080 リャム、強引に迫られる
前途多難っぽい感じだったけど、とりあえずシュラの説得には成功したと言っても良かった。
あの後、若干複雑そうながらもリャムに詫びてたし。リャムもシャムもなんらかの事情があるんだと察して、シュラの謝罪を受け入れてたし。
うん、正直納得してくれるかは賭けだったけど、流石は主人公の説得だ。言葉に押し切れるだけのパワーがある。万事解決万々歳ってね。
それからもレギンレイヴで何度か任務をこなしたけど、禍根も残ってないみたいだし。連携の粗さは度々シドウ隊長に指摘されてるけども。
「295⋯⋯296⋯⋯!」
そんな忙しい日々の中で、ようやっと貰えた休暇が今日である。
騎士職も労働。お役目仕事。ようは人間だ、休みがなくっちゃ務まらない。
趣味に没頭するなり外に出るなり遊ぶなり、気分転換は大事だろう。
「300⋯⋯!」
つまりこうして寮近くの空き地に寝転がってる俺もまた、休日を満喫している訳である。
うーん、やはり筋トレは良いね。いつもの量を更に増やして内容もよりハードに、なメニューをこなせた充実感は素晴らしいものがある。
(休日の筋トレ、充実するぜい⋯⋯)
《ボク、これっぽっちも共感出来ないや。休日もなにもいつもと変わんないじゃん)
(分かってないなぁ凶悪さんや。いつもは普通の腕立て伏せ二百。今日は回数三百に、プラス片腕立て伏せって内容もバージョンアップしててだな)
《あーはいはい。マスターの脳味噌が筋肉ってのはよーく分かったってば》
やはり鉄パイプには伝わないのか。いつもの自分を越えたって実感が、筋肉の躍動から得られる気持ち良さ。いいもんなんだけどな。
なんて風にくったりと疲労感を味わっていれば、フッと顔に影が差した。
「あ、これお水です」
「おう悪ィな」
「いえ」
そうそう。トレーニング後に冷たい水でぐいっとやるのも乙なのよ⋯⋯⋯⋯って。なにしれっと最初から居ました、みたいな顔して混ざってんのリャム。
「ンァ?なんでテメェが?」
「その、がんばってるなぁと思いまして。タオルもどうぞです。寮の管理人さんからお借りしたものですが」
「ほう。気が利く⋯⋯いや待て。そうじゃねえ。どうして此処に居る」
仮にも男性騎士寮の庭なんですけど。まさかあれか、実は恋人が居るので会いに来ました的なやつか。休日なんでこれからデートを、的なやーつか!
「この間クオリオさんから借りた本を、返そうと思いまして。不在だったんですけど。そこで頑張ってるヒイロさんをみかけて、つい。ご迷惑だったでしょうか?」
「んなことで迷惑がる訳ねえだろ」
違った。普通に知り合いに用だった。クオリオは本買いに出掛けてるし、たまたま行き違ったついでに、見かけた俺に差し入れをくれたと。
おいめっちゃええ子やんけ。天使か。
「つうか、姉の方はいないのな。双子っつっても、流石にいつも一緒って訳じゃあねえか」
「あ、はい。姉さんならシュラさんと一緒に服と小物を買いに行ってますよ。なんでも中央通りに素敵なお店が開いたらしくて」
「服ねえ。テメェも一緒に行きゃ良かったろうに」
「うーん。私、あまり服とかに興味がなくって。可愛いものだと値段もかかりますし、それに私みたいなのが着たってあんまり⋯⋯ですし」
「あ?ヒョロいはヒョロいが、見てくれ良いだろテメェ。何いってんだ」
「ふぁ。え、あ、どうも⋯⋯」
心のままに褒めただけで、照れたようにフードを被ってもじもじ、とは。うーん、やっぱり前から思ってたことだけど、どうもリャムは自己評価が低いよな。
魔術も二色使えるし、見た目だって愛らしい容姿してんのに。単純に褒められ慣れてないってより、謙遜の度合いが強いというか。
(つくづく、姉とは正反対だよなぁ)
《あっちはむしろマスターのがそっくりだよね。お馬鹿だし、勢い任せだし、お馬鹿だし》
(二回言うな二回)
凶悪は辛辣だけど、言ってることはもっともだ。
本能で生きてるようなシャムと比べれば、リャムは自己主張を殆どしてないし。別に悪いって訳じゃないけど、こういうタイプは割とストレスを溜め込みがちだと思う。
リャムにはクオリオと和解する為に協力して貰ったし⋯⋯ここはやっぱり俺がひと肌脱ぐべきだな、うん。
「そういえば、テメェにゃデカい借りがあったよなぁ?」
「え?か、借り、ですか?」
「忘れたとは言わせねえぜ。俺にマードックの爺を紹介しただろうが。あれがなきゃ俺は星冠獣目録を手に出来なかった。つまり、俺はテメェに恩があるって訳だ」
「そ、そんな⋯⋯私は別に大したことなんて」
「したっつってんだろうが!俺がそう言ってんだよ、あァ!?」
「ふぁ!?そそ、そですね、しました!ヒイロさんに借りお作りしましたー!」
「おう、そうだろうそうだろう」(うむ、素直でよろしい)
《マスター、普通に脅迫だよこれ》
いいのいいの。こういう謙遜な子は強引に行かないと駄目だから。
まずは無理矢理にでも自己主張させていくのが大事なのよ。 主人公に間違いはない。
「そこでだ。テメェ、なんか俺に命令しろや」
「め、命令って言われても⋯⋯」
「あんだろ。パン買って来いとか鉄パイプ磨けとか肩を揉めとか」
「しょ、しょんなこと急に言われてもぉぉ⋯⋯」
「あンだろ!」
「ぴゃい!」
《あ、マスター。ボクもちゃんと高級研磨剤で磨いてね。めいれーい》
(どうせまた磨く時に変な声出してからかうつもりだろうが。その手には乗らんぞ)
《喘いだっていいじゃない。きもちいいんだもの》
(黙らっしゃい)
しれっと主張の激しい凶悪の注文をスルーしつつ、ガッと肩をつかめばリャムは観念したように頷いた。なんかお目々ぐるぐるしてたけど、やり過ぎくらいが丁度良いよな、多分。
「あうあうあう⋯⋯⋯⋯じゃ、じゃあ、お願い良いですか?」
「おう、来いや」
そして、満を持して絞り出されたリャムのお願いは。
「⋯⋯⋯⋯一緒にお買い物、どうですか?」
全然普通の内容で、ちょっと拍子抜けした俺だった。
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