012 莫迦の花道
「そ、そんな、馬鹿な。あり得ないぞこんなこと。なんだあの女⋯⋯なんであんな奴があれほどの強さを⋯⋯こ、こんなの何かの間違いだっ、八百長だっ、イカサマだっ」
「る、ルズレー様落ち着いて⋯⋯」
そんな馬鹿なって? 馬鹿言えよ、そりゃ俺の台詞だ。
シュラは勝った。誰にも文句が言えないくらいの完勝っぷり。
つまりは、あいつが今後、俺と鎬を削り合う同期になるって事でもある。
(間違いない。あいつ、ライバル枠だ)
強敵と書いて"とも"と読む。
王道な物語には必ず一人や二人はいるだろう、主人公の競合相手。常に競っては対峙し、時に敵対や共闘を得ながら、主人公の壁として君臨する強敵手。
主人公との対立を描く為に、冷徹だったり他社を寄せ付けない雰囲気があったり、序盤は主人公に力を示すべくかなりの強キャラとしてデザインされる事も多い。
ほら。まさにじゃないか。
シュラ。他の追随を許さない強さに、他を寄せ付けないあの風格。もう間違いない。絶対ライバルだよ。
「ひ、ヒイロ?」
「⋯⋯あ?」
「お前、気が触れたのか?」
「どういう意味だ」
「だって、お前⋯⋯なんでそんなに嬉しそうに笑ってるんだよ」
「──ハッ」
だって考えてもみろよ。
シュラは強い。そりゃもうとびっきりな強さだ。
けどライバルがあれほど強いんなら、当然主人公も強くなくちゃあ物語は成り立たない。
であれば、"
そこに行き、やがては超える『いつか』があるなら。
「んなもん、嬉しいからに決まってんだろ」
俺は、滅茶苦茶強くなれる。間違いなく。
そりゃ笑みの一つだって、零れ落ちるに決まってた。
◆
「あらま、こりゃ敵わねぇや。ルズレー・セネガル。合格!」
「ふふん、当たり前だ」
「おぁーっと、やられちまった! ショーク・シャテイヤ、合格!」
「へ、へへ⋯⋯まぁこんなもんっすよ、へへ⋯⋯」
うーんこの、あからさま加減よ。
衆人環視の中でも堂々と八百長をやる度胸だけは大したもんだけどさ。
仮にも縁ある二人の合格。とはいえ、これじゃ祝福する気なんて微塵も湧かなかった。
「チッ、これだから貴族は」
「なんで茶番劇を見せられなきゃいけねーんだよ」
「納得いかねぇ、くそっ」
「……どうにも調子が悪いことだな、ハウツ試験官」
「お恥ずかしながらねぇ。受験者も中々やり手でして。ははは、こんな日もありましょうやね」
「……」
「シドウ教官もそう思うでしょう? なにせ一発目から相当なのとやり合ってんですからねえ? 同じ調子が悪ぃもん同士、仲良く行きましょうや」
「⋯⋯ふん」
試験官のあっさりした敗北。そりゃ怪訝に思うヤツだって居る。けどもルズレーが取り込んだ人もさるもので、あの眼帯教官の眼光にも飄々と誤魔化してた。
そういう意味じゃ、ルズレーの目利きは良いんだろう。敬意なんて微塵も沸かないけど。
「……次。ヒイロ・メリファー、前へ」
感情の凪いだ平坦な声に呼ばれて、遂に出番かと踊り出た。
(うおっ)
同時にグササッと見えない矢が俺の背に差刺さる。
なにこれなにごとと振り返ってみれば、白いを通り越して寒々とした視線の数々。
悲報。俺、完全にルズレー達と同類と見なされてる。
いやあんだけ一緒に居れば当然だけど。だがこれは大変よろしくない、俺からすればクソスレ待ったなしである。
「では、試験官を指名せよ」
(みくびられたもんだな、俺も)
あぁもう、頭に来たぜ。ルズレーに対してだけじゃない。
この世界の親切設計に対して腹が立った。いやいや馬鹿にしてんのかと。
こんだけお膳立てされなくたって、ねぇ。
「え?」
「は?」
「おいおい」
「なっ⋯⋯な、なに考えてるんだ、ヒイロ!」
周囲の狼狽を押し退けるようなルズレーの声。
なに考えてるか、なんて。
俺はそもそも、最初っから一つのことしか考えてない。
こちとら産まれてこの方ずっと、ヒーローの信奉者だぞ。
露骨に誘導されなくたって、選ぶべき相手は誰かなんてとっくに分かっておりますとも。
「ヒイロ・メリファーよ。指し間違えではないのだろうな?」
「たりめーだろ。男に二言はねぇ」
「フッ、いいだろう」
指差した先の、正解が笑う。
塞がれてない方の隻眼が、至極愉快そうに吊り上がっていた。
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