第6話 本性
「うぇぇ……ひっく……ひっく……ぅぅ」
「やーい! 弱虫リンゼ!!」
「やーいやーい!」
町の路地で、二人の少年が少女を虐めていた。
少女は泣き、彼らはそれを見て楽しんでいる。
「いつもいつもおどおどしてて気持ちワリィんだよー!」
「それに何だよその髪! お化けみてぇ!」
少女の前髪は目元を通り越し、鼻辺りまで伸びていた。
「それじゃあ前見えねぇだろ! 俺が切ってやるよ!」
「や……いやぁ……!!」
いじめっ子の内の一人が、少女の前髪を思い切り掴み上げた。
それに痛み感じた彼女は堪らず声を上げる。
「何やってんだてめぇらぁぁぁぁ!!!」
その時だった。
彼らの元に、ものすごい勢いで走って来る一人の少年が現れる。
「リンゼを虐めるなお前らぁ!!」
「ス、スーちゃん……!」
自分を助けてくれる存在の到来に、少女は歓喜の涙を流す。
「スパーダ!! うるせぇぞ、そんなの俺らの勝手だろうが!!」
「そうだそうだー!」
スパーダと呼ばれた少年はそう言われると、ニカッと笑って歯を見せる。
「そうかよ……なら俺も、勝手にやらせてもらうぜ!!」
彼はそう言うと、いじめっ子たちに殴りかかって行った。
◇
「ち、ちくしょーが!!」
「覚えてろー!!」
喧嘩の開始から十分後、敗れたいじめっ子の二人はそんな捨て台詞を残してその場を立ち去って行った。
「だ、大丈夫? スーちゃん!!」
「っててててて……おう、まぁな」
助けられた少女は、自分を助けてくれた少年に駆け寄る。
少年は強がるが、体中はボロボロで「勝ち」とは言え、それは「辛勝」だった。
「ごめんね……いつもいつも、私がこんなんだから……」
「ばーか! 気にすんなよ。俺は最高の冒険者になる男だからな! あんな奴らなんて屁でもねぇぜ!!」
少年はそう言って少女に笑顔を見せる。
その笑顔は、いじめっ子に見せたモノとは違い、大切な人に見せる……確かな表情だ。
「うぅぅぅぅぅ……スーちゃぁぁぁぁぁぁん!!」
「ちょ、バカお前くっつくなって……!?」
涙腺が決壊し、多量の涙を流しながら少女は少年に抱き着く。
いじめられっ子な幼馴染の少女を、幼馴染の少年が助ける。
それがこの二人の日常だった。
◇
事が収束し、町の大通りまで二人で戻って来た。
向かいには冒険者が入り浸るギルドの地方局があり、それを見ながら彼女はこう言った。
「ねぇ、スーちゃんはどうして冒険者になりたいの?」
「あぁ?」
何を今更、と言わんばかりの表情を見せる少年だったが、すぐさま表情を輝かせる。
「決まってんだろリンゼ!! 冒険者ってのは自由だからだ!! 色んなものを見て、色んなことをして、色んな人に出会って、笑い合ったり酒を飲み合ったり……それってすっごいワクワクするだろ!!」
「……う、うん……」
少年が力説するが、どうやら少女にはあまり伝わっていないようだ。
「おまけに冒険者ってすっごいカッコよくて強いんだぞ!! 四百年くらい前には、冒険者の中でも最高峰の力を持った冒険者で結成された【勇者パーティー】ってのが魔王まで倒したんだ!! くぅーーー!! 俺がもっと早く生まれてパーティーメンバーになってれば魔王を倒した英雄になってたのになぁ……!!」
拳を握りしめ、少年は何故もっと早く生まれなかったのかと後悔する。
しかしそんな事を悔いても仕方の無い事だ。
そう思い、切り替えるように少年は声を上げる。
「とにかく! まず俺は冒険者になる!! そしてその後、誰もが認める世界一の冒険者になる!!」
少年は少女を指差し高らかに宣言した。
「……そ、そっか」
少女は微笑むと、意を決したように少年の目を見た。
「ス、スーちゃん!」
「ん? ど、どうした?」
突然覚悟を決めたように顔を強張らせる少女に驚いた少年は一歩後ずさる。
「あ、あのね……お、お願いがあるの!」
「お願い?」
リンゼが俺にお願いなんて珍しいな。
いつも俺の後ろを付いて回るような奴なのに。
少年はそう思わずにはいられなかった。
だが、この幼馴染がこうまで意思を示すとは珍しい……少年は興味に引かれるようにその願いに耳を立てた。
「え、えっとね……わ、私も冒険者になる!! そ、それで……も、もし私がすごい冒険者になったら……そ、その……わ、私とけ、けけけけ……////」
「け……?」
顔を真っ赤にしながら俯き始めた彼女を少年は訝し気な目で見る。
やがて、何かを堪えるように再び彼の顔を見た少女はこう言った。
「私と、け……結婚して下さい!」
「……は?」
結婚?
「どゆこと?」
唐突過ぎる「結婚」という単語に少年の脳は理解が追い付かなかった。
「ス、スーちゃん冒険者になるんでしょ? だ、だから私もなる! そ、それでスーちゃんの隣に並んでも恥ずかしくない冒険者になる!! だから……!!」
顔を真っ赤にしたまま少女は少年に思いの
「……」
初めての事に戸惑う少年。
だが七歳の彼はまだ、無邪気で無垢だった。
「おう! いいぜ!! よく分かんねぇけど!」
特に何も考えず、少年はオーケーした。
自分の申し出受け入れられた少女はたちまち晴れやかな笑顔を見せる。
「うん! 約束だよ?」
心底嬉しそうに、少女は言った。
◇
「ん……んぅ……?」
何だ……、何か懐かしい夢を見ていた気がする……。
俺は、謎の倦怠感と共に重い瞼を開け目覚めた。
「こ、こは……?」
キョロキョロと辺りを見渡す。
どうやら誰かの家の中にいるらしい。
周辺の家具や生活感あふれる匂いが俺にそう判断させる。
「……え?」
次いで、俺は体を動かそうとした。
しかし、そこに異変が生じる。
「な、何だよこれ……!?」
俺は今椅子に座っている……いや、
俺の体は、椅子に縛り付けられていた。
「あ、起きた? スーちゃん」
「……リンゼ!」
部屋の扉が開いたかと思うと、そこから幼馴染のリンゼが現れる。
「こ、これはどういう事だよ……?」
縛られている腕に力を籠めながら、恐る恐る俺は彼女にそう尋ねた。
「んー? それはスーちゃんが酷い事を言うからだよ……?」
人を縛り上げ、半ば監禁のような状態に追いやったであろう彼女は、ニッコリと笑い掛けた。
「ひ、酷い事……」
「うん! 私ショックだったなぁ……」
「え、えーと……よく分からないんだけどぉ。あは、ははは……」
な、何がどうなってる……!?
俺は平静を取り繕ったまま、軽い頭痛にまみれながらも頭を働かせる。
どうしてこんな事に……!!
「酒場で寝たスーちゃんをラドさんから任されたから、その日の内に馬車で王都にある私の家まで運んだの!」
「っ!?」
すると俺の疑問を見透かしたかのようにリンゼが答えた。
微笑む彼女は、何の悪気も無いと言った様子で……それがまた一層不気味さを増幅させた。
◇◇◇
小話:
リンゼをいじめていた少年たちの名前はタダとナダと言います。
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