第11話 Sランク冒険者との決闘 前
「それでは、これよりSランク冒険者リンゼと……Bランク冒険者スパーダによる決闘を執り行う」
場所は、第五訓練場。
王都内にはこういった冒険者のための施設が数多く存在し、そのほぼ全てがギルドの管轄下にある。
本来Sランク冒険者が決闘をするというのは非常に注目を集める事なのだが、なにせ今回は急な事態のため観客席に人はほとんど見受けられない。
いるのは偶然この第五訓練場にたまたま居合せた冒険者数名だった。
「まずはルールの確認。双方武器の使用、魔法の使用を許可する。禁止事項は相手の殺害。勝敗はどちらかが戦闘不能になるか、敗北を認めるかだ」
立会人は、俺達が決めたルールを淡々と俺達に耳に入れていく。
「それでは、双方構え」
立会人の言葉に、俺とリンゼはそれぞれの武器を取る。
リンゼは腰に携えた剣を。
そして俺は背中の剣を取り出し、構えた。
「え……」
「お、おい何やってんだアイツ……?」
俺が剣を構えると、何故か観客席の数名がそんな声を漏らす。
「……何してるのスーちゃん?」
「あ?」
そしてそれは、リンゼも同様だった。
「何で、剣を鞘に入れたままなの?」
そう……観客やリンゼが疑問を浮かべる理由。
それは俺が抜刀せず、鞘に剣を収めたまま取り出したからだ。
「いいんだよ。これで」
俺は答える。
リンゼは一瞬、何処か納得いかないような表情を作るが、
「まぁいいや! すぐにその剣を抜かせてあげるよ!」
すぐにケロッとした様子でそう言い放つ。
「私、強いからね? スーちゃんの隣に立てるように、頑張ったんだから!」
「それはもう嫌って程聞いたよ。いいから来い」
俺はゼノの柄を強く握り締める。
一瞬の静寂、見詰めるは互いの目、意識するは互いの剣先。
その時が来るまで俺達は一定のリズムで呼吸を行い、この沈黙を味方につける。
そして、
「それでは……始め!!」
時は来た。
「行くよ! スーちゃん!!」
最初に仕掛けて来たのはリンゼだ。
彼女は冒険者として鍛え上げたその肉体を利用し、俺との距離を詰める。
「っ!!」
早い……!!
一瞬で間合いに入られた俺は、たちどころに距離を取ろうと後ろへ跳躍するが、
「遅いよ!!」
間に合わない。
彼女の振るった剣が俺に迫る。
「くっ!!」
俺はその攻撃を何とか手に持った剣で防ぐが、
「ぐぅ……!!」
彼女のその剣圧に耐え切れず、吹き飛ばされてしまう。
『何をしておるスパーダ!! 儂の
何とか受け身を取り、態勢を立て直す俺に対し、ゼノはたちまち優しくない言葉を浴びせてくる。
「分かってるよ……」
くそ……、やっぱりSランク冒険者なだけあるな……。
強い。
俺は素直にそう思わざるを得なかった。
しかし同時に、圧倒的な不満が幼馴染に対し沸々と沸き上がる。
何故俺がこんな事をしなければならないのか、置かれているこの状況に改めてその感情が募る。
今回の決闘のルール、結局変更した点は殺害禁止の要項を加えたことくらいだ。
それ以外は特に通常の決闘のルールと変更はない。
しかしリンゼは攻撃魔法も、強化魔法も使っていない。
魔法が使えない俺と公平な決闘をするために、彼女が自主的に自分にそう定めているのだ。
それでも、彼女の強さは相当のものだった。
瞬発力、膂力、放たれた剣がそれを痛切に感じさせる。
だが、今更不満を吐いても仕方が無い。
決闘を仕掛けたのは俺なのだ。
そうだ……落ち着け。
俺は一瞬呼吸を置く。
決闘の場に引きずり出し、バレないようにここまで来れた……!!
ここまでは想定の範囲内――――範囲内だ……!!
