046 孤児院の黒き母
(待ってろよシュラ、今行くぞシュラ!なんか明らかにバーサーカーしてるっぽいけど、主人公の見せ場はちゃんと確保しといてよほんとに!)
なんて風にね、意気揚々と追いかけといて何ですけどね。
結果だけ言えば、すぐにシュラには追いつけた。ものの十分くらいで。
というのも、鬱蒼と茂る木々の一本の前で、あいつは何やらしゃがみ込んでいたんだ。
「シュラ!」
「⋯⋯」
「おいシュラ、なにしてやがる。魔獣共はどうした」
「⋯⋯これ」
「あァ?」
「これ、見なさいよ」
手招く訳でもなく見ろの一点張り。なんなんだよもうと思いながらも仕方なく歩み寄り、シュラの足元へと視線を移して。
背筋に寒気が走った。
「!」(ひえっ)
頭蓋骨だった。しかも子供くらいの大きさの。
ヒイロ補正のおかげがみっともない悲鳴は出さずに済んだけど、流石に
「さっきの小鬼の一匹が掘り返してたのよ」
「魔獣が? 土葬でもしてたっていうのか」
「知る訳ないでしょ。でもこれで分かったわ。この森の奥に、失踪事件を引き起こした魔獣がいる」
「なに。どういうことだ」
「多分これ、行方不明になった子供の骨よ。で、さっきの歌はあんたも聞いてたでしょ。あの歌⋯⋯墓地を探検して森に入った子供が聴いたっていう、アレのことじゃないの?」
「⋯⋯!」
言われて思い出したのは、二番目の被害者の商家三男坊クミンが行方不明になった経緯だ。クミンと一緒に森を探検してはぐれた子供が聴いたという歌。シュラはあの気味の悪い歌が、そうなんじゃないかって考えているんだろう。
「小鬼の魔獣はあの歌に反応した。なら歌の大元が今回の事件を引き起こした元凶、って考えるのが自然よ」
「フン」(まぁ、確かに)
森に元凶が居る。シュラの結論には俺も同意したい。
鬱蒼とした森の奥に居るボスキャラなんて、言ってしまえばお約束みたいなものだし。
「⋯⋯だったら孤児院だ」
「え?」
「元凶ってヤツは恐らくそこに居る。勘だがな」
更にそのお約束になぞらえるなら、歌う魔獣はエイグンさんの言う廃墟になった孤児院に潜んでいる気がしてならなかった。
だってさぁ、意味深過ぎる。村人達が絶対に寄り付かない廃墟とか、RPGとかじゃモンスターの巣になるには定番スポットだし。
忠告してくれたエイグンさんには悪いけど、事件を解決するなら踏み込む以外の選択肢はないだろう。
「⋯⋯あんたの勘が当てになる気はしないけどね。脳筋だし」
「誰が脳筋だこのアマ」
「あんたしか居ないでしょ。でも孤児院を目指すってのは賛成よ」
「あァ? どういう事だそりゃ」
「あたしの勘も、そこだって言ってるから」
「⋯⋯うぜえ」(⋯⋯いや、だったら最初っから同意しててよ)
うん、それただ俺を脳筋って言いたかっただけじゃん。
そんな疑問を呈したところで取り合わないだろう背中が、俺に構わず森の奥へと進んでいく。
足取りに淀みはない。シュラの頭の中には、もう魔獣を刈ることしかないんだろう。
(⋯⋯嫌な予感がする)
胸騒ぎがしていた。未知なる魔獣に対してのものか。あるいは魔獣への執着を轟々と燃やしているシュラに対してのものか。
どちらかの判別さえ迷わせるほどに、森は更に深く暗くなっていった。
◆
シュラが白魔術の感知を駆使してお目当ての場所に辿り着いた頃には、辺りはすっかり陽が暮れていた。
「⋯⋯此処か」
「そうね。いかにもって雰囲気だわ」
暗い森の奥深くに在ったのは、孤児院というよりは教会に近い外観の廃墟だった。
いやもうね、シュラも言ってる通り雰囲気がヤバい。なにがヤバいって、ただの廃墟じゃない。孤児院の至る所に焼き焦げた形跡があったのだ。
どう見てもいわくつきである。どう見てもいわくつきである。魔獣の住処だと思ってたけど、むしろ怨霊とかの方が絶賛住み着いてそうなんですけど。
「気配がするわね」
「魔獣のか?」
「他になにがあるっていうのよ」
「シンプルに野獣だったりするかもしれねえだろ」
「無いわね。このあたしが、獲物の気配を嗅ぎ分けられない訳ないでしょ。なによあんた、ひょっとして怖気ついてるの?」
「⋯⋯隣に野獣じみた奴がいるせいで、慎重にならざるを得ねぇんだよ」
「っ。誰が野獣よ、誰が」
別にシュラのセンサーを疑ってる訳でもないんだけど、魔獣相手だとほんとに獰猛極まりないなこいつ。
ともあれ此処にコルギ村を悩ませる魔獣が居るのは間違いないらしい。でも流石に魔獣の巣と化してそうな場所に正面突破するわけにもいかない。
とりあえず中を伺える隙間を探そうと、俺とシュラは廃墟へと近付いていったんだが。
【───a───ie────】
「「!」」
廃墟の正面扉から漏れ聞こえる音に、俺達はハッと顔を見合わせた。
歌のようにも、誰かのささやきにも思える女性の声。
示し合わせた訳でもないのに、俺達は息を殺して正面扉へと近付く。焼き焦げてボロボロの扉には僅かな隙間があった。廃墟内を疑うにはまさにお
「⋯⋯!」
そして、飛び込んで来た光景に息を呑んだ。
【Geeeee,eeeee】
【maa,maa,maa】
廃墟の孤児院は、内装まで教会といっても良かった。
正面扉の向こうはそのまま礼拝堂となっているんだろう。
いくつも並ぶ教会特有の横長椅子。そこにまるで信者みたくあの小鬼達が肩を並べて座ってる。その光景は不気味を通り越して異様とも言えたけど、俺が息を呑んだ理由はそこじゃない。
【La──goo──nniiggg──ssleep────】
もっと奥。小鬼達に崇められているかのように礼拝堂の祭壇に腰掛けているソイツから、俺は目が離せなかった。
小鬼と同じ真っ黒な身体中の至るところに亀裂が生じていて、亀裂から黄緑色に発光している。更に頭からはオレンジ色の長い髪が垂れて、姿形は人間の女性に近い。
けれどなにより呆気に取られたのは、その魔獣が愛おしそうに頭蓋骨を胸元に抱いて、撫でているからだった。
(⋯⋯あの骨、まさか!)
人間の頭蓋骨。それも多分子供のものだ。確信めいた予感が走る。あれは多分、失踪した子供達の遺骨じゃないのか。
それをあんな風に、まるで我が子を愛おしんでるような。
優しい手つきで。母親みたいに。
「なんなんだよ、あいつは⋯⋯!」
あまりに異様な光景だったからだろう。自分でも気付かない内に口から動揺がこぼれてしまった。
【────────La】
しかし、俺と違ってソイツは気付いた。気付かれてしまったのだ。その証拠に目が合った。髪と同じオレンジの眼がギロリと俺を睨め付けて。
【Laaaaaaaaaa!!!!!!】
「ッッッ!?」
「ヒイロっ!!」
魔獣の声が弾けたと思った時にはもう遅かった。
俺の身体は正面扉ごと、膨れ上がった歌声に吹き飛ばされていた。
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