第6話 模擬戦

 昼休みが終わって例の地下訓練室に集まっていた。着ている服は学校指定のジャージだ。訓練室の中はかなり広く学校のグランドぐらいあると思われる。この広さをどうやって柱無しに支えているのかは分からない。

 同学年の生徒の中に当然あいつらもいた。あっちも俺を見つけたのかこっちに近づいてきた。

 

「逃げんなよ」


「そっちこそ」


 テンプレな挑発を言ってあいつらは俺らの横を通り過ぎて自身のクラスの集団に入っていった。そうこえしていると訓練室の扉が開き響華先生と他の教室の担任の教師が入ってきた。先生たちが入って来て騒がしかった周りの会話が止んで全員の視線が先生たちの方へ向く。先生達は俺らの前に立ち響華先生が今からやる訓練の内容を話し始める。

 なんでもこの合同訓練は半年に1回行われるクラス対抗試合の予行練習のようなものらしく、この合同訓練を提案したのはこの学校の理事長がらしく、学校が始まって以来ずっと続いているみたいだ。


「今回の訓練は各自2人組を作り模擬戦をしてもらう。使用武器は学校支給の模擬戦用の物に限られる。また、魔法の使用も許可されているが、他の組の邪魔をしない事を念頭に入れ訓練を行え以上だ。何か疑問点があるなら私達教師に聞け。では、組を作り始めろ」


 全員がそれぞれの相手を見つけ、2人組を作っていく中をこっちにクソ野郎が歩いてきて俺の目の前で止まる。俺をバカにしたようにニヤついている。


「ほら、行くぞ。半殺しにしてやるからよ」


「はぁ、少しは静かにしたらどうだ小者臭いぞ」


「チッ。さっさと行くぞ」


 一番列が短いところに並び、俺たちの順番が回ってくる。

 

「長谷川 嘉月かげつだ」


「幽理 連です」


「わかった。次」


 組むかを先生に伝え終え、長谷川と他の生徒が大勢集まっている集団の中に入る。長谷川は比較的人が少ないところで止まりこちらに振り返り話し始めた。


「まだ、何を賭けるのか決めてなかったな。俺が勝てば、お前はあいつに近づくな。俺が負ければそうだな俺の家の力を使ってお前のしたい事を全力で協力してやる。これでも、世界有数の企業の協力だ十分すぎる程だろう。」


 確かに俺達の目的である復讐までの道のりがかなり短縮できるだろうな。かといって暦とこいつの事で痼になって暦を強くする約束が不完全に終わってしまうのだけは避けたい。なら、必要なのはこいつと暦の和解させることか。こいつと暦の関係がもともと悪かったように思えない以上そこさえなんとかできるように条件を追加するか。


「いや、もう1つ条件追加だ。とりえず、お前がなんの目的で暦にあんな事を言っているかは知らないが、とりあえず俺が勝ったら暦に頭下げろ」


「それだけかよ?別になんの問題もねぇよ。他には無いのか?」


「いや、それだけだ」


「そうか。じゃあ、また後でな。約束忘れるじゃねぇぞ」

 

 長谷川と分かれ、周りを見ると鏡夜と暦が列に並んでいる。あっちはあっちで、ちゃんと組めたか。一先は安心だな。こっちも特に問題になる事は模擬戦まで無いだろう。

 鏡夜の方も終わったようだし合流するか。全員が終わるまでにもう少し時間がありそうだし少し話しとくか。


「鏡夜そっちは無事に組めたみたいだな」


「何も無いとは思うけど、連は大丈夫だったかい?」


 何も無いとは踏んでいたみたいだが、流石に不安はあったみたいだな。表面上なんともなさそだが、だいぶ機嫌が悪そうだ。さっきので収まってなかったのか。オーラというか雰囲気にかなり出てる。正直かなり怖い。


「お、おう何も無かったぞ。だから、機嫌直せ、な?」


「……わかったよ。それよりも、僕が暦さんと組んで良かったんだよね?」


「あぁ、助かったけど、暦さんは良かったのか? 知り合いと組まなくても」

 

