049 相棒との邂逅
「ァァァァァッッ!!」
喉が張り裂けんばかりの絶叫から繰り出される一撃は、見かけ倒しで済んでくれるはずもなかった。
「消えろォ!」
「ぐうおおっ⋯⋯!」(なんつー、馬鹿力してんだこいつ⋯⋯!)
全霊でぶつかるような斬撃。受け止めるだけで腰が砕ける程に重い。華奢な身体のどこからそんな力を絞り出せるっていうんだ。そんな悪態すらつく暇なかった。
「チィッ!このクソアマ、目ェ醒ましやがれ!!なにまんまと魔獣に操られてやがんだよ、おいっ!」
「うるさいっ!あたしから奪っておいて!殺してやる!また奪うんつもりなら何回でも殺してあげるわよ!」
「クソッ、意味の分からねえ事をベラベラと!」(どうしたってんだよシュラ!訳わかんねえよ!)
言葉がまるで通じない。それどころか、シュラの言動は支離滅裂になってしまっていた。
どう考えても普通じゃない。何かがシュラを狂わせている。
その原因はもはや一つしか思い浮かばない。
「テメェの仕業かァ、クソ魔獣!」
【cluruluru⋯⋯】
未だに抱え続けてる誰か頭蓋骨を撫で付けながら、赤目を光らせている魔獣。原因はアイツだ。アイツが歌ったさっきの黒魔術。あれを聴いてからシュラの様子はおかしくなった。
恐らくあの黒の魔術は沈黙の歌と同じ、バッドステータスを付与する類のものなんだろう。そう考えれば、シュラがかかっている状態異常にも検討がついた。
(多分シュラが患ってるのは『洗脳』だよな。くそっ、状態異常の中でもとびっきりに厄介な類じゃないか!)
俺だって馬鹿なままじゃない。ショークとの戦いで状態異常のヤバさを痛感したんだ。
身体の自由を奪う『麻痺』に、魔術を封じる『沈黙』
魔封状態に加えて身体不調を招く『風邪』と、攻撃行動を失敗させる『頭痛』
クオリオから教えて貰った状態異常の種類は、どいつもこいつも面倒だ。なかでも『洗脳』は最悪だ。
本人の意志を捻じ曲げて操られる。味方が敵へと裏返る。それがどれだけ厄介極まりないか。
なんで俺には効かなかったんだと気にはなるけど、もはやそんな事を気にしてる余裕はなかった。
「『燃やせ、燃やせ、赤のはじまり』」
「なんだと!?」
こちらに畳み掛ける驚愕をよそに、唱えられる呪文と収束していく魔素。
鮮やかな
「『イフリートの爪』!」
「ぐあああっっ⋯⋯!」
直撃を貰ったら洒落にならない。
せめてもの緩和として剣を横に構えて防ごうとするが、襲い来る灼熱の前には焼け石に水だった。
触媒無しの下級魔術とはいえ折り紙付きの威力。腕を焼かれながらも壁際まで吹っ飛ばされて、激痛のあまり肺中の空気が吐き出された。
(沈黙を解除したのかよ?!寝返らせた分のぬかりもなしってか、魔獣のやつ!)
卓越した剣技だけでも太刀打ち出来そうにないのに、攻撃性の高い赤の魔術までも加わってくるのかよ。
火傷は酷いがなんとか我慢は出来る。けども肝心の武器はイフリートの爪を防いだ時に吹っ飛んでしまっていた。
「殺してやる⋯⋯殺して、やる⋯⋯」
「クソッ!」(このままじゃヤバい!)
幽鬼のように一足ずつ、殺意を燃やして詰めてくるシュラに身の毛がよだった。
まずいまずいまずい!このままじゃ本当に殺られる!
紛うことなき殺意に当てられて、たまらず態勢を立て直そうと身をよじった時だった。
硬くて長い物体が脚に当たって、カランと軽快に音を立てた。
「⋯⋯あァ?ンだよ、これは」(⋯⋯なにこれ)
足元に転がっていたのは、真っ黒い鉄の棒だった。しかも中心にぽっかりと空洞が出来てるタイプの。
有り体に言えば鉄パイプだ。漆黒の鉄パイプが何故か俺の足元に転がっていた。
(て、鉄パイプ?なんでこんなもんが、こんなとこに⋯⋯? ひょっとして横長椅子に使われてた素材とか?)
なんでこんなもんがこんなとこにあんの。
場にそぐわない物体のご登場に、思わず呆気に取られる。
でも、あれだけ派手に吹き飛ばされたんだ。その拍子に巻き込まれた椅子が壊れて、ここまで転がって来たのかもしれない。
正直あまり腑に落ちてはないけど、適当な自己解決で片付けてしまえた。そんな場合じゃなかった、という方が正しいか。
なにせすぐそこまで迫って来たシュラが、今にもとどめを刺さんとばかりで剣を振りかぶっていたのだから。
「ハァァァァァッッ!!!」
「ッッ!?」
咄嗟に鉄パイプを引っ掴んで、剣撃を防ぐ。
ここで真っ二つになっていようものなら絶望だったけど、幸い強度がしっかりしているらしい。
頑丈な鉄パイプのおかげで、なんとか
「やられてたまるかァァァ!!!!」(うおおおおおおっ、南無三っっ!!)
「うあっ!?」
渾身の力比べ。負けたら終わりの背水の陣ともなれば、この踏ん張り所に全身全霊をかけるしかない。
その気合が功を成したんだろう。不利な態勢だったけれども、なんとか押し返す事が出来た。
やっぱり気合って大事だわ。根性論万歳。
「待ってやがれよ冷血女。今すぐ目ェ醒ましてやるぜ!」(待ってろよシュラ!すぐに助けてやるからな!)
これ以上、あの魔獣に好き勝手させてなにが主人公か。
こっからだ。こっから反撃の狼煙をあげてやる。
言葉にすることで自らにプレッシャーをかけるように、拾った鉄パイプを突き付けての宣誓を叩きつけた。
その時だった。
《〜〜〜ったたたぁ⋯⋯もぉぉ痛ったいなぁ! タンコブ出来たらどうしてくれんのさぁ》
「────は?」(────は?)
場にひどくそぐわない、呑気な女の子の声が響き渡った。
俺の脳内で。
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