筆者の中学時代の同級生について書かれたエッセイ。
あるあるありますよねと、ある程度以上年齢を重ねた人は自らの思春期を振り返って共感を覚えることだろう。その年頃は、どうしても他人と自分を比較して、どっちが上だとか下だとか考えずにはいられないのだ。
筆者の場合、その対象は同級生のKだった。地頭の良さと並外れた集中力を備えた彼は、短期間で驚異的に学力を伸ばし、有名進学校に合格する。そして、高校入学後は女遊びに耽ったり、町を遊び歩いたりとやりたい放題になるのだ。
筆者や周囲の同級生たちには、Kは学校という枠をはみ出しても生きていける力を持った特別な存在に見え、彼の自由さを嫉妬と羨望の目で見るしかなかっただろう。それに引きかえ自分はルールに縛られて決まりきった日々を過ごすしかない存在だと、劣等感を否が応でも感じてしまっただろう。
もっと人生経験を積めば、自分は自分、他人は他人と分けて考えられるようになるのだが、思春期の真っ只中にある人間には、そんな余裕はないのだ。身近な一人の人間を神格化し、全てそれを基準に考えたりする。その実態がどうであれ。
Kが放蕩生活の中でやっていることが、クラブでナンパとかビリヤードやパチンコ、麻雀と書かれているあたり、だいぶ昔の話なのだろう。
今、彼は当時の自分をどう思っているだろうか。筆者が見ていたような大層な人間とは思っておらず、あの時はバカをやってたな……と苦笑するかもしれない。
時を経て、熟成された味わいのあるエッセイでした。