第6話 凌鏡の杖



わたる! それにリュカ!」


 振り向けば、そこには時渡りの仕事をする時に着る着物と袴を着た亘と、リュカがいた。


翔琉かける、勝手に時渡りするのやめてくれ。探す身にもなってくれ」


 亘は肩を窄めながら文句を言う。


「知らねえよ。俺のせいじゃねえし」


 そう言って座敷わらしを見れば、バツが悪そうな顔をしている。

 亘も釣られて時和とわと座敷わらしへ振り向く。すると時和が気付き、「亘兄ちゃーん!」と手を振ってきた。

 亘も笑顔で手を振り応える。


「時和。危ないからそこから絶対に出ちゃだめだよ」

「うん! わかったー!」


 笑顔で言ってから亘は翔琉へ向き直り、翔琉達の背後の門の中へと視線を向ける。


「なるほど。あれが魔に落ちた土地神ね」

「! なんで知ってるんだ?」


 翔琉は驚き声を上げる。


「だいたいの話は分かっている」

「え?」


 それにはシュラもポン吉も驚き眉を潜め亘を見る。


「今、土地神を鎮めるのに困ってるんだろ?」

「ああ……」

「じゃあ、これが必要ってことだね」


 亘は手に持っていた物を差し出す。


 先端は五角形に形取られ、その中に丸い鏡がはめ込まれた木彫装飾が施された杖だ。柄の部分は太さは3㎝はあるだろうか、かなり太く、ここにも木彫装飾がされていた。そして長さも1メートルほどと長い。


「杖?」


 するとポン吉が飛び跳ね叫ぶ。


「おお! それは父の『凌鏡りょうきょうつえ』じゃ!」


「え?」

「まじか!」


 翔琉とシュラは驚き見る。


「なんでそんなもん亘が持ってるんだ?」


 すると亘が待ってましたという顔で笑う。


「実は不法トラベラーに盗まれてたんだ」

「え?」

「これがまたタイミングよく、うちの【きのえ】部隊に依頼が来てて、神器『凌鏡りょうきょうつえ』を取り返して返すという内容だったんだ。それを俺とリュカは時渡りして不法トラベラーの盗賊から奪い、今こうして持ってきたってわけ」


 理由は分かったが、なぜそうなったかのかが分からない。 

 すると亘は翔琉達に分かるように詳しく現代であったことを説明した。




            ◇



 

「簡単なことじゃ。時渡りの依頼をしてほしいのじゃ」

「え?」


 まさかポン吉から時渡りという言葉が出るとは思わなかった亘は一瞬戸惑う。そんな亘には気にもせずにポン吉は話を続ける。


「亘、お主は時渡りじゃろ?」

「あ、ああ……」

「そして、今翔琉と時和は過去へ行っているであろう」

「!」


 亘は目を見開く。翔琉と時和のことまで分かっているのかと驚き息を呑む。


「なぜそれを……」


 ポン吉は手を腰に当て胸を張る。


「わしは神なのだ。なんでもお見通しよ」

「……」


 いやそれは絶対に違うだろと、亘は無言の抗議の目を向ける。


「まあ……それは嘘じゃ」

「だろうな」

「本当は、亘が今日ここに来ることを1000年前からわかっていたのじゃ」

「!」


 そしてポン吉は何があったかを話す。それにはさすがに亘は驚く。


「じゃあ、今俺達の時渡り部隊【きのえ】に来ている依頼をして、取り返した神器『凌鏡りょうきょうつえ』を過去へ行って翔琉達に渡すということか?」

「うむ。そうじゃ」


 亘は考える。確かに目の前の子狸は力は弱いが神の類いだ。だが狸だ。昔から狸は騙す生き物という位置づけにいる。もしかしたら神というのも嘘かもしれない。


 ――本当にこの子狸の言うことを信じていいのか?


 どうしても信じ切ることが出来ない。何か決め手となるものがあればいいのだが、それもない。


「君が本当のことを言っているのか信用が出来ない。だから悪いけど――」


 するとポン吉は、そうじゃったと何か思い出したように言葉を重ねてきた。


「たぶん亘とリュカは翔琉と違ってすぐ信用しないから、シュラから言えと言われていた言葉があったんじゃ」

「?」

「リュカ、越時には謝ったか? と言えば必ず信じると言われたのじゃ」



 そしてリュカが来てポン吉の言うことは本当だと信用したのだった。



 その後神社に戻れば、ポン吉が言っていた通りに依頼が来たばかりだった。それには亘とリュカは驚いた。あまりにもタイミングが良すぎたからだ。

 依頼が来た時間から、時空警察が犯行を把握したのは今日だ。翔琉達が過去へ行った時間とあまり変わらない。こんなことが出来るのは、現在過去未来を把握していると言われている時を司る神しか出来ないことだ。


「これはどうみてもやらないと駄目って事だね」

『そのようだ』

「今頃翔琉達は困ってるだろうから、ちゃっちゃと済ませるぞ」


 そして亘とリュカは依頼をこなし、『凌鏡りょうきょうつえ』を持って翔琉達がいる過去に来たのだった。



            ◇




「じゃあ、この杖があれば浄化出来るってことだな」


 翔琉は亘から杖を受け取る。持ってみるとかなり重い。これでは小さいポン吉には持てないはずだ。

 翔琉はシュラに杖を渡そうと差し出すが、「お前がやれ」と言われる。


「え? 俺?」

「ああ。俺やリュカではその神器は扱えん」

「なんで?」


 それには亘も分からず眉を潜める。


「俺ら四天王は荒魂あらみたまの霊魂に近い。それに対しその神器は和魂にぎみたまだ。正反対のため俺らでは扱えん」

「それってどういうこと?」


 亘が体を乗り出し聞く。


「神器は言葉の通り神が作った、または神が使うものだ。そのため神器は荒魂と和魂の要素を持っている。その杖はポン吉の父親が作った物だ。ならば和魂で作られている。そのため和魂ではない俺らでは霊力を流すことも発動させることも出来ないんだ。その点、人間は荒魂と和魂両方持ち合わせているため発動条件は満たしている。そして翔琉は時を司る神から力の一部を借りているため神器が使うことが出来る。だから適任なんだよ」

「じゃあ、俺がこの杖を使って? でもどうやってやるんだ」


 翔琉は杖を眺める。何か呪文を唱えたりするのではないだろうなと思っていると、シュラがふっと笑う。


「そう心配するな。ただいつものように浄化をする感じで翳せばいい」

「え? それだけ?」

「ああ。時を司る神がお前にさせるということはそういうことだ」

「? どういうことだよ」


 翔琉は眉を潜め首を傾げる。


「頭の悪いお前でも出来るということは、翳せば発動するということだな」

「なっ!」


 くくっと悪戯に笑うシュラの腹に翔琉は肘鉄を食らわす。


「いてー! 何するんだ!」

「お前がバカにするだからだろ!」

「バカにしてねえ。本当のことを言っただけじゃねえか」

「誰がバカだ! 俺はバカじゃねえ!」

「バカだと思ってないことが、もうバカなんだよ!」


 そんな2人に珍しくリュカが怒鳴り叫ぶ。


「いい加減にしろ! バカ2人! そんなことしてる場合ではないだろ!」

「ほんとに」


 亘も嘆息しながら何回も頷く。


「そうだった。ごめん」

「すまん」


 翔琉とシュラはしゅんとなる。



 その様子を見ていたポン吉は、



 ――こいつらに頼んで本当に大丈夫なのだろうか?



 と後悔をするのだった。




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