084 護衛任務

「劇団の護衛任務?」

「然りだ」


 しかと頷いたシドウ隊長から新任務を告げられたのは、討伐任務を終えたばかりの事だった。


「アスガルダムより南西に五十里ほど降った所に、ジオーサという名の小さな町がある。此処に現在巡業中のある劇団が訪れ、魔獣被害の慰撫も兼ねた劇が開催されることとなったのだ」

「つまり、その劇団からの要請ということですか?」

「その通りだ、ベイティガンよ」

「たいちょーう!そのある劇団ってのはー?」

「劇団ワーグナーだ」

「ワーグナー!マジで?マジで!すごいすごい、そんなとこの護衛任されるなんて⋯⋯ウチらも相当な注目株ってことだねっ」

「あまり図に乗り過ぎるなよ、シャム・ネシャーナ」

「わかってるって、えへへへへー」


 ほほう、劇団ワーグナーねえ。シャムの反応を見るにかなりの有名所らしいな。

 結成からまだ半月も経っていないレギンレイヴ小隊。けども積み重ねてきた依頼達成の数から、新進気鋭のチームと評判になっていた。

 そんで遂に、VIP相手の任務にまで就けるほどになったと。くーっ、いいねいいね、この認められた感じ。やっぱ主人公街道はこうでないと。


「護衛任務⋯⋯正直、アタシの性には合わないけど」

「といっても討伐以外はろくな任務がなかったんだ。たまにはこういう騎士らしい職務も良いと、僕は思うけどね」

「そんなこと言ってえ、ほんとはワーグナーの女優さんとかとお近づきになりたいとか思ってるんじゃないのー?やらしいんだぁクオっち」

「なっ、勝手に人を色魔扱いするなっ。生憎だが、僕は演劇に興味などないっ」

「あァ?だがテメェ、こないだ休日に劇場に誘ってきたじゃねえか。チケットが余ったとかなんとかで」

「ばっ!ヒイロッ、余計なことをっ」

「おやおやおんやぁ?ムッツリクオっちは、どーも興味しんっしんみたいですねぇ」

「ね、姉さん。クオリオさんだって男の子なんだし、むしろ健全な証だよ?」

「ぐ、く、く、く、うぐぅっ⋯⋯」

「しれっとトドメ入れたわね」

「見事に刺しやがったな。やるじゃねえか、リャム」

「ふぁ?」


 なんかクオリオの尊厳がガリガリと削られてるっぽいけど、それは一旦さて置いて。護衛任務かぁ。護る者ってイメージの強い騎士にはもってこいな任務だけど、正直シュラと同意見でもある。ただ討伐するのとは訳が違うだろうし。


(けど騎士らしいイベントだよな。やっぱり王道展開は護衛対象が実は訳ありなやんごとなき身分で、そこからアヴァンチュール的な仲に発展とか⋯⋯)

《やんごとなき身分ってなにさ》

(そりゃお姫様とかよ)

《アスガルダムの現国王は男だしまだ若いから、王女なんて居ませんけどー?》

(やめろ夢を壊すなぁ!鬼、悪魔、凶悪!)

《あはははは!》


 妄想ぐらいいいじゃん。現実突きつけるとか、さてはヒーローの変身シーンに攻撃すりゃ良いのにとか言っちゃう系だな。本当に凶悪な奴め。

 リアリスト鉄パイプへの憤然に、つい黙り込んでしまったからだろうが。そっと俺の二の腕に触れながら、リャムが諭すように語りかけてきた。


「大丈夫ですよ」

「あァ?」

「ヒイロくんなら、護衛任務だっていつもみたいにこなせますから。自信もってください」

「フン、なに勘違いしてんだ。俺にかかりゃどんな任務だろうが楽勝に決まってんだろ」

「はい、そうですよねっ」


 自信満々な返答がお気に召したのか、リャムはふにゃっとはにかんだ。

 どことなく大人びて見える微笑み。これもこないだ荒療治によるヒイロくん呼び効果なのかもしれないな。


「ヒイロくん、ね」

「あァ?なんか言いたげだなテメェ」

「べつに。特に。なんにも」

「⋯⋯そうかよ」


 けど何故かこうやってシュラに睨まれることが増えたんだよなぁ。なまじとんでもない美少女である分、迫力も凄いから勘弁して欲しいのに。


「ただちょっと、練習したくなっただけ」

「なんの練習だ」

「アンタを斬る練習」

「おい全然なんにもねえことねえじゃねえか!」

「うるさい馬鹿、変態、女の敵」

「後半二つ関係ねえだろ!」

「一番あるわよ馬鹿ヒイロ!」


 絶対練習って感じじゃなかったじゃん!

 しかも女の敵って。割と紳士的な方だと思いますけど!?

 くそう、これもヒイロフィルターによる毒舌の影響なのか。いや俺が気付いてないだけで乙女的にナシな事しちゃったのか。

 分からん。しかし言われっぱなしは癪だからと、反撃すべく口を開きかけたけども。


「────総員、正座ァァァ!!」


 俺の反撃の狼煙は、隻眼隊長による一喝によって掻き消された。

 その後、若気の至りというのもあるが、隊長の話は最後まで聞くようにと至極まっとうなお叱りを、延々と受ける俺達だった。


 なお長時間の正座により脚が痺れて立てないリャムを背負ったら、また機嫌の悪いシュラに睨まれる羽目になったことを、ここに記す。



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