第9話 提案
決闘、それはルールを定め、双方が合意の上で行われる一対一の戦いである。
これは主に己の誇りや尊厳を懸けて行われるものであり、勝者は敗者に何でも一つ言う事を聞かせる事が出来る。
この国に存在するれっきとした制度だ。
まぁ使うのは主に『騎士』だけど。
「お前が勝ったら、俺を好きにしてもらって構わない……その代わり、俺が勝ったら……俺を解放してくれ」
決闘で交わされる誓約は絶対……いくらリンゼでも、負ければ言う事を聞かねばならない。
これならばこの不条理な状況から完全に脱する事ができる。
リンゼの目を真っすぐに見詰めながら俺は言う。
「そ、そんなの……駄目だよ!」
「はっ……何だよ。怖いのか? 俺と戦うのが」
「当たり前だよ! なんで大好きなスーちゃんと戦わなきゃいけないの? 私が強くなったのはスーちゃんに相応しい人になるため! スーちゃんと戦うためじゃないよ!」
そういうことか。
なるほどな、と俺はため息を漏らす。
「言っとくぞ。俺はお前が好きじゃない」
「う……」
俺の言葉にリンゼは酷く落ち込む様子を見せた。
「だから俺はお前から離れたい。だから俺は……俺の全身全霊を懸けて、お前に挑む」
「……スーちゃん……」
ニヤリと笑う俺に、リンゼは考え込むように顔を伏せる。
やがて顔を顔を見せたが、その表情はあまり優れていなかった。
「……やっぱり、ダメだよ」
「ま、そりゃそうか……。お前の方からすりゃあこんな決闘にわざわざ乗る必要もメリットもないもんな」
「そうじゃないよ。SランクとBランクじゃ、勝負にならない……それに、スーちゃん魔法使えないんでしょ?」
「あ? 何だ、知ってたのか」
「うん。ギルドで調べた」
だろうな。
ちっ……だがまずいな、これじゃ素直には乗らないか……なら……。
俺は更に畳みかけることにする。
「なら条件を付け加えればいい。攻撃魔法の禁止とかな。それなら少しは良い勝負になるし、気兼ねなくやれるだろ。ま、それかお前が自主的に魔法を使わないとかでもいいが」
「そ、それはそうだけど……」
決闘のルールはデフォルトが存在しており、当事者たちはそれを自由に変更することが出来る。
そのため俺が今言ったようなルールも組み込むことが可能なのだ。
「……」
しかし、リンゼは未だ決めあぐねたような表情を見せる。
煮え切らないな……仕方ない。
今のコイツには死んでも言いたくないが……、
痺れを切らした俺は、最終手段を口にした。
「そんな固くならずによぉ……見せてくれよ。お前のSランク冒険者としての強さを……」
「で、でも……」
「もしお前が決闘で強さを見せたら……カッコよくて俺、お前に惚れちまうかもなぁ……」
「っ!?」
掛かった……明らかにリンゼの目の色が変わった。
やっぱり、コイツの俺に対する執着心は異常だ。
だけど……だからこそ、そこに付け入る隙がある。
俺のこんなわざとらしい言葉に動揺しているのがその証拠だ。
コイツは俺のことを案じている。
だがそれ以上に、コイツは心を含めて俺を手に入れたいと思っている。
そして今、それを手に入れる方法を俺が示した。
だから、この話に食いつくはずだ…… !!
「さぁ……どうする?」
ニヤリと笑う俺。
次の瞬間、リンゼの表情は晴れやかになっていた。
先ほどまでのしゅんとした様子は何処へやら、そんなものは一瞬で吹き飛んだといった様子だ。
「本当! ぜ、絶対? 今度こそ約束破ったら許さないからね?」
今も十分許されてないだろうが……!! ていうか現金すぎるだろコイツ!! 態度急変しやがって!!
「あ、あぁ」
ツッコむ気持ちを必死に抑え、俺は言う。
「破ったら……分かってる?」
「は、はは……」
そう言うリンゼの目には狂気さと、真剣さが孕まれていた。
「よーっし! それならさっさと準備しないとね!! 善は急げだよ!!」
何も善じゃないけどな!!
再びツッコミ気持ちを抑え込む俺を他所に、リンゼは決闘の準備を始めた。
場所の手配、立会人の手配、ここから決闘場所までの移動手段の手配。
流石Sランク冒険者といったところだろう、顔が広く
もし日取りが数日後とかになるのなら、俺は何処かでメシを食わなければならないのだが……。
「スーちゃん決まったよ!」
「おぉ早いな。で、いつだよ」
「今日!」
僥倖な事に、リンゼとの決闘は何とその日の内に行う事が決まった。
◇◇◇
小話:
騎士については今後別の機会にちゃんと登場するのでお待ちいただけると幸いです。
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