「大丈夫です。むしろ友達からは行ってくるように何故か放り出されましたから」


 特段無理をしているようには見えない。こちらとしてもそれは助かるのだが、何故だろか俺のしらな場所で要らぬ誤解が増えている気がする。気の所為だと良いのだが……。今気にしても意味ないな。今は長谷川をどうやって対処するかを考えるべきだな。並んでいる生徒も少なくなっているみたいだ。もう少しで模擬戦が始まるだろうからな。

 周りを見るとさっきと比べて並んでいる列が短くなっている。それに、組終えた生徒達がそれぞれ集まっている。


「なら、良かった。もうそろそろで始まるようだから気をつけてな」


「連さんも気をつけてください」


 暦と鏡夜と別れて人気が少ない場所に移動し立ち止り目を閉じる。自身の周りに向けていた感覚を自分の内側に向ける。口から息を吐き自身の内側に向けた感覚を研ぎ澄ます。全身を読み込むように確認し、その状態で身体を動かし誤差を修正する。内側に向けた感覚を外に向け直し目を開ける。

 吐いた分の息を吸い込む。身体全体に違和感はなし、朝の後遺症も無いみたいだ。これなら大丈夫だろう。集中もできた。


「皆さん注目」


 声をした方向を向くと男の教師が全体に声をかけていた。あまり、肉付きが良いと言える見た目はしていないなちらかと言うと研究者のような見た目をしているな、ていうか白衣も着てるし。顔を見るとまあ、好青年といった顔立ちだな。年齢は20から26の間かな?


「これから、模擬戦を始めます。ルールは先程響華先生が説明してくれた通りです。模擬戦は奥の指定エリアの中で行ってもらいます。」


 先生が指した場所にはさっきまで無かったはずの場所に約一辺70mの正方形の台が4つ出てきていた。台の間は10mほどの隙間があり、結界が張っている、他の模擬戦に影響が出にくいようにかなり配慮がされているみたいだな。


「私達、教師がそれぞれの勝敗を判断します。危険な状況になる事が予想される際は私達が止めに入るためあしからず。それじゃあ何か今のうちに質問しておきたい事があれば受け付けますよ〜」


 口調が急に軽くになったな。雰囲気もさっきに比べて明るく見える。おそらく、あまり人前に出る事が得意では無いのだろうが……。

 それにしても、勝敗が教師によって決定されのか。最悪、どんなに傷ついても戦闘続行可能とみなされれば永遠と相手のサンドバックになる事も想定されるわけだ。ものすごい悪意がこもったルールだ。このルールを考えた奴は絶対性格が悪い。


「ないようだね。呼ばれた組から順番にエリアの中に入ってね。呼ばれた4組以外は見学しているなり自由にしていいから。それじゃあ順番に呼んでいきますから」


 最初の4組が呼ばれ、それぞれが所定の位置に立ち、思い思いの構えをとっている。距離は20mといったところか。この距離なら魔術の構築する魔術によるが近接が得意な相手でも十分な距離だろうな。全員構え方はそれぞれか。3組目のあいつの構えだけ他の奴に比べてもかなりレベルが高い。確か、卯月 尚人うずき なおとだったはずだ。待ち時間の時も常に注意を払い続けていたな。おそらく、この学年の実力上位組なのだろう。


「始め」


 先生の開始の合図と共に全員が動き出す。案の定というか3組が一番最初に決着がついた。ほぼ一撃だった。右半身に、槍は中段に構えられた体勢から素早く接近し、接近した時の前進の力にと上半身を捻りを利用し突き出すと同時に槍に回転を加え相手の溝内を突いていた。あれは、かなり痛いな。食らった奴もれなく腹を抑えて悶絶して気絶してたからな。まあ、その後容赦なく先生に摘まれて外へ運ばれてたけど。

 他の所も終わったみたいだな。他の所は魔術撃ち合ったりとまあ様々だった。3組は例外としてだいたい一試合10分くらいか。さて、呼ばえるまで、どうしたものか。暦以外の奴ともある程度話せるような関係性は持っていた方が良いだろうな。呼ばれるまでにしばらくかかるだろうし誰に話しかけようかk……。


