは無い。
「し、知るかよ……」
『頼む! さっき言ったじゃろう! 儂はほとんど何も思い出せぬのじゃ!』
「だから、知らねぇって!! お前の記憶を思い出す手伝いをしろってか!? やらねぇよそんなこと!!」
『そうではない!! 儂は過去のことなど、どうでもいい!! ここにいては決して見ることのできない景色を、得ることの無い物を……経験したい!! そのために、外に世界に出たいのじゃ!!』
気付くと、ゼノは先ほどまでの傲慢な態度は何処かへ消え去っていた。
代わりに伝わるのは、熱意。
だがその熱意が……ゼノの発言が本気を証明していた。
「っ……大体、俺がお前のパートナーになったところで何になるんだよ。ここはSランクダンジョンの下も下……脱出不可能だ!!」
『儂とパートナーになれば力が手に入る!! ここからの脱出などお茶の子さいさいじゃ!! お前だってここから脱出したいじゃろ!! 利害は一致しているはずじゃ!!』
「そ、それは……」
出られるものなら、出たい。
スパーダは即座にそう思う。
先ほどまで諦めていた『帰還』という選択肢。
ゼノの言葉を真に受けるならば、スパーダはこの『覇ノ墓標』下層から脱出できる。
だが、
「……」
戻ったところで、どうする?
スパーダの頭に浮かんだのは、そんな些細な疑問だった。
師匠から逃げて、パーティーから逃げて……挙句の果てには、死ぬ覚悟で挑もうとしたモンスターに対して足が動かなかった。
――――帰る意味、あるか……?
スパーダは、挫折していた。
今まで何度か折れかけた精神が、今回の一件で本当に折れてしまっていた。
無理、不可能……俺にとって、最高の冒険者は空想のおとぎ話と変わらない存在だった……。
ならもう、いいだろ……。
夢をあきらめた俺に……生きる意味なんて……。
諦め、断念したスパーダ。
しかしその時、
――――いや、そうじゃない。
彼の中に……一抹の感情が噴き出す。
最高の冒険者なんてのは、もう……どうでもいい。その点に関しては一点の曇りも無い。
だけどそんなものとは別に、俺は……生きたい。死にたくないんだ。
死にたくないから、俺は負傷した箇所を治療する術を探した。
……それはつまり、生きたいってことだろ。
「っ」
意味なんて、無くていい。
これからは、底辺冒険者として……適当に日銭を稼いで生きて行こう。
そのために今は、とにかく生きてここを出る――――他のことはどうでもいい。
スパーダは新たに自身を定めた。
後は、それを貫くだけである。
「……分かった」
『おぉ! 本当か!?』
「あぁ……お前の言葉の真偽も、そのパートナーってのになれば分かることだしな。なってやるよパートナー。ここから出るためにな」
『うむうむ!! やはりお前は儂の見込んだ男じゃ!! なら善は急げじゃ、剣を取れ!! この七魔剣の一つ、魔剣ゼノディーヴァをな!!』
「魔剣……」
ゼノに促されるまま、スパーダは剣を握り……そして引き抜いた。
「っ!?」
『行くぞ!! 儂とお前の輪廻を繋ぐ!!』
瞬間、スパーダとゼノ両名に衝撃が走る。
互いの記憶が……感情が魔剣と呼ばれたソレを通して交錯し、激しく絡み合う。
「う、うぅぅぅぅぅぅ……ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」
痛みではない、だが何か……何か異質なものがスパーダの身体に流れた。
その体中を駆け抜けるその奔流……味わったことの無い感覚に彼は堪らず叫ぶ。
「何だよこれ……!! どうなってやがる……!!」
『魔剣の所有権は魔王である儂にある!! じゃから今……お前と儂の存在をリンクさせ、お前にもゼノディーヴァの所持と使用が出来るようにした!!』
「リンク……? 何だ、それ……!!」
『簡単に言えば、たった今……お前と儂は運命共同体になったということじゃ!!』
「はぁ……!? 意味分かんねぇよ……!!」
ゼノから放たれる理解のできない発言は、未だ体中を駆ける未知の感覚と相まって彼の思考を混乱に陥れる。
ズズ――――ズズズ
「ぁ……?」
その時だった。
未知の感覚とは別に、スパーダの身体に異常が発生する。
そして一秒後……彼の中の『ナニカ』が、欠落した。
何だ……これ……? 何が、起きてる……? 俺、だって……え……?
異常が何なのか、スパーダは理解した。
消え……た? 何だ……おかしい、俺の……魔力が……。
それは魔力の消失。
自身の魔力が彼の身体から跡形もなく消え去ったことを、理解した。
同時に、その原因がゼノとリンクしたことによるものだと直感する。
「あぁ……ぁ……ぁ……」
『どうしたスパーダ!!』
無くなった。俺の、俺の魔力……これじゃあもう……本当に……。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
『おいスパーダ!?』
「ふぅ……!! ふぅ……!! ふぅ……!!」
息を荒げ、上の前歯で下唇を噛み締め、ゼノディーヴァを握りしめる手に力が籠る。
「っぅぅぅあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!???」
叫ぶスパーダ。
それは最早、咆哮とも呼べる代物だった。
「!!」
咆哮の最中、彼は鞘から剣を抜く。
そしてすぐ――――意識は消失した。
◇◇◇
小話:
今回はお休み。
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