048 アイネクライネ
赤は炎。青は水。緑は風。黄は土。白は汎用。
そして黒は人ならずの域。魔のモノだけが振るう
「このクソ魔獣、よりにもよって魔術持ちかよ!」
魔術はなにも人間だけの特権じゃない。魔獣の中には魔術を扱える種族もあり、この歌う魔獣はその扱える側って訳だ。
「魔術の詠唱不能⋯⋯沈黙状態にしたっていうの⋯⋯!」
「よりにもよってバッドステータス付与の魔術かよ、面倒くせえったらねえな!」(序盤のボスキャラにしちゃ捻くれ過ぎてませんかね!?)
つまりさっきの泣き叫びこそ黒の魔術であり、おまけに魔術詠唱をさせなくさせる『沈黙』付与という厄介さ。
というかまた状態異常ぶん撒くタイプかよ。こちとら対ショーク戦で充分お腹一杯なんですけど。考えたヤツ絶対性格悪いだろ畜生が!
【Gaaa!!!】
「チィッ!」
相手は魔獣。こっちの動揺なんて気にも留めちゃくれない。
廃墟外から戻ってきたらしき小鬼の奇襲を、辛うじて蹴り飛ばしながら気を取り直す。
そうだ。落ち着け。沈黙がなんだってんだ。魔術が使えない。だからどうしたよ。
正直あんまり関係ないだよこちとら! 言ってて悲しいけどな!
「シュラ!魔術封じられた程度で動揺してんじゃねえ!」
「なっ、誰が動揺してるですって!?」
「だったら手を動かせ!まだ小鬼共は残ってんぞ!」
「この、あんたなんかに言われなくったって⋯⋯!」
若干の八つ当たりを込めた檄を飛ばせば、シュラも我に帰ったように小鬼の魔獣を蹴散らしていく。
廃墟内に響き渡るのは、銀剣の
そう、俺達は騎士だ。魔術師じゃない。この身この剣があれば充分。魔術がちょっと使えないからって、慌てることなんてないんだ。
見る見る内に数を減らしていく魔獣達を見れば、実感はひとしおだった。
(よし。よーし。なんかバーサーカーってたシュラに見せ場持ってかれかけたけど、ペースは戻せた!)
別に、慌ててたのは魔術云々より全部シュラにもってかれてた事を危惧してたからとかじゃないから。主人公(笑)になりかけてて焦ったとかでもないし。
大丈夫、主人公はうろたえない。
「だらァァッ!!」
【Giyae!?】
「シィィッ!!」
【Gi,aoo⋯⋯】
ともあれ持ち直した俺達は、勢いそのまま廃墟内を立ち回り。
気付いた頃には、小鬼達の掃討は終わり。残すは祭壇に鎮座したままの魔獣のみとなっていた。
「⋯⋯あらかた片付いたか。手間取らせやがって」
「後はアイツだけね。妙な真似してくれた報い、しっかりと払って貰うわよ」
しかしあれだな。台詞だけ見るとどっちが敵役なのか分からんな。なんせバーサーカーと悪人相だし。仲間を討たれて
とはいえ同情心なんて沸かせてられるほど、生温い相手じゃない事は先刻承知だ。
【Ruu,Ruuu,uuuuuuuaAA】
「「っ!」」
予感は的中した。魔獣はただ項垂れていた訳じゃない。
地響きにも似た唸り声が旋律を作っていた。
【──
「ンの野郎、また歌かよクソッタレが!!」
さっきの沈黙付与の叫び歌が中音域なら、今度は低音域の嘆き歌。聞いているだけで体温を奪われていくような寒々しいメロディに、背筋が震え上がりそうだった。
いや待て。震えてる場合じゃない。この歌も黒の魔術なんだとしたら、またなにか悪い影響があらわれるんじゃないか。
そう思って、咄嗟に俺は身構えた。しかし。
「⋯⋯⋯⋯あァ?」(あれ? 別になんともないんだけど)
え、もしかして不発?
まさかさっきの沈黙付与の歌で、自分も沈黙になってましたとかそういうドジっ子プレイじゃないよな?
ちらっとシュラを一瞥するも、微動だにしてない。てっきり痺れとか風邪とか付与されるかと思ってただけに、拍子抜けだった。
「ハッ、只のこけおどしか。美声をどうもありがとうよ⋯⋯おいシュラ!一気に畳み掛けんぞ!」
何もないならそれに越したことなし。さあ決着をつけるぞとばかりに剣を構え、シュラに促したんだけども。
返事はなかった。それどころかあれだけ執着を見せた魔獣相手に、立ち尽くしたままだった。
「⋯⋯シュラ? おいテメェ、聞いてんのか?! なにをボサッとしてやがる!」(シュラ?シュラさーん?なにフリーズしてんだよ、おーい!)
流石におかしくないか。そう思ってシュラの方へと体を向けたのが、結果的には良かったんだろう。いや、不幸身の幸いっていうほうが正しいか。
「────」
「ッ?!」
何故なら、気付いた時にはもう既に。
シュラは俺に斬り掛かっていたのだから。
「ぐあっ!?」(はぁっ?!)
間一髪どころじゃない。運が良かった。
ほんの一瞬でも反応が遅れたら、腕の一本どころか真っ二つだった。
斬撃を受け止めた腕がまだビリビリと痺れてる。間違いない。今の一撃は本気だった。本気で俺を斬るつもりだった。
「て、てめぇ、なんのつもりだシュラァ!!」(急になにすんだよ、殺す気か!?)
いきなり斬り掛かられる覚えなんてない。
訳も分からないまま、半ば反射的に問いただしていた。まさか主人公の座を狙っての裏切りか、だなんて身も蓋もない妄想だってしちゃったくらいだ。混乱したって無理もないだろう。
「やらせ、ない⋯⋯」
「あァ!?」
「"院長"は⋯⋯殺、させない⋯⋯」
「院長だと?!⋯⋯テメェ、なに言って⋯⋯!」
けれどシュラの目を見れば、頭は一気に冷めた。
光を失くした虚ろな目。ボソボソと囁く脈絡のない言葉。
明らかに、今のシュラは"異常"な状態だった。
「殺させない、奪わせない⋯⋯もう、二度と。だから⋯⋯」
そして、捻じ曲げられた意思のもと。
刃は真っ直ぐ俺へと向けられた。
「お前が、死ね⋯⋯!」
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