第4話 ポン吉と土地神


 翔琉かける達はポン吉と座敷わらしに林の中にある場所へと連れて行かれる。

 そこは大きなお屋敷があったらしい場所だった。あったらしいというのは、所々崩れた石で作った塀で囲われ、出入り口の朽ち果てた門の中は、崩れ落ちた木材が散乱し、その上に長年放置されていたため雑草が生えていてよく見えない建物らしき残骸があったからだ。


 ポン吉と座敷わらしは門の前で足を止める。


「ここじゃ」


 だが中へ入ることはない。その理由は1つ。


「すげえ淀んでるな。それにうじゃうじゃ魔物がいるぞ」


 翔琉は眉を潜める。


「そうじゃ。それにあまりにも不浄なため、わしと座敷わらしは中へ入ることが出来ないのじゃ」


 すると、翔琉は腕まくりをし門へと歩きだす。


「じゃあ、ここを浄化すればいいってことだな」

「ちょっと待つのだ翔琉!」


 ポン吉は翔琉の足首にしがみつき止める。


「ポン吉、大丈夫だ。すぐ終わるから」


 翔琉はポン吉をひょいと掴み離れさせ、今にも門へと足を踏み入れようとしたところを、今度はシュラが腕を掴み止める。


「待て翔琉」

「なんだよシュラまで。浄化すればいいだけだろ?」


 振り仰げば、シュラは門の中へと目線を向け深刻な顔をしていた。


「どうしたんだよ……」


 心配になり声をかける。


「下がるぞ」


 シュラは左手で時和とわを抱き、右手で翔琉の腕を引っ張り後ろに下がる。


「なんだよシュラ」

「分からないのか? この状態の一番の原因がいることを」

「え?」


 目を眇め門の中を見れば、そこに魔物だと思っていたものが違うことに気付く。


「なんだ……あれ……」

土地神とちがみだな」

「え?」


 翔琉は驚きシュラを見る。


「土地神?」


「ああ。あれは土地神が魔物に成り下がった姿だ」


 するとポン吉が頷く。


「そうじゃ。元はここの土地神だった水の神だ」

「水の神? 井戸か何かがあるのか?」


 水の神と言えば、必ず水が関わってくる。


「違う。この土地に元々小さな池があったのじゃ」


 ポン吉の説明にシュラはすべて理解し歯噛みする。


「池を埋めたのか……」

「そうじゃ。そのため逃げ道を失った水は滞り、そのため今まで綺麗だった水は濁ってしまった。そのため土地神の水の神は怒り不浄の地となってしまったのだ」


 その理由は1つ。シュラは尋ねる。


「人間は池を埋める時に土地神に許しを請わなかったのか?」

「うむ。人間はいきなり来て池を埋めたのじゃ」

「……土地神が怒るのは当たり前だな」


 神の怒りにふれ、何かしら障りが出たのだろう。そのためこの土地を放置したか、もしくは全員亡くなったかの理由で廃墟と化したのだろう。


「シュラ、どういうことだ?」


 翔琉は意味が分からない。


「普通、神がいる土地をいじる場合、神の許しをもらい、代わりになる土地を用意して新しい土地に移ってもらうのが筋だ。それをせずにその土地をいじれば神は怒り、障りを起こす。お前だって今住んでいる家を知らないやつが勝手にやって来て住んだら怒るだろ? それと一緒だ」


「確かにそうだな」


「ましてや水の神となれば、流れる綺麗な水が必要だ。水が滞り濁れば本来の力を失う。ここの土地神も池を埋めたことで力を失ったんだろうな。そして時間が経てば経つほど怒りという負の感情が膨れ上がり、その場所は不浄になり魔物を呼び込む。そして最後には自分も魔物に落ちたというとこか」


 シュラの説明にその通りとポン吉は頷く。


「ああなった水の神は、わしの力ではどうにもならんのじゃ」


 ポン吉は顔を曇らせる。


「でもなんでこの場所にこだわる? 駄目なら他の新しい場所に社を建てればいいんじゃないのか?」


 無理して人がほとんど来ない場所に自分の社を作る必要性が見つからないのだ。

 シュラの質問に応えたのは座敷わらしだ。


「池の畔にポン吉様のお社があったのです。ですが同じく池を埋める時に一緒に取り壊されてしまったのです」


「それは災難だったが、この場所にこだわる理由が分からんな」


「実は、水の神――ハクラとはわしは仲がよかったのだ。だから魔物に落ちたハクラをどうにか救ってやりたいのだ」


 ポン吉は下を向いてぐっと前脚で拳を握る。


「だがわしにはハクラを救ってやれる力がない。だが土地の浄化だけはわしの父が持っていた代々伝わる神器の『凌鏡りょうきょうつえ』なら出来ると思いやろうとしたのじゃ」


「『凌鏡の杖』?」


「杖の先に鏡が付いておって、それで邪気を吸ったりするのじゃ。よく父はそれを使い浄化しておった」


 そんな凄いものがあったとは。だが――。


「それにしては、土地が浄化されてないぞ」


 そんな強い神が持っていた神器の杖ならば、土地の浄化など容易いはずだ。だがどう見ても浄化された形跡がない。

 するとポン吉と座敷わらしが気まずそうな表情を見せる。


「それがのう……無くしてしまったのじゃ」


 ………………。


「は?」


 翔琉とシュラは目を眇める。


「いつ?」

「それが分からないのじゃ。確か社の近くの木に立てかけてあった記憶はあったのだが……」

「立てかけてた?」

「うむ。重くて邪魔だったからのう。外に置いておいたのじゃ」

「…………」


 翔琉とシュラは目を細める。

 まさか大事な神器を外に野晒し状態で放置していたとは。


「そしたら気付いたら無くなっていたのじゃ」


 ハハハと悪気もなく笑う。


「まじかよ……」

「だから初めからお前達に頼んでいるではないか。わからんやつだのう」



 翔琉とシュラは、なぜか胸を張り仁王立ちになって上から目線で言うポン吉を、


 ――こいつ、一発殴ってやろうか。


 と思うのだった。










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