第五話 クソ野郎?

 どっちにせよこうなるのか。