第12話 Sランク冒険者との決闘 後

 体内の力がみなぎるのを俺は実感する。

 圧倒的な充足感と快感が俺の身体を走り抜けた。


「ふぅぅぅぅぅぅぅ……」


 それを馴染ませるように、俺は呼吸を整え、対するリンゼを見据えた。


「ス、スーちゃん……どういう事……?」


 リンゼは警戒するように剣を構えなおす。

 正しい判断だ。


「何がだよ……」

「スーちゃんって、魔法が使えないんじゃ……?」

「あぁ……使えねぇよ。これは、俺の魔法じゃねぇ」

「スーちゃんの、魔法……じゃない?」

「別に問題ねぇだろ。魔法の使用は問題ないんだからよ……!!」


 更に疑問が浮上するリンゼだったが、これ以上親切に教えてやる義理も無い。

 それに、これは魔法と言って良いのかも怪しい代物だ。


 魔剣ゼノディーヴァ――――それが俺が今握りしめている剣だ。

 二年前、ある出来事をきっかけに俺はこれを手に入れた。

 そして同時に、この剣に憑りついていたゼノと出会った。

 今の俺は魔剣の所有者……その代償として、自分の魔力を失ったのだ。


「……」


 しかし、ある理由から俺は魔剣を使いこなすことができない。

 魔剣を鞘に納めたまま使用するこの形態は、それを防ぐために俺が編み出したものだ。

 俺は剣を顔の近くで構え、刃先……ではなく鞘先をリンゼに向ける。

 そして、


「っ!!」


 地面がひび割れる程の力で踏み込み、リンゼとの距離を一瞬にして詰めた。


「えっ!?」


 あまりにも突然の事に、Sランク冒険者の彼女ですら反応が一瞬遅れる。

 その隙を突くかのように俺はゼノを振るった。


 先程よりもけたたましい音を立てて、リンゼの刃と魔剣の鞘がぶつかる。


「くっ!?」


 俺と鍔迫つばぜり合いのようになったリンゼは堪らず顔を歪ませる。

 先程までには無かった表情だ。


「な、何この力……!? さっきと、全然……違うっ!!」

『ハハハハハ!! 当然だろう!!』

「……」


 急に上昇した俺の剣圧に怯むリンゼ。

 暇を与える事無く、俺はそこを更に突く。

 鍔迫り合いから剣戟へと変化し、俺の繰り出す攻撃に、先程とは打って変わってリンゼは防御に徹するのが精いっぱいといった様子だった。


「らあぁ!!」

「きゃっ!?」


 随分と可愛らしい声を上げ、剣戟に押し負けたリンゼは後方へと吹き飛ぶ。

 次いで、俺は腰を落とし、剣を低く構える。

 

 そして、


「っ!!」


 先程よりも数段強い力で、再び地面を蹴った。


「……!!」


 リンゼの目前へと迫った事で、彼女は目を見開き即座に立ち上がると、反射的に剣で防ぐモーションに出る。

 この速度に反応するのは流石としか言いようがない。


 だが、


「関係無いなぁ!!」


 彼女の刃に、俺は思い切り斬撃を叩き込んだ。

 その瞬間彼女の剣は甲高い音を立てて、刃が中心から真っ二つに折った。

 折れた刃はクルクルと回転しながら空中を飛んで、数秒後に地面に突き刺さる。


「はぁ、はぁ……俺の、勝ちだ……」


 息を整えながら、鞘先をリンゼの顔に向けて俺はそう宣言する。


 これ以上戦うならばリンゼは体術のみの肉弾戦を強いられる。

 武器を持った俺と武器を持たないリンゼ。


 だが、彼女はSランク……例え武器を持たずともBランク冒険者の俺など組み伏せられてしまう。

 しかし……それは本来ならばだ。


「うぅぅぅ……!!」


 リンゼは顔を歪ませる。

 俺が力を発動させてリンゼと剣を重ねた数十秒、Sランク冒険者の彼女だからこそ……これ以上は戦いにならないと彼女自身が理解したのだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁん!! ようやくスーちゃんと結婚出来ると思ったのにぃ!!!」


 大粒の涙を流しながら、リンゼは訓練場の中心でそう叫ぶ。

 それを聞いた俺は、改めてこの決闘の動機があまりにも不純である事を再認識した。


 泣き叫ぶリンゼと、それを半眼で見詰める俺に対し、流石の立会人もキョロキョロと俺達を見ながら動揺を見せる。

 しかしゴホンと一回咳ばらいをして一呼吸整えると、彼は言った。


「け、決闘のしょ、勝者は……Bランク冒険者、スパーダ!!」


 リンゼの姿を見た立会人は、これ以上の戦闘続行が不可能であり、勝敗のルールとして定めていた『どちらかが戦闘不能もしくは敗北を認める』というものにリンゼが該当すると判断した。


 決闘を勝利して終わった事に、俺は感激よりも安堵の感情が彷彿する。


「マジかよ!? アイツリンゼに勝ちやがった!!」

「Bランクって嘘だろ!? 何者だよアイツ!!」


 観客からそんな声が聞こえる中、


『おい……スパーダぁ……』

「……あぁ」


 ゼノの声もまた、俺の耳に届いていた。


 先程の勢いは何処へやら、彼女の声音はとてもか弱いものとなっていた。

 俺は、その理由を知っている。


『もう、限界じゃぁ……』

「……」


 ゼノの声を耳にしながら、俺の意識は虚ろになっていく。

 意識が天へと吸い取られるような……そんな感覚に陥る。


「ス、スーちゃん……?」


 目の前で泣いていたリンゼも俺の様子の異変にすぐさま気付いた。


 くっそ……やっぱ……こうなるよ、な……。


 気を抜いた瞬間、一気にそれは来た。

 激しい倦怠感、激しい憔悴感……それらが俺の身体中を侵し、蝕み、蔓延する。


「ぅぁ……」

「スーちゃん!?」


 そして俺は、言葉にもならない声を上げ、そのまま地面へと勢いよく倒れ伏した。




◇◇◇

小話:

ついに少しだけスパーダの秘密が明らかになりました。

魔法の仕組みについてはまた別の機会にしっかりと説明がありますので少しお待ちを。


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