057 ルズレー属かませ犬科
住めば都。そんな言葉がある。
どんな場所だって慣れれば大したことないって意味だろうけど、俺からすれば大異議ありだ。
懲罰房は流石に、都にはなれません。はい論破。
「⋯⋯此処にぶち込まれて、もう何時間だ?」
「さあ、覚えてないわ」
「もう陽が暮れてやがる」
「そうね」
「クソッ、腹減ったぜ」
「やめて。考えないようにしてるんだから」
拝啓女神様へ。どうも主人公のヒイロwith隣の牢に居るシュラです。順風満帆かに思えたマイロードですが、このたびめでたく豚箱に打ち込まれました。助けてくれ。
(まさかマジでとっ捕まるとは⋯⋯)
なんで村一つ救った俺達がこんな目に。嘆きたい気持ちもあるけど、残念ながら心当たりがあった。
ハウチさんの依頼を受けるかってなった時に、シュラが忠告していたことだ。
正規の騎士でない者が、勝手に民間からの依頼を受けることは禁止されており、発覚すれば規則違反として罰を受けるって。
あの時はテンションに任せて「まあ主人公の善行だし大丈夫でしょ」と流しちゃいたけど、駄目でした。石壁と鉄格子に囲まれた一室。小窓から射し込む夕焼けが、まあ目に染みること。
でも隣の牢のシュラを思えば、申し訳なさが凄くて。俺はこの結果には悲しさはあれど後悔は無い。けどシュラは俺が巻き込んでしまったようなもんだし。
正直罵倒の一つでもされるかなと思ってたけど、意外にもシュラは俺に憎まれ口ひとつ叩かなかった。
「⋯⋯責めねぇのかよ」
「着いていくって決めたのはアタシよ。決断しといて責任だけ押し付ける真似、する訳ないでしょうが」
「へっ。格好つけやがって」
「格好つけようとしたあんたが言うな」
くっ。流石は我がライバル。男前じゃないか。
俺としたことが、ちょっとキュンとしちまったぜ。
《うーん、まさかマスターに着いていった矢先にこれとはねえ》
(⋯⋯凶悪。お前の呪いってもしかして不運を呼んだりする?)
《ないない。これは普通にマスターの自業自得だと思うよ?》
(正論って時に人の心を深くえぐるよね)
身も蓋もない凶悪の一言に、ずんと落ち込む俺だった。
しかし自業自得ってのはいいとして、いつまでこのままなんだろうか。たっぷりと事情聴取、後にこの牢にぶち込んでくれたシドウ教官は「追って沙汰を伝える」と言ったきり帰って来ないし。
これからへの不安も含めて、無気力に汚い天井の染みを数えていた、そんな時だった。
入口の重い扉が軋む音が、懲罰房内に響き渡った。
「ええい、
ついでに滅茶苦茶鼻持ちならない感じの声も響き渡った。
「しかし下賤な産まれの者には相応しい場所と言えよう。ご機嫌いかがかな、愚かにも規則を乱した平民共よ」
「「⋯⋯」」
「なんだその顔は。我輩は栄光ある貴族にして騎士、パウエル・オードブルである。我が威光をその目にしたならば頭を垂れ、ありがたがるが良い。平民の責務であるぞ?」
「うっわ」
(うわぁ)
《うへえ》
俺達の牢の前に来るなりそう宣ったのは、色々とキツイおっさんである。くるんと上を向く金の髭。騎士の甲冑に羽根付き帽子を被るという絶望的なファッションセンス。
なにより金髪のキューティクルが凄くて、普通に引いた。ちなみに声出したのはシュラです。
「なんだテメェ。なにしに来やがった」
「口の効き方がなっておらぬな、この猿め。先も言ったが我輩はオードブル一門の貴族にして、ブリュンヒルデに属する騎士である。貴様のようなゴミが口を効ける相手ではないのだぞ?」
「本隊の騎士、だと?」
「⋯⋯フン」
嘘でしょ。こんなんがあの入隊するだけで誉れっていわれる本隊に居んのかよ。貴族云々はともかく、俺の先輩にあたる人物の登場に少なくない衝撃を受けた。
「だが目的を答えねば話は進まぬも道理。ククク、何をもって一般の依頼料すら払えないゴミ村の依頼を受けたかは知らぬが、罰は罰である。我輩は貴様らに沙汰を下しに来た」
「⋯⋯なんだと?」
「喜べ平民共。貴様らの称号はめでたく"剥奪"だ。平民は平民らしく、有象無象に身をやつすが良い」
「⋯⋯⋯⋯剥、奪?」
「⋯⋯っ」
称号剥奪。告げられた罰の重みが、ずしりと心にのしかかる。息を呑むシュラの声さえ遠い。
ああマジかよ。あん時はシュラに啖呵切った訳だけど、流石にいざ結果を突きつけられるとショックだ。思わず呆然としてしまう。
そんな俺のリアクションがパウエルの嗜虐性に刺さったんだろう。大層満足そうに頷きながら、まだ話は終わってないとパウエルは手を叩いた。
「しかしだ。哀れで愚かな貴様らとて、一度の失態で全てを奪われては敵うまい。そこでだ。偉大なる我輩から一つ、取り引きを持ちかけてやろう。条件次第によっては、我輩の権力で貴様らの称号剥奪をなかったことにしてやれるぞ?」
「⋯⋯条件?」
絶たれたかに思えた騎士ヒイロの道筋。
けどもそこに蜘蛛の糸を垂らしたのは、実に醜悪な笑みを浮かべるパウエルであった。
「まずは忠誠の証とし、我輩の靴を舐めよ。そして今後は我らが貴族派の尖兵として下僕となること⋯⋯それが我輩からの条件であるっ!」
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