第2話

 彼は、努力が実を結んだ瞬間つまり名門進学高校に合格したのと同時に勉強をすることを辞めてしまったようだ。しかし、彼の後の人生を見てみても明らかなことなのだが、彼のとった行動は正しかったようだ。

 では、どのような行動をとったのかというと、高校入学後の四月に彼は初体験を済ませていたのである。同級生の間で「Kのやつ、童貞捨てたらしいぜ」と囁かれているのを僕は地元の駅前で耳にしたのを覚えている。正直に言うと僕はそんなKの変貌ぶりが喉から手が出るほど羨ましかった。

 どんな女の子と彼が初体験をしたのかは、僕の知るところではないが、僕が彼を見た感じでは彼はあか抜けていたことは事実だった。

 髪の毛の色を金髪に染め、煙草を口にくわえて何の匂いか分らないが良い匂いをさせて学生服姿で歩いている彼を僕は何度か地元の駅前で見かけたことがある。その時、僕は彼に色気を感じた。そして、十五歳の人間としては何物にも縛られていない、解放された姿を僕は彼に感じた。彼は、見事に中学時代から豹変していたのである。

 普通の高校生なら学校の部活動に打ち込んだり、勉強を一生懸命したり、適当に歳相応の遊びをしながら毎日を過ごすというのが一般的だと思うのだが……。

 僕の場合は、太宰、芥川、漱石、鴎外などの小説を読み漁り、セックスピストルズやクラッシュを一生懸命聴いていた。どちらかというと、内向的で不健全な高校生活を送っていた。

 それに反して、彼に関する情報は同棲を始めたとか、また女を変えたとか色気に満ち溢れたことばかりで、僕は心の中でKの奴また過激なことしているなと呟いて、面白そうな人生で羨ましいなと思った。

 そんな高校時代、中学校時代の同級生達に会う度に話題の的となるのは当然Kの近況についてだった。誰かが、どこかで、必ず情報を握ってくるので僕はそのことに必死になって耳を傾けていた。

 彼は、少年時代を飛び越えて、いきなり大人びてしまったのである。女と一緒にいない時は、クラブでナンパしているか、ビリヤードをしているか、雀荘に入り浸っているか、などなど彼はとても名門進学高校に通っている人間とは思えない行動をとっていたのである。

 同級生みんなが、彼の生活ぶりを羨んでいた。僕も彼を羨望のまなざしで見ていた。みんなが、変化のない日常を送っている中、Kだけやりたい放題の生活をしている事実は僕達には衝撃的だった。

 彼は、早々と人生の酸いも甘いも嚙み分け始めていたのである。

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