028 魔素と魔術と脳筋男

「あァ? どういうことだ。魔術ならともかく、インファイトに魔素の活用もクソもねえだろ」

「⋯⋯大有りだよ。魔素を扱うのはなにも魔術師ドルイドの専売特許じゃない。魔素は万物に宿る力の源、全ての道は魔素に通ずるという格言だってあるくらいだ。普通に剣を振るより、魔素を消費して振る方が威力も高いし、速度も早い。それこそ熟練の武芸者グラディエーターは、並の魔術師よりよっぽど魔素の扱いに長けているといっても過言じゃないんだ」

「⋯⋯?⋯⋯⋯⋯ハッ! つまり俺の感じていた壁ってのは、魔素の扱いが全然出来てねえからって事なのか!」

「その可能性が高いと、僕は見てる」

「っ、クオリオ、このインテリめ! ただの本の虫じゃあなかったんだな!」

「おいこら」


 まさかの原因判明だった。いやマジか。魔素の存在自体は知ってたけど、てっきり魔術にしか使わないもんだとばかり。

 でも魔素を、ゲームとかのMP精神力に置き換えてみればわかりやすい。

 普通の「たたかう」と、MPを消費する「特殊攻撃」とじゃ、後者の方が強力なのは明らかだ。

 で、それは何も純粋な攻撃に限った話じゃなく、回避や防御、身体能力そのものにも通じるって事なんだろう。

 全ての道は魔素に通じる、ってのはそういうことか。どおりで他との成長の差を感じる訳だよ。


 流石はクオリオ、シュラ経由とはいえ、こうもあっさりと俺の行き詰まりの原因を見つけてくれるとは。

 やはり知恵袋的存在は、無知な俺にはとても心強い。持つべきものは頭脳明晰な友達ってやつだな。


「しかし、妙だな。魔術学科はヴァルキリー学園でも必修科目だから、魔素の扱いについても何度か講習があったはずだが」

「⋯⋯⋯⋯」


 魔術学科。ほほーん。必修科目と来ましたか。


「君、まさか」

「仕方ねぇだろ、あの頃はチンピラよろしくグレてたんだよ」

「はぁ。今もチンピラの風情は変わってないだろうに。困ったやつだな」


 いやしょうがないじゃん。こちとら二日で学園生活終わったんだもの。


「じゃあヒイロ、君の適正属性は?」

「⋯⋯あァ? 適正属性だァ?」

「ほら、ヴァルキリー学園の入学式で『色別の儀』をやったろ。特殊な魔法陣に立って、潜在的に保有量の多い属性を識別してくれる奴だよ。君が立った時、魔法陣は何色に輝いたんだ?」

「⋯⋯」

「おい、ひょっとして」

「お、覚えてねーよ」

「⋯⋯⋯⋯僕、将来職に困っても、学園の教師にだけはなるまいと決めたよ」


 心底呆れたようなクオリオの視線が痛い。超痛い。

 いやでも、仕方ないったら仕方ないだろ。俺だって出来るもんならファンタジーの学園生活を送ってみたかったわ。

 というか色別の儀って、なにその面白そうな儀式。

 学園生活編イベント目白押しじゃないかよ。つくづく悔やまれる。もしかしたら魔術師ヒイロルートとか、悪評持ちの不良と可愛い同級生ヒロインとのラブコメ展開とかあったかもなのに!


 記憶の引き継ぎすら無かったから、順応するだけで大変だった灰色の学園生活。思い返して、心の中でさめざめと泣き暮れる俺だった。


「困ったな。原因は見つけられたが、新しい問題も発覚してしまったようだし」

「問題だァ?」

「だって君、その様子だと魔素への知識も理解もないんだろう? 理解も出来ない力をコントロールするのは、溢れた水を盆に戻すようなものだぞ」

「ぐっ、だったらどうしろってんだよ」


 泣いてる場合じゃなかった。

 クオリオの言う通り、伸び悩みの原因は簡単にわかっても、解決までは簡単にいかない。

 だって魔素ってさぁ。気合いとか根性ならどうとでもなるけど、流石に勝手が違うだろうし。

 うーむ困った。と歯噛みする俺に、クオリオはわざとらしく大きな溜め息をついた。


「そう難しい話じゃないだろう?」

「あァ? どこがだ。俺からすりゃ相当な難題だぞ」

「もっとよく考えてみてくれ。君の課題は魔素を扱えるようになる事だ。だとしたら、手っ取り早くて都合が良いのがあるだろ。魔素を理解し、操作し、集約し、力と為す⋯⋯そんな術がね」

「⋯⋯っ!」


 そして再び。今度は心の底から切に思った。

 持つべきものは、本当に、頭脳明晰な友達って奴なんだと。


「ヒイロ・メリファー。

 君は、魔術の世界に興味はあるか?」


 ようこそと言わんばかりに、眼鏡の奥の碧眼がキラリと星みたく煌めいた。





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