第7話 勝敗

――――――――――――――――長谷川視――――――――――――――――――


「魔術発動。『万の瞳よろずのひとみ』」


 何だ?幽理 連あいつの雰囲気が急に変わった。今発動していた魔術の影響だろうか? 何か嫌な予感がする。だが、何かする前に仕留めればかわらない。

 今日一の速度であいつに向けて加速していく。後、1歩で間合いに入った瞬間にあいつが構えを解いた。ただ、棒立ちしているかのように立っている。

 なぜ? 急に構えを解く? 攻撃の誘導? 油断を誘うためか? だが、さっきまでの様子からして構えを解いた状態で俺の剣を止められないはずだ。では、なぜ何か狙いがあるのか? いや、これはブラフか?さっき構築していた魔術はスタンダードな火属性の魔術だった。だが、今なぜこのタイミングで?何か仕掛けようとしているとしか考えられないが、この距離、例え魔術の発動させたとしても俺の方が早い。仮に何かあったとしてもそれすらねじ伏せてこの模擬戦に勝つ!

 更に一歩深く踏み込み加速し木刀を振るった。確実に木刀があいつを捉えた瞬間その木刀はあいつの身体を通り過ぎた。

 すり抜けた?!いや、違う。これは、通り抜けたと錯覚したのか!それほどの紙一重の回避がなぜ急にできるようになった?!

 2撃3撃と続けても一行に攻撃が当たる気配が見えない。こいつ雰囲気も変化していたのと関係があるのか?ここはいったん距離をおいて情報を集めるべきか。

 距離をとろうと後ろに飛ぼうとしたが、気づいたら足を踏まれその場に縫い付けられていた。後ろに下がろうと重心を後ろに乗せてたせいで体勢が崩れた! 早く体勢を直さないとやばい!


「おいおい。せっかくお近づきになれたんだ。待てよ。さっきお前が言った言葉だぜ? 逃げんなよ長谷川。一緒に踊ろうぜ?

 待機解凍。『炎の時雨ひのしぐれ』」


 体勢が崩れ、上を見やすなったがゆえに見えた光景はさっきこいつが構築終えた魔術の陣が、俺等の戦っている台の頭上に展開され、雨のように火矢が俺等に迫る瞬間だった。

 こいつは何を考えているんだ?!どう見てもこの火矢は俺に標準が合わせられていない。不規則に放たれ続けている。こんなことをすれば自身もこの攻撃に巻き込まれるはずだ。その上この数はいくら魔力消費が少ない火矢でも消耗は早いはず、しかもこの火の雨をさばきながら攻撃なんてありえない。いったい何がしたいんだ!

 あいつの方へ一瞬、目を向けるたが、信じられない異様な光景が広がっていた。なんであいつはこの火の雨の中で何もせずゆったりと歩いているんだ?!間違いなく火の雨の軌道はコントロールされていない。それどころか不自然な軌道をえがいてない。確実にあいつが一瞬前にいた位置が穿たれている。ありえない、雨が降る中で一滴の雨粒にすら当たらずに歩いているのと同じ芸当だぞ!!

 ただ、ゆったりと歩くように、または、舞うように動きその場においては異様な光景を生み出してる張本人は俺に向けて歩みを進める。降り注ぐ火の雨の間を歩みはあまりに異様であり、自然だった。だからか、一瞬火矢が俺とあいつの間に入り視界の一部が塞がれ俺の視界から外れた瞬間あいつの姿が消えた。

 ふざけるな!この火矢の雨で何をしたんだ!そんな芸当、そんな簡単にやりやがって!

 降り注ぐ火矢の中で周囲を確認するが、どこにもあいつの姿が見当たらない。どこに行った?!


 「どこって、後ろ」


 「?!どkッ!」


 蹴られたのか?!振り向いた瞬間だが、一瞬あいつが背後に回る影が見えた。それよりも、早く対処しないと魔術でやられる!


「急造だが、なんとか間に合った」

 

 耐久力、防御力は最低限に。かわりに発動までの速度優先して魔術式と陣を構築した魔法障壁の亜種だ。この火矢の雨を防ぐためには、そこまでの硬さは必要ない。最低限軌道を逸らす事ができれば十分。そのために膜を3重構造にし、2層目をベルトコンベアのような構造にし、動かす事で軌道を逸らすようにした。これで最低限火矢の雨を防ぐ傘は作れた。やっと頭が冷えた。だが、どうする。この状況で以前有利なのは、あいつだ。何故か存在する魔術のルールである自身がリスクを背負う事によって消費魔力や威力が変化するというルール。自身さえ、魔術の攻撃対象とする事によって消費魔力を極限まで削っているのだろう。時間いっぱいこの魔術は続くと考えるべきだ。この魔術の影響で視界も悪い。魔力よる感知も魔術に邪魔されてうまく機能しないだろう。つまり、あいつはこの火矢の雨の中で自由に動ける以上、奇襲しほうだいなわけだ。クソが。とんだ化け物だな。どこからだろうと対応するしか勝ち筋はないな。上の魔術を解体している暇をくれるとは思えないしな。さあ、どこから来る?

 姿勢を低く保ち姿勢を安定させ構える。全方位に神経を張り巡らせ、死角は魔術を待機させることでカバーした。これで360°警戒いつでも対応できるようになった。そうなれば必然的に狙う場所は絞ることができる。

 完全に勘だったが、上に視線を向けるとそこに化け物あいつがいた。全力で木刀を振るう。振るった木刀は弾かれ、体勢を完全に崩され地面に倒れ込む。あいつの振るう木刀が俺の首筋に当たる直前で止まる。それと同時に審判をしていた教師の声が響いた。


「そこまで!勝者、幽理 連」


 負け……か。は~、とんでもない化け物ヤツに喧嘩売っちまったな。

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