068 その物語の主人公は。




『俺の最期⋯⋯少しは主人公っぽかったですかね?』

『──はい。確かに。貴方は紛れもなく主人公でしたよ』









◆ ◆ ◆



「あううぅぅ⋯⋯」

「おや、どうなさいましたノルン様。せっかく第一章をクリアしたのですから、もう少し喜ばれては?」

「喜べる訳ないですよぉ!だってだって、ルズレーさんたち普通に強いじゃないですかぁ!」

「ああ。それはまあ、一応第一章のボスですし。原作プレイ済の方々の中でも、彼らには苦労したという感想も多いみたいですよ?」

「苦労しましたよほんと⋯⋯ショークさんは常にユーズアイテムでバッドステータス振り撒くし、ルズレーさんも普通にステータス高いし。そして例のヒイロさんはひたすらに白魔術でバフするからダメージは与えにくしこっちは痛いしで、十回もゲームオーバーになりましたよ!あれだけ厄介なのにどこがモブキャラなんですかどこが!」

「モブが難敵というのもRPGのお約束ですよ」

「そうかもしれませんけどぉ⋯⋯あれだけ強いなら、普通に騎士になった方がいいじゃないですかぁ⋯⋯」

「悪役とはそういうものです。現にルズレーは小物臭は凄いのに、なかなかえげつない企てを図りましたし」

「そうですね⋯⋯まさかハウチさんにシュラさんのことを教えたのが、彼だったなんて。しかもシュラさんがすぐ釈放されるからって知った途端、あの子を⋯⋯」

「シュラのルームメイト、シャム・ネシャーナですね。手紙を使っておびき寄せて、ショークで麻痺らせヒイロが拘束する。とんでもなく鮮やかな手際でしたね。悪い意味ですが」

「あのまま人質に取られたままだったらと思うと、ゾッとします。あの謎の声さんがシャムちゃんを助けてくれなかったら、どうなっていたことか」

「ええ。まあ、謎というか、シャムの双子の妹ですけども。リャムが魔術でシャムを救出してなければ⋯⋯R指定待ったなしの胸糞展開でしたでしょうね」

「⋯⋯はぁ。シュラさんを罠にはめた理由も、負けたことへの逆恨みですしヒイロさん側を応援したい気持ちがありましたけど、正直勝った時はちょっとスッとしちゃいました」

「そんなものでしょう。まぁともかく、これにて無事第一章クリアです。おめでとうございます、ノルン様」

「ありがとうございます⋯⋯でもここからヒイロさんの出番はなしかぁ」

「ええ、そうですね。ヒイロとしての出番はないですね」

「うん?なにか含んだ言い方しますね」

「ふふふ。この先のストーリーを進めれば、いずれ分かることですよ」

「な、なんですかその暗黒微笑は⋯⋯うう、嫌な予感しかしません」

「それはもう、ノルン様の気分がずーんと沈んでいくのが楽しみで楽しみで⋯⋯」



「⋯⋯と、おや?」

「どうしましたか、副官」

「お喜びくださいノルン様。たった今、現地に向かわれてるヴェルザンディ様からの報告書が届きましたよ」

「え、ほんとですか!」

「ええ。待ち遠しかったですね。しかしノルン様のミスであの世界へと羽ばたいたのです。恐らく相当な苦労をなさっているのでしょうね⋯⋯」

「う、う、やめてくださいよう⋯⋯ほんっとぉぉぉに反省してるんですからぁ⋯⋯」

「ふふふ。ではまずは私が中身を拝見致しましょう。あまりに酷い内容だと、ノルン様が卒倒しかねませんからね」

「ニヤニヤしながら言わないでくださいよぉ⋯⋯」

「ふふふふふ、では失敬して⋯⋯


 ⋯⋯、⋯⋯、⋯⋯ふむ⋯⋯



 ⋯⋯⋯、⋯⋯⋯、⋯⋯⋯、⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯、


 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯、────────はぁっ?!」



「わっ、どうしたんですか副官。急に叫んだりして」

「どうしたもなにもノルン様!と、とんでもない事になってますよ!ほ、本当にどういうことですか?

 あの『ユミリオンの悪夢』が、クオリオが、完全に親友ポジション!?

 凶悪を拾って、そのまま武器として使ってるぅ!?

 し、しかもなんでパウエル・オードブルが投獄されてるのですかぁぁ!? わ、訳がわかりません。何なんですこれ一体⋯⋯!」

「あのう。凶悪、ってのは分かりますけど、クオリオ?とパエリア?というのは誰なんです⋯⋯?」

「へ?あ、あぁ、そういえば彼らの登場は原作じゃ第二章からでしたね⋯⋯そ、その、二章にてシュラは小隊に編成されることとなるんですけど、クオリオというのは同じ隊員の少年で、パエリアじゃなくパウエルは、その小隊の『隊長』になるキャラクターだったんです」

「はええ、そうなんですか⋯⋯」

「ですがクオリオはともかく、パウエルが投獄されるとなると⋯⋯だ、誰が隊長に?一応原作を沿った流れではありますが⋯⋯このままではこの先の展開も、色々と壊れてしまうような⋯⋯」

「うーん、違う意味で大変なことになっちゃってますねぇ。あはは」

「笑い事ですか?!というか、これは流石におかしいですよノルン様!」

「え。おかしいって、なにがです?」

「この影響力ですよ!あの熱海憧というのは、ただの人間ですよね?!イレギュラーとはいえ、いくらなんでもただの人間が確立された世界にここまでの影響力を持つなんて⋯⋯明らかにおかしいですよ!?」


「⋯⋯え?ただの人間?⋯⋯そんな訳ないじゃないですか」

「へ?」



「もう、副官もうっかりさんですね。そもそも近年になって異世界に転ずるタイプの世界が数多く生まれたから、おいそれと転移や転生はしたら駄目ーって、大神様に命じられてるじゃないですか。だから例え私のミスで死なせたとしても、普通の人間を勝手に転生させることは大神様が許してはくれませんよ」

「⋯⋯え、あ。そうでした。え、待ってください。ということは、彼はなんらかの特別な存在であると?」

「ええ、まぁ。あれだけ綺麗な糸ですからね。私も彼が主人公だってことは分かっていたのですが、どういう物語の主人公かは知らなかったので。彼を送ったあとに、ヴェルちゃんからこれを教えて貰ったんですけど」

「これ、って⋯⋯『漫画』ですか?それをヴェルザンディ様が?」

「ええ。どうやら、ヴェルちゃんが元々愛読してたものなんですけど、私も読ませてもらいました!今ではすっかり熱海憧さんのファンです!」

「熱海 憧殿の⋯⋯って事は、もしや彼は⋯⋯!」

「はい、その通りです!」




「たった一人の少女を救う為、自ら闇の道へと身を堕としながらも巨大な悪虐財閥に立ち向かったとある青年。

 容赦なき暴力と裏社会の恐怖と対峙していく中で、ふとしたきっかけにたがが外れ、そのまま己の正しさの為に悪さえ為す道を突き進んだ者。

 多くを奪い、多くを壊し、多くを潰し、多くを殺した悪の華。

 歪みきった正義、貫き通すエゴイズム。

 ですが、そのあまりにブレない華道を突き進み続ける痛快さが人気を博し、ある人気青年誌にて完結を迎えた『ダークヒーロー』の物語!

 

 そう、熱海 憧さんとは!


 【摩天楼のロキ】という漫画の!


 れっきとした『主人公』だったんです!!」








「⋯⋯⋯⋯、⋯⋯⋯⋯」

「ふふん、言葉もないようですね、副官。いつも驚かされたり、凹まされたりばかりの私じゃないんですよ?」

「⋯⋯⋯⋯あ、いえ。驚いたのは確かです。自分としたことが、結構な把握漏れをしていたのだなと。反省しております」

「え?は、はい」

「ですがノルン様⋯⋯それってつまり、主人公級の存在をうっかり死なせてしまった訳ですよね?」

「⋯⋯」

「割とうっかりじゃ済まないレベルの失態じゃないですか⋯⋯本当に、もっとしっかりしないと駄目ですよ」


「⋯⋯

 ⋯⋯⋯⋯

 ⋯⋯⋯⋯うわぁぁあぁぁぁあぁぁぁん!!!!

 おっしゃるとおりですぅぅぅ!!!わたしはほんっとーに駄女神ですぅぅぅぅぅぅ!!

 生きててすいませんでしたぁぁぁぁぁ!!びえええええん!!!」











第三章 完.

















◆ ◆ ◆






 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

 まずは皆様に"勘違い"させてしまったことを謝罪致します。この物語の主人公はただのヒーロー願望が強い男ではなく、別の物語の主人公であった、という事ございます。

 もし、一話で熱海憧が暴漢の手によって死ななければ⋯⋯そこから先の物語が存在し、それが【摩天楼のロキ】という作品の世界である、と捉えてくだされば。


 とはいえここから【摩天楼のロキ】をこの作品内で連載する、という訳では決してないのでご安心を。あくまでフレーバー的な感じで、メインは【灼炎のシュラ】を舞台に熱海憧が頑張る、という形態はこれからも同じです。

 もしかしたら急に明かされた要素に、読者の皆様は不安に思うかもしれません。

 ですが当然、ただやりたかっただけ、という要素ではないので!

 しっかりと今後のストーリーの盛り上がり、エンターテインメントに組み込んでいきますので、どうかこれからも本作をお楽しみください!

 自信あります、後悔はさせません!


 ここまでをお読みいただき、もし「面白い」「これからも応援する」と思ってもらえましたら、是非とも『★★★』と『フォロー』のご評価して頂けると幸いです。

 長文失礼致しました。

 これからも本作品をよろしくお願いします!



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