「次の組、長谷川、幽理 連組……」


 マジか。まあ、呼ばれてしまったものはしょうがないが、文句の1つも言いたいな。

 長谷川と結界内に入り向き合う。刀に近い形状の木刀を両手で持ち剣先を下に向け、右足を一歩下げるように構える。あいつは、ロングソードのような木刀を右手で持ち、左半身になり重心を落とし若干前傾姿勢となり剣先を俺に向けるように構える。卯月同様に自然体のような高い構えだ。そこまで至るには相当な努力が必要なはずだ。なぜこいつが暦に執着するんだ?こいつの構えを見る限り一人で磨き続けたような構えだ。どちらかというと他人に完全に興味が無いタイプなはずだ。

 長谷川について考えている内に他の組の準備も終わったみたいだな。もう始まるはずだ。どんな戦い方をするのかわからない以上、最初は様子見からだ。


「始め」


 先生の合図で同時に駆け出した。接近しながら魔術を構築を始める。構築するのは、初歩的な身体強化だ。一呼吸のうちに魔術式を構築し、魔術陣を形成する。身体強化の魔術陣が身体に形成され、形成が完了と同時に身体強化魔術の効力が現れ、強化した身体能力で一気に加速した。

 身体強化を使ったのは長谷川も同じようだ。互いに身体強化によって人間が駆けているとは思えないような速度で接近し、木刀を振るう。2つの木刀が衝突し、乾いた音が響く。長谷川が一歩踏み込み、右逆袈裟に振るおうとしたのを木刀を振るい、長谷川の木刀を打ち込むことで出だしを潰し振るえないように牽制をいれ押さえる。俺に押さえられた状態の右逆袈裟から右薙へ変えてきた。右薙を後ろ飛び右薙を避け俺の前を通り過ぎると同時に一気に踏み込み木刀が振るえない距離まで接近し、木刀の柄頭で溝内を突く。


「カハッ」

 

 溝内を突いた事で長谷川は腹を押さえ一瞬身体が硬直した。木刀を振るうために一歩引こうとしたが下がれない。長谷川がジャージの襟をつかまれていた。


「どこ行くんだ? せっかくお近づきになれたんだ。待てよ」


 長谷川が掴んでいる俺の襟を引き勢いをつけた俺の顔に向けて自身の頭を打ちつける。衝撃で一瞬視界が白く染まった。


「ガッ!」


 もう一度食らうのはまずい。なんとか距離をとろうとするが長谷川が俺の襟を掴みそれを許さない。もう一度柄頭で突こうとしたがもう片方の木刀で防がれる。


「連れねえな。もう1回付き合えよ!」


 再度頭突きを食らい視界がもう一度白く染まり後ろにふらつき後ずさった。畳み掛けるように腹を蹴られ後ろに飛ばされた。まだ、頭突きの影響でふらつきが残っていて、受け身をとれず地面を転がる。なんとか立ち上がり、長谷川の方を見る。


「おいおい、大丈夫か? だいぶフラフラみたいだぜ? 肩でも貸してやろうかw」


 頭突きの影響で、軽い脳震盪が起きているみたいだな。うまく足に力が入らない。今の状態でさっきと同じように戦っても負けるな。さあ、様子見にしてはやられすぎた以上ここから巻き返していこう。


「何の問題もない。さぁ続きをしよう」


 さっきと同じように長谷川に向かって踏み込んでいく。それと同時に2つの魔術の構築を始める。魔術属性は火と無。イメージは火の矢の雨だ。イメージに合わせ魔術式の作成を始める。既存の火の矢の術式に安定するように術式一部圧縮し追加術式接続させる。魔術式の構築を終え、魔術陣形成を完成させ、魔術をいつでも放てるように待機させる。同時に無属性の魔術式の構築を行う。魔術のイメージに合わせ構築を進めていく。この魔術は少し特殊だ。俺を中心に10m範囲のあらゆる物を認識させる効果を持つ。空気の中に含まれる微小な粒子から大気中に含まれる魔力であるマナの僅かな流れまでを認識できるようになる。

 当然だが、脳には相応の反動がくる代物だ。だが、ここで負けて鏡夜の信頼を裏切るわけにもいかないしな。それに、こんな模擬戦で負けていて復讐できるはずがない。迷うな確実にここで勝つ。


 「魔術発動。『万の瞳』」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る