第7話 時渡り×土地神
「じゃあやるぞ! お前ら計画どおりにやれよ!」
翔琉が亘達へと叫ぶが、3人は返事をせずにただ無言で翔琉を見ている。
「な、なんだよ」
「お前が言うなよなー」
「ほんとだよ。いつも計画通りにやらないの、翔琉じゃないか」
「亘の言う通りだ」
「な!」
確かにその通りなので、翔琉は何も言えず口ごもる。
だが今回は相手が土地神の水の神なのだ。翔琉でも勝手なことをしたらただではおかないことは分かっている。
「今回はちゃんとやるって! 相手が相手なんだ。計画どおりにやらねえとうまくいかないだろ」
「ならいいが。絶対に勝手な行動とるなよ。命に関わるからな」
「あ、ああ」
亘に釘を刺され翔琉は気を引き締める。
「もう一度確認するぞ」
シュラが計画を言う。
「中に入ったら、まず翔琉はさっきと同じようにすべてを浄化。その後水の神が姿を現したら、亘が水の神の動きを止めろ。そして翔琉は杖で水の神から不浄を取り除け。その間、湧き出てきた魔物は俺とシュラで排除する」
そこで翔琉はある不安が過る。
「なあ、亘。その、お前の拘束術って水の神に聞くのか?」
相手は土地神だ。人間の術が効くとは思えない。
「まあ普通なら効かないだろうな」
そう言ってある物を袴のポケットから取り出す。見れば2つの指輪だ。
「指輪?」
「ああ。ただの指輪じゃないぞ。『
「神器?」
「うちの神社に代々伝わる物だ。これをはめると、術の強さを増幅させてくれる。これは強い魔物や、魔に落ちた神用だな」
神器のため、神にも効くということか。
「すげー! 俺もほしい」
目を輝かせて言う翔琉に亘は嘆息する。
「お前は必要ないだろ。時を司る神から特別に力を分け与えてもらってるんだから」
そこで翔琉ははっとし亘へ詰め寄る。
「なあ、俺ら本当は今日仕事は休みじゃないか。これって休日出勤みたいなもんだよな? 残業代とか出るよな?」
「出るわけないだろ。正当な依頼はポン吉に杖を返すまでだ。その後のこの処理はどうみても個人的な案件だ」
「えええ! なんだよ! ただ働きかよ! せっかくの休みなのにー。また明日からずっと仕事なんだぜー!」
翔琉はその場に大の字に寝転ぶ。
「やる気が失せた……」
すると、シュラは手を腰にあて、リュカは腕組みをし、呆れたように覗き込む。
「ガキみたいなこと言ってるんじゃねえ翔琉。文句言ってねえで、さっさと済ませるぞ」
「そうだ。早くしろ、翔琉」
そんな2人に翔琉はムッとする。
「ほんとこういう時、優しく言ってくれる女性の守護神がいいって思うぜ」
翔琉は口を尖らせながら起き上がる。
そんな翔琉達にポン吉はぼそっと言う。
「なあ、本当にうまくいくんだろうな」
尻尾をさげ不安げに見あげてくるポン吉にリュカが応える。
「やってみないと分からん。うまくいくことを願ってろ。ガキ」
「!」
――ガ、ガキだと! なんだこやつは! だが顔も纏っているオーラも怖くて何も言えん。
「わ、わかった」
ポン吉はしぶしぶ頷くと、時和達がいる結界の中へと踵を返す。
「じゃあ。行くぞ。作戦開始だ!」
門の中へと入ると、翔琉は【
「亘! あれが土地神だ!」
「わかった」
亘は両手の人差し指と中指をたて、胸の前で十時を作る。次に『
「【
すると水の神の周りに光り輝く鎖型の円形が何重も現れた。
亘は右手の2本の指をを自分の鼻の前にたて、言葉を発する。
「
声に反応し、光りの鎖は一気に水の神を締め付け縛りあげる。
「!」
魔物と化した水の神は、声にもならない叫び声をあげ、もがき苦しみながら拘束を外そうと暴れる。
「くっ!」
亘は外されないようにぐっと歯を食いしばる。少しでも気を許せば、締め付けた鎖が切れてしまうほどの力だ。
――『陽月環』をつけていても、この力か! さすが土地神!
「いいぞ翔琉! やれ!」
亘の号令で翔琉は『
「
すると杖の先の鏡が光り出し、一気に水の神を包み、不浄を吸い上げ始めた。
「があああああー!」
水の神は顔をあげ絶叫し苦しむ。その絶叫は辺り一面に響き渡り、地響きのように空気を揺らす。
「ぐっ!」
水の神のあまりにも強い抵抗に亘の体はぐらつき、前に倒れそうになるのを膝を曲げ懸命に踏ん張る。
――くそ! 何か見えない糸で引っ張られる感覚だ。
このままだと力負けして、拘束が外されてしまうかもしれないと弱気な考えが頭を過る。
ふと横を見れば、翔琉も同じように歯を食いしばり懸命に杖を掲げている。杖の吸い込む力が強いため、左右に揺れるのを抑えるのに必死だ。
すると翔琉が亘へ振り向いた。
「亘! 大丈夫か?」
ほんと自分の方が大変だろうに、いつも人の心配をする。
「お前こそ大丈夫なのか?」
「俺はまだ行ける! 亘は?」
「そんなこと言われたら、俺も大丈夫って言うしかないじゃないか」
だがこの何気ない会話がどれだけ亘を勇気づけたか。まだ行けると思わさせてくれる。
「亘! あと少しだ。頑張ってくれ」
「ああ。だからお前も頑張れよ」
「おう!」
シュラとリュカも翔琉と亘達を気にしながら、次々と湧き出てくる魔物を倒していく。
「どれだけ湧き出てくるんだよ。切りがねえ!」
「泣き言を言うなシュラ。お前が考えた作戦だろ」
「わかってるよ」
そして翔琉達を見る。2人とも疲労してきているのが見て取れる。水の神は大分浄化されてきているようだ。
――あと少しだ。
しばらくすると、『凌鏡の杖』の吸う勢いが収まってきた。
それが合図だった。
翔琉は杖を目の前の地面に突き立てる。そして両手の人差し指と中指で十字を作り、右手で複雑な印を描き叫ぶ。
「【
翔琉の指から光りの輪が現れ、辺り一面に一気に広がり、水の神を含めた周りの瘴気、魔物すべてが一瞬にして浄化された。
すると、すうっとそよ風が辺りを優しく吹き抜け、肌に心地良く纏わり付く。そこで今まで無風だったことに気付く。
水の神を見れば、下を向いているため、長い髪が顔を隠し表情を見ることは出来ない。だがもう瘴気は感じられず、重い神気を放っていた。
姿も今までとはまったく違っていた。頭には、金で装飾された冠をかぶり、服装は水色と白のグラデーションが鮮やかな透き通った衣を羽織り、キラキラと水辺のように光りを放っている。まさに水の女神そのものだった。
「あれが本来の姿の水の神……」
翔琉の言葉に反応するように、水の神がゆっくりと顔を上げる。
そして翔琉達へと視線を向け言い放った。
「出ていけ。人間ども」
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