第20話 鍛冶屋

 本局から出た俺を、リンゼはある場所へと案内した。

 そこは鍛冶屋。

 様々な防具や武器を取り扱う、冒険者なら必ず世話になる店である。


「ここだよ!」


 リンゼは少しばかり得意げにその店を指さした。

 店の前には大きな看板が掲げられており、そこにはクルシュの鍛冶店とぶっきらぼうな字で書かれていた。


「クルシュー!」


 店の扉を開け、開口一番リンゼは看板に書いてあった名を呼ぶ。


「お、リンゼ!」


 すると入店したリンゼに顔を向けた女性がカウンターから駆け寄って来た。

 タンクトップを着て鉢巻を頭に回しているが、目元はくっきりとしていて活発そうな美人。


 個人的にはリンゼよりも見た目がタイプだ。


「スーちゃん?」

「な、何だよ……!?」

「今変なこと考えなかった……?」

「か、考えてねぇよ!!」

「そう? ならいいけど……」


 あっぶねぇ……、何で分かるんだよ……。


 急に到来しかけた危機を回避したことに、俺は内心安堵する。

 そんな思いに耽っていると、クルシュが俺に視線を向けていた。


「見慣れない顔ね」

「初めまして、スパーダだ」

「クルシュよ。この店の店主、スパーダ……初対面だけど話だけならリンゼからしょっちゅう聞いてたわ」

「ははは……」


 自分は初対面なのだが、相手は知っている。

 王都に来てからもう何度も同じ経験をしているので慣れたものだ。


「で、新しい剣がほしいんでしょ?」

「うん!」


 ここへ来た理由、それは先日の決闘で破壊してしまったリンゼの武器の代わりを見繕うためである。

 Sランククエストに向かうのに、専用の武器が無いなど言語道断だ。


「まぁオーダーメイドとは言え、あんたずっとあの剣使ってたし、使ってる素材も全部A級以下だからSランククエストをこなしてたらいつかはガタが来るとは思ってたけど……にしても折れるってのは……本当にあんたが折ったの?」

「は、ははは……ま、まぁ……」


 俺は乾いた笑みを浮かべる。

 どうやらリンゼの剣はここで作ったものらしく、それを真っ二つにしてしまった引け目が、如実に顔に現れてしまった。


「ね? スーちゃんはすごいでしょ!?」

「はいはい。あんたの男自慢はまた今度聞いてあげるわよ」


 軽く受け流したクルシュは「ちょっと待ってて」と言って店の奥に入っていく。

 そして一分後、一本の剣を持って再び俺達の前に姿を現した。


「まだ試作段階だけど、十分に使えるはずよ」


 言いながら、クルシュは剣を鞘から取り出す。


「これは……」

 

 それを見たリンゼは思わず声を漏らす。


「S級鉱物のグストライト鉱石を使った自信作よ」

「わー! ありがとうクルシュ!!」


 柄を持ち、天井の光に照らされる刀身を見ながら顔を輝かせた。


『ほー、中々に良い剣ではないか。やるなそこの鍛冶娘』

「何だ起きてたのかゼノ」

『小娘のうるさい声に起こされたわ』


 俺とゼノの会話をするが、それを他所にリンゼとクルシュは会話を続けていた。

 

「馴染みのよしみで二割引きにしてあげる。その代わり、いつもみたいに私の店の宣伝よろしくね」

「うん! 皆に言っておくよ!」

「ならいいわ。で、どうする? 他にも必要な武器があったら今あるものだったら見繕ったりできるし、武器の整備とかもできるわ。見たところスパーダの背中の剣、結構業物に見えるのに整備してないわよね。駄目よ、武器の手入れは冒険者の基本なのに」

『業物かぁ~。はははははははは!! 見る目があるではないかこの小娘!!』


 業物と言われ、満更でもなさそうにゼノは柔和な声を上げる。


「いや、いいんだよコイツは。手入れしなくて汚れてるくらいが丁度いい」

『おいスパーダ!? 何を言うとる!!』

「そう? なら腰の剣は?」

「あ、こっちは頼む」

『おぉい!? 何故そっちは良くて儂はダメなのじゃ!! この剣を何だと思うとる!? 儂の魔剣じゃぞ!!』

「うるせぇ! コレ鞘から抜けないだろうが!!」

『はっ!? そうじゃった……!!』


 気付かされたようにゼノは驚く。

 自分のことなのだからしっかりと覚えておいてほしい。


「どしたの?」

「えっ!?」


 すると俺達のやり取りを見ていたクルシュが不思議そうにこちらを見ていた。


「い、いやぁ……! あははははは、何でもない何でもない!! ちょっと幻聴が!! こ、これ! こっちの剣だけでいいから頼む!!」 

「う、うん」


 そうして、俺は腰の剣だけをクルシュに預けた。




◇◇◇

小話:

初登場のクルシュですがスパーダの中では既にゼノやリンゼよりも好感度が高いです。外見的な部分もそうですが、基本的に常識人寄りの女性だからという部分が大きいです。

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