010 騎士へと至る為の道
どうやら試験はグループごとに行うようだった。
騎士団側でくじ引きを行い、グループごとに別の演習場へと移動。そこで改めて試験開始って運びらしい。
「おいお前たち。僕の前を歩くな、後ろに回れ」
「そ、そうしたいのは山々なんすけど」
「列順が決められてんだから仕方ねぇだろ」
「ちいっ、気に入らない。そんなもの好きにさせれば良いだろうに。細かい連中だ」
(これからその一員になろうっていう奴の言い草かよ)
本部内を闊歩する集団の列の、前から数えた方が早い位置。取り巻きである俺達より後ろを歩く事がさぞ不満なんだろう。
コツコツ響く足音の中で、一際尖っているのがルズレーだ。
「何故、僕があの女より後ろなんだっ」
でも苛立ちの芯は別らしい。
歯噛みするルズレーの目線には、更に前のシュラに向けられていた。なんという器の小ささか。
だがまぁ、先頭を意識する気持ち自体は分からんでもない。
だって主人公と言えば先頭だし。RPGとか特に。
(現状の俺は、いまいち主人公っぽさに欠けるけど)
一応、超が付くほどの美少女と知り合いとなれた。
重要っぽいキャラとの縁。主人公としては良い風向きだ。
でもこんなんじゃ、まだまだ全然満足出来ない。
(こっからだ)
まずは入団試験に合格する。
ヒイロの騎士物語のスタートラインはきっとそこだ。
栄光へのプロローグを思えば、やる気が沸いて仕方なかった。
◆
「総員、整列! 並びに拝聴! これより入団試験の内容について説明する!」
到着地は、運動会でも出来そうな広いグラウンドだった。
砂埃がさっと舞う壇上で、後ろ手を組んだ眼帯の騎士の一喝に背筋が伸びる。
「入団試験の内容はシンプルである。受験者である諸君には、これより一対一の闘争に挑んで貰う」
「一対一。決闘か!」
「そこ、静粛に! 決闘と呼ぶほど大したものではない。諸君にはあそこにある矛棚から、己が得意とする武器を選んで貰う」
教官らしき騎士が指差す方には、横に広い武器棚と様々な武器が立て掛けられていた。
剣、槍、弓、槌。他にも沢山。けれど刃が潰れていたり木製であったりと、どの武器にも殺傷性を奪う処置がされていた。
「殺傷性が低いからと気を抜くな。危険防止の処置をしているとはいえ、事故とは起きるものだ。医療室は設けてはいるが、諸君らが負った怪我に関しての苦情や責任は一切受け付けない。総員、心せよ」
とはいえ教官の言うとおり、油断は禁物。
刃の潰れた剣で殴られたら痛いし、怪我だってする。最悪死ぬ可能性だってあるだろう。
「次に受験生の相手だが⋯⋯総員、注目! 私の眼下に並ぶ騎士達、諸君にはこの内一人を自由に指名し、挑んで貰う。その後武器を取り、衆人監視の元、一対一の闘争である。騎士に勝利、又は善戦した者を合格とする。今回の試験の運びは以上だ!」
「あ、相手が騎士だって?!」
「嘘だろ、勝てる訳ない」
「おい、右から5番目の人。あの人現役だぞ、見た事があるっ」
(うわ、きつくね?)
教官の述べる試験内容にざわめきが止まらない。かくいう俺も少し冷や汗を流した。
なにせ相手は騎士。だとしたら並の受験生が敵うはずもない。
騎士になりたければ、勝てない相手に勝ってみせろって事か。
騎士の称号ってのはそんだけ重いものなんだろう。
「これだから下賤の者共は。試験内容に芸も華もない。だが、土壇場で震える奴らも滑稽だな。あんな連中、試験をせずとも落としてしまえばいいものを」
意外や意外。あの自尊心だけは立派なルズレーが、一ミリも動揺していなかった。
憎まれ口はいつも通りだけど。周りが肩を落とす中で自信満々に胸を張る姿は、素直に心に響いた。
なんだよ、根性あるじゃん。ちょっと見直したぞ。
「で、ですけどルズレー様、こいつぁまずくないっすか? いくらなんでも騎士相手なんて」
「ふん、なにもマズくはない。僕とそこいらの間抜けを一緒にするな」
「んだよ。勝算でもあんのか?」(なんか秘策でもあんの?)
「勝算? そんなもんじゃない。約束された勝利だ。おい、ショーク、ヒイロ。耳を貸せ」
約束された勝利って。何それかっこいい。
既に合格を確信しているルズレーの手品の種が気になって、つい素直に耳を貸してしまった。
「左から二番目。口元を布で隠した男が居るだろう」
「ん。あの人相悪ぃやつか」
「お前が言うなヒイロ。けど、そうだ。いいか、お前らもあいつを指名しろ。そうすればさしたる苦も無く合格出来る手筈だ」
「⋯⋯は?」
いやちょっと待て。おい。
約束された勝利って、まさか。
「ルズレー様。それって」
「言っただろ、僕をそこいらの間抜けと同じにするなと。賢い手段を用いてこそ貴族だ。平民とは頭の出来と、用いれる手段が違うんだよ、ははは」
「さ、流石ルズレー様っす! まさかそんな根回しをしていたとは!」
思いっきり不正じゃねぇか!
返せ! 俺の感心やら賞賛の気持ちを!
通りで試験前にシュラをナンパだなんて真似出来る訳だ。そりゃ余裕だよな。予め試験官と通じていたなら。見直して損したよマジで!
「ふふん。試験に向けての努力など凡人、平民の発想だ。賢き者はこうやって道を拓く。分かったか、ヒイロ」
「⋯⋯テメェ」(この野郎⋯⋯)
しかもこいつ俺を
あんだけ鍛錬した俺の努力を小馬鹿にした笑み。
グッと握り締めた拳を、けれど振り下ろさずに済んだのは、憎たらしい幼馴染に対する自制心じゃあなかった。
「総員、静粛に! これより最初の受験者を発表する!」
教官の鋭い一喝。
握り締めた拳の震えも、周囲のざわめきもピタリと止まった。
最初の受験者。つまり今からいよいよ試験が始まる訳だ。
だったらもう、ルズレーなんて相手にしてられない。
腹は立つが切り替えよう。
目先の怒りより、未来の夢だ。
「エシュラリーゼ・ミズガルズ。前へ!」
って、いきなりあいつかよ!
まさかのトップバッターについ前のめりになる。
シュラ。俺が重要キャラと睨んだ女が一歩前へと躍り出る。
その容貌、その雰囲気に、止まっていたざわめきが再び息を吹き返した。
「それでは、試験官を指名せよ」
でもそのざわめきは、返し刀でばっさりと揃いも揃って殺された。
何故ならシュラがゆっくりと指差し、指名した相手は──
「ほう。私か」
壇上に立つ、眼帯の教官その人だったのだから。
.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます