第17話 Sランクパーティー

 俺が正式にリンゼの家に居候を始めて三日後。

 リンゼと共に朝食を食べていると、突然彼女が話題を切り出した。


「スーちゃん。今日は【竜牙の息吹】で会合があるんだけど、スーちゃんも来ない?」

「【竜牙の息吹】って……お前のパーティーの名前か?」

「うん!」


 Sランクと他のパーティーの大きな違いの一つとしてパーティーの名前を制定できるというものがある。

 他のランクとは一線を画すという意味合いを込めて、Sランクパーティーにはこういったことが許されているのだ。


『会合ってなんじゃスパーダ?』


 ゼノがそんなことを言い出す。


「事前にパーティーメンバーでクエストの打ち合わせをすることだよ。持って行くアイテムや目的地に向かうルート、戦術なんかを決めるんだ。下調べや情報や意見の出し合いは高ランクに成程大事、最悪それしてなくて死ぬとかあるからな」

『ほー』

「ていうかお前俺が良くパーティーメンバーと話し合ってたの見てたろ」


 そんな事を言いながら俺は返答を考えようとするが、そもそも考えるまでも無く答えは出ていた。


「……俺は行かねぇよ」

「え?」


 俺の返答が意外だったのか、リンゼは軽く驚く様子を見せる。


「な、何で?」

「お前さぁ、どうせ俺を自分のパーティーに入れようとか考えてんだろ」

「そうだよ?」


 何てことなしに言うリンゼに、俺は「はぁ」と溜息を吐いた。

 

「あのなぁ……Bランクの俺がSランクパーティーになんて入れる訳無いだろ。お前がいくら交渉したところで許可なんて降りないって」

「だ、大丈夫だよ! 皆ランクとかじゃなくて、ちゃんと実力で見る人たちだから!」

「だったら猶更だ。俺の実力はお前らSランク冒険者に遠く及ばない。足手まといになるのがオチだ」


 スプーンを置き、俺は答えた。


「そ、そんなことないよ! だってスーちゃんは決闘で私に!」

「勝ったから? あんなの実力でも何でもない。運が良かっただけだ……そうじゃなかったら、俺は普通に負けてた」

「で、でもあの剣を使ってからはすごかったよ! 一撃の重さが段違いだった!」

「それであのザマじゃ世話ねぇだろ」


 どうやらリンゼは、俺の意思が伝わっていないらしい。

 はっきりと言っておかなければならないようだ。


 意を決し、俺は口を開く。


「何か勘違いしてるみたいだから、この際ちゃんと言うぞ……俺はもう、冒険者を辞める」

「え……!?」


 目を見開き、酷く驚愕するリンゼ。

 そんな彼女に俺は淡々と説明する。


「当たり前だろ。食費の問題がお前のお陰で解決したんだ。もう冒険者をやって金を稼ぐ必要も無い。このままお前の家で気楽に過ごさせてもらうぜ」


 酷く畜生な発言をしたことを自覚しながら、再び食事を再開した。


「ちょ、ちょっと待ってよ! それじゃあスーちゃん……冒険者辞めちゃうの……?」

「だからそう言ってるだろ」

「な、何で? だってスーちゃん。子供の頃あんなに……」

「ガキの頃と一緒にすんな。前も言ったが、俺は変わったんだ。もう疲れたんだよ、自分を偽るのはな……」


 自嘲気味な笑いを浮かべ、鼻を鳴らす。


「そ、それでも……」

「あ? 何だよ?」


「私は、冒険者として、頑張るスーちゃんが……好きだな」

「好きだなって……お前俺が冒険者してるとこ見た事無いだろ」


 俺が冒険者になって活動する頃には既に、リンゼは王都へと引っ越していた。


「それはそうだけど……」

「……」


 顔を俯かせるリンゼ、それを見て何故か罪悪感が込み上げた。


 仕方ない……。


「はぁ……分かったよ。会合にだけは行ってやるよ」


 渋々と俺は言った。


「ホント!?」

「あぁ……」


 とりあえず付き合うだけ付き合おう。

 どうせ俺が入れるわけないんだ、一回交渉すればリンゼも諦めがつくだろ。


 そんな思惑を胸に俺は返事をしたのだ。

 ――――決して、それ以外の理由など存在しない。


『……』

「じゃあ行こ! この後すぐ本局に行く事になってるの!」

「お、おい急すぎるだろ……!!」


 急かされるように俺はメシを食い進め、素早く身支度を始めた。



「なんか、この前より視線が俺に向けられてる気がするな……」


 何でだ? 前は拘束されてたから注目を引いてたのは分かるが、今日は拘束もされていない普通の恰好なんだが。


「そりゃあ勿論、スーちゃんが決闘で私に勝ったからだよ!」

「……そう言う事か」


 納得した。

 要はあの情報が広まって、今の俺はちょっとばかし有名人な訳だ。


 勘弁してほしい。


「あ、いたいた! あそこだよ!」

「お、おい!」


 どうやら他のパーティーメンバーを見つけたらしい。

 リンゼは俺の手を引いてグイグイと足を前に進めた。


「遅いぞリンゼ」

「リンゼ! 一週間だなぁ!」

「正確には六日ぶり」

「お、おはようございます……」


 合流早々、リンゼをそんな声が迎え入れる。

 男が二人、女が二人だ。


「ごめんごめん! ちょっと準備が遅れちゃって……!」

「後ろの奴は誰だ?」


 そして唯一、リンゼに時間の指摘をした男が俺を見た。


「あ、紹介するね! 幼馴染のスーちゃん!」

「えーと……どうも」


 特に会話の内容を考えてこなかった俺は、当たり障りのない言葉で挨拶をする。

 こうして、リンゼの所属するSランクパーティーと初めての邂逅を果たした。




◇◇◇

小話:

スパーダの好きな食べ物は肉です。

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