第19話 パーティー会合
「それじゃあ会合を始めよう」
ギルド局内にはいくつかパーティーが貸し切れる個室があり、多くのパーティーはそういった部屋を用いてクエストの話し合いを行う。
今回も例に漏れず、一つの個室で会合が行われようとしていた。
「今回のクエストは『ゴブリン討伐』だ」
「おぉ! ってゴブリン討伐?」
満を持して発表されたクエストにドミノは首を傾げた。
気持ちは分かる。ゴブリン討伐はCランクやBランクのクエストだ。
到底Sランクパーティーが受けるものとは思えない。
「まぁ聞け。半年ほど前から王都周辺の村でゴブリンによる人攫いが発生している。冒険者が駆除に当たろうとしたが、奴は非常に統率が取れており見つけてもすぐに逃げられてしまっているんだ」
「なるほど」
シェイズがそこまで言って、エルは納得したように言葉を漏らした。
「何だよエル?」
「まだ分からないの? ドミノ」
「分っかんねぇ」
「はぁ……いい? 統率が取られてるってことは、奴らの指揮を執る奴がいるってこと。そんなのが出来るのは……」
「……キングゴブリンか!!」
「そういうこと」
はっとしたようにドミノは声を上げた。
キングゴブリン、その名の通りゴブリンたちの王だ。
そういった種類のゴブリンがいるのではなく、ただのゴブリンが稀に突然変異を起こした個体である。
キングゴブリンの生まれたゴブリンの群れはキングゴブリンをカーストの頂点として統治される。
またキングゴブリンは通常のゴブリンに比べ知能が高く、加えて戦闘能力に関してはケタ違いの強さを誇る。
それもSランクパーティーでなければ討伐出来ない程に。
無理やり良い点を挙げるとするならば、数が少ないということくらいだ。
そこまできて、ようやくこのパーティーが受けるクエストの全容が判明した。
「改めて、俺達のパーティーが受けるクエストは……『キングゴブリン討伐』だ」
シェイズの言葉に、俺だけがゴクリと唾を飲み込む。
モンスターのランクには俺達冒険者と同じようにランクが存在する。
強さによってE、D、C、B、Aというように設定される。
当然、キングゴブリンもその例に漏れずランクが設定されている。
キングゴブリンは当然、Sランクだ。
「隠密に行動し、巣がどこなのかを悟られないように動いていたゴブリンたちだが……ギルドの諜報部隊の懸命な調査の結果、ホウボウ山の洞窟にゴブリンの出入りが活発なことが確認されたらしい。場所や周辺への出現時間を考慮しても、ここが巣であることは間違いないそうだ」
「ってことは巣の中でやり合うって訳か! 腕が鳴るぜ! それに他の
「あぁ、それもクエストの予備事項に含まれている。それに際しもう一つ言っておかなければならないことがある……今回は別のパーティーと合同で動く」
「はぁ!?」
シェイズの言葉にドミノは素っ頓狂な声を上げた。
「な、何でだよ!? 他のパーティーの奴らと一緒じゃあ競合しちまうじゃねぇか!!」
別々のパーティーが手を組み同じクエストを行うのはたまにある。
だが報酬金の分割などの観点から冒険者間ではあまりよく好まれてはいない。
そのためドミノは嫌そうにしたのだ。
「大丈夫だ。そのパーティーはAランクだからな」
「Aランク?」
ドミノは首を傾げる。
「あぁ。今回の討伐対象はキングゴブリンだが、当然通常のゴブリンも存在する。俺達と合同するパーティーが担当するのはそれだ」
「それだって俺達がやればいいだけじゃねぇのか?」
「洞窟のあるホウボウ山の周辺には複数の集落や村がある。それに洞窟内部がどうなっているか分からない。もし仮に俺たちが一匹でもゴブリンが逃した場合、ゴブリンたちが下山しそこを襲う可能性がある。その可能性を限りなくゼロにするために……Aランクパーティーにはゴブリン討伐とその他のサポートのために同行してもらう」
つまり、目的の場所は一緒だがクエスト内容は違うというわけか。
俺達のクエストは『キングゴブリン討伐』。
合同するAランクパーティーのクエストは『俺たちのサポート』。
ちなみに、何故ゴブリン討伐にわざわざAランクのパーティーが来るのかという理由だがそれは明快だ。
サポートでも、Sランクパーティーと共にクエストをクリアしたという実績は手が届くほどに欲しいからである。
その実績があれば個人としても、パーティーとしてもSランク昇格に大きく近づくことが出来る……だからSランクに近い者ほどこういったSランクパーティーとの合同クエストに挑むのだ。
話が逸れた。
まぁとにかく本筋だけ言えば、クエストを別で発注しているため報酬金の分割や減額は無いということだ。
しかし、何故だろう。
俺の脳裏に微かな違和感が過ぎる。
だがそれを言語化できない、加えてこの違和感は何かクエストに関し危機をもたらすものではないような……そんな直感が働いた。
「何だ、それならキングゴブリン倒した報酬金がそいつらに吸われることはねぇな!!」
そんな俺の思いは他所に、ドミノは嬉しそうな顔を見せる。
「クエスト日は二日後だ。次に持って行くアイテムについてだが……」
こうしてリーダーであるシェイズは話を粛々と進めて行った。
◇
「それじゃあ、これで会合を終了する。皆入念な準備と英気を養うことを怠るな」
『了解』
約一時間に及ぶ会合の末、ようやくそれは終わりを告げた。
『スピー……スピー……』
ゼノはとても退屈だったのだろう。
かわいらしい寝息を立てながら眠りについていた。
その時、
「お疲れ」
「おう……」
シェイズが俺に声を掛ける。
「どうだった。今日の会合は?」
「どうって、他のランクのパーティーとあまり会合の内容が変わらないとは思ったな。なんか、拍子抜けっつーか」
「当然だ。Sランクパーティーだからと言って特別なことをするわけじゃないからな」
「はは、少しだけど親近感湧いたぜ。同じ冒険者なんだってな」
「それは何よりだ。一先ず、期待しているぞ……【竜牙の息吹】の新メンバーとして」
「……」
その言葉に、俺は何も答えることができなかった。
◇
「はぁ……」
ロビーに戻った俺は軽くため息を吐く。
「お疲れ様、スーちゃん!」
するとリンゼがそう言って俺にビンに入った飲料を渡してきた。
「サンキュ……」
礼を言い、俺はその液体を体内に流し込む。
緊張などでのどが渇いていたのか、みるみると体内が潤されていくのが分かった。
「どうだった?」
「会合自体は何度も経験してるから問題ない。パーティーの奴らもこの一時間で少しだが、どういう人間なのかってのが分かった。ただ……」
「ただ?」
『期待しているぞ』
言いかけて、思い出すのはシェイズの言葉だ。
「いや……やっぱ、何でもない」
「? まぁでもスーちゃんが馴染んでくれたみたいで良かったよ!」
リンゼは笑顔を見せる。
満足したようでなりよりだ。
「じゃあ早速行こっか!」
そう言ってリンゼは俺の手を取る。
「……あぁ、そうだな」
何処に向かうのか、それは今の会合で理解していた。
◇◇◇
小話:
パーティー同士が協力し合うのは、依頼主から依頼があった場合か、クエストの難易度が高かった場合、今回のような必要に迫られた場合のどれかです。
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