「まだまだ!!」
『スパーダ!!』
「っ!?」
一瞬、平静を保つために気を取られていた俺は、ゼノの声で現実へと帰還する。
再び繰り出されたリンゼの攻撃をすんでの所で受け止めた。
『集中しろバカ者!! お前は儂のモノじゃ!! 負ける事は許さんぞ!!』
「それも分かってるよ……!!」
「えへへ、どう? スーちゃん。私、強いでしょ?」
剣でのつばぜり合いの中、リンゼはそう言って俺の顔を見る。
「……」
それに対し、俺は何も答える事が出来なかった。
「まだまだ行くよっ!!」
「っ!!」
リンゼは体を半歩下げ、態勢を変えると俺に刃の応酬を浴びせる。
当然俺はそれに応えなければならない。
必然的に出来上がるのは、激しい剣戟だ。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「くっ……!! うっ……!!」
リンゼのように、声を発する暇も余裕もない。
俺が漏らすのは彼女の攻撃を受け止めた際の衝撃から発される反射のような声だけだ。
あぁ……くそ……本当に……!!
迫りくる一撃一撃が、リンゼの絶え間ない努力を物語っている。
それをひしひしと感じる俺は、思わず吐き気を催した。
「っらぁ!!」
「おぉ!?」
リンゼの攻撃の隙を突き、こちらから攻撃を仕掛ける俺。
だがそれは軽い声と共にいとも容易く避けられてしまう。
しかしこれで終わりではない、攻撃に転じ主導権を握ったのは俺だ。
畳みかけるように次の俺は横に薙ぎ払うようにゼノを振るう。
だが、
「はぁ!!……って!?」
「絶対このタイミングで追撃すると思ったよ!」
なんとリンゼは跳躍し、剣の上に乗る事で俺の追撃を回避した。
『おい!! 上に乗るな無礼者!!』
堪らずゼノがそう声を上げるが、当然それはリンゼには無視される。
「っと!!」
「がはぁ!?」
ゼノの上に乗ったまま、リンゼは体を捻ると俺の頭部に回し蹴りを放つ。
俺は両手で剣を持っているため防ぐ手段がない――――クリーンヒットだった。
最初の一撃とは違い、受け身も出来なかった俺は剣を持ったまま地面を転がる。
「うぅ……ってぇ……!!」
頭部に残る鈍い衝撃に視界が散漫する。
あぁ……クソが……。
俺は先程のように流れるように立ち上がるのではなく、不格好によろよろと立ち上がった。
……そうだ、一応聞いてみるか……。
頭への衝撃で一つ考えが浮かんだ俺は、リンゼを見る。
「なぁ、リンゼ……」
「ん、何?」
「見て、分かったろ? 俺はお前より弱い、そのくせこんなにダサい。お前は俺に相応しい人間になるためにSランク冒険者なんて大層なモンになったらしいが……俺がお前に相応しくないんだ。だから……」
「それがどうしたの?」
「あ……?」
キョトンとした様子で首を傾げるリンゼに、俺は思わず声を漏らす。
「言ったじゃん。どれだけスーちゃんが変わっても、私はスーちゃんが好きって。スーちゃんは私にとってずっとヒーローだって!」
「……」
この決闘での醜態で、リンゼの気が少しでも変化する事に一瞬の期待を寄せた俺だが、それはすぐに打ち砕かれた。
あぁ……そうかよ……。
思わず、唇を噛みしめる。
「……分かった。なら、後悔するなよ?」
俺はリンゼを睨み付け、ゼノの柄を強く握り締める。
「ゼノ。食った分は当然残ってるよな?」
『あれだけ食ったからのぅ。まだ少し余っておるわ。時間換算で三十秒くらいじゃの』
「……十分だ」
あぁ……本当に……、気持ち悪い。
そんな感情を抱く俺、だがこれはリンゼに対してではない……俺自身に対してだ。
俺に沸き上がったのは―――締め付けるような劣等感と罪悪感。
「行くぞ。ゼノ」
『うむ!!』
俺はゼノと息を呼応させる。
その瞬間、
「っ!?」
リンゼが目を見開く程の圧が、俺の元から発せられた。
◇◇◇
小話:
魔法を使わなくても基本戦闘力はスパーダよりリンゼの方が上ですし、魔法を使われればその差はさらに広がります。この差をスパーダはどう埋めるのでしょうか。
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