第2話 時和とシュラ
雷が落ち、辺り一面光りに包まれたと思った瞬間、
「!」
「嘘だろ……」
『亘!』
リュカも珍しく驚きの声をあげる。
「ああ。翔琉と時和が
『いない。翔琉と一緒だな』
なら安心かと安堵する。
「でもなぜ……」
翔琉と時和は時渡りの力を持っている。だから時渡りをしたことは不思議ではない。
だが腑に落ちないことが1つある。
亘は空を見あげる。やはり空は青空が広がり雷が鳴るような積乱雲はない。なのに雷が発生した。
「どういうことだ?」
するとリュカが亘を呼ぶ。
『亘、木の根元を見ろ』
そこには小さな祠があった。
「祠?」
それは石で作られた直径40㎝ほどの祠だった。
「こんな祠、あったか?」
『わからん。座敷わらしに気を取られていたから気付かなかったな』
今はそんなことを気にしている場合ではない。
「それより翔琉と時和だ。リュカ、先に神社に戻って
『わかった』
すぐリュカの気配が消えた。神社へと行ったのだろう。
亘はしゃがみ祠の中を覗き込む。
すると近くで声がした。
「おい」
亘は顔をあげ辺りを見渡す。離れた所には屋台が並び人がたくさん行きかっているが、誰も亘を見ている者はいない。気のせいかと思っていると、
「ここじゃ。下じゃ、下!」
亘は声のした右側の下を見る。するとそこに小さな子狸がいた。
◇
「翔琉さん、よろしくお願いします」
座敷わらしの言葉に翔琉は驚き声を上げる。
「しゃべった!」
「そりゃしゃべるだろ」
シュラが目を細めて突っ込みを入れる。
「いやいや、さっきまでは俺はこいつの話す言葉は分からなかったんだ。過去に来た途端に分かるようになった――」
そこでハッとする。
「そうだ! 過去! 過去だ! 過去に来ちまってる!」
「うるさい。ちょっと落ち着け。翔琉」
「落ち着いていられるか!」
オロオロしていると、隣りにいた時和が翔琉の浴衣の裾を引っ張る。
「ねえ、翔琉お兄ちゃん、過去に来たってどういうこと?」
「あ!」
時和も一緒だったことを忘れていた。
「えっとな。驚くなよ。そうだ。俺達は過去に来ちまったんだ」
「過去? ふーん」
「あれ? 驚いてない?」
もっと驚くのかと思ったらまったくそのようなそぶりを見せない。
――このぐらいの年齢の子供は驚かないのか?
だが時和はそうではなかった。過去というものがあまり分かっていなかっただけだ。それよりも時和の興味は翔琉の隣りにいる人物のようだ。
上半身甲冑を着け、下はアラビアンパンツのようなものを履き、足は裸足。髪は赤茶色で耳にはピアス、勾玉の首飾り、手には金のブレスレットをつけてた背の高い190㎝はあるであろうシュラに釘付けになる。
「この人は誰?」
時和はシュラを指さし尋ねる。
「あ、そうか。過去に来たからシュラは姿が見えるんだったな」
そこで翔琉は悩む。
――時和にはまだ俺らの仕事のことは言えない。シュラのこともどう説明すればいいんだ? やっぱり本当のことは避けたほうがいいんだよな。
説明に困っていると、シュラがばらしやがった。
「俺はシュラと言って、
「シュラ! ばらしていいのかよ!」
「別にかまわんだろ。どうせいい説明がないんだ。それなら本当のことを言ったほうがいい」
あっけらかんと言うシュラに翔琉は本当に大丈夫なのかと眉を潜める。
「しゅごしんってなに?」
時和は首を傾げる。
「守護神とは、人間1人には必ずついていて、守ってくれる神のことだ」
「じゃあシュラは神様なの?」
「ああ。そうだ」
シュラはしゃがみ目線を時和に合わせ微笑む。
「じゃあ僕にも守ってくれる神様っているの?」
「ああいる。お前は
「ぞうじょうてん?」
「ああ。今は難しいが大人になれば分かる。それまで楽しみにしておけ」
シュラは慈悲に満ちた笑顔を見せ、時和の頭をなでる。
「うん。わかった」
時和は嬉しそうに頷き、近くに落ちているどんぐりを見つけると、「どんぐりだ」と言って拾い始めた。
それを見ながら翔琉はぽかんと口を開ける。
「……納得したのか?」
「時和ぐらいの子供はまだ深く考えない。分かったと言ったが8割は分かってないだろうな」
シュラはクスッと笑う。
「下手に言い回すよりも、ストレートに言ったほうが子供は子供なりの理解をし納得する。納得すればそれ以上のことは考えないもんだ」
「そうなんだな」
「でだ。これからどうするかだな」
シュラの言葉に翔琉は、ハッとする。
「そうだ! 俺達過去に来てたんだ! ここはどこなんだ?」
おろおろしていると、シュラが嘆息しながら翔琉の背中に背負っているリュックからスマホを取り出す。
「スマホで分かるだろ。忘れたのか?」
「あ、そうだった」
過去へ行く時渡りの仕事をしている翔琉のスマホは、過去の時代や場所が分かるようになっている。
スマホを操作し、時代と場所を見る。
「1105年、平安時代の、あれ、この場所。祭りの場所じゃねえか」
翔琉は顔をあげ周りを見渡す。
「じゃあここは、大昔の地元か」
だが自分達がいる時代の面影はまったくない。ふと見れば、遠くに小高い丘が見える。
「もしかして、あの丘って俺らの実家の
「ああ。そうだな」
「おお! 行ってみようぜ。昔の自分の神社がどうなっているか見てえ」
「やめとけ」
「なんで? ちょっと見るだけだぜ」
「行っても何もないぞ。まだあそこにお前の神社はないんだ。お前の神社があそこに出来るのは、もう少し後だな」
「シュラはこの時代にはいないのか?」
「まだいないな」
すると、後ろから申し訳なさそうに座敷童が声を掛けてきた。
「あのー、そろそろよろしいでしょうか……」
「あっ!」
「あっ!」
すっかり忘れていた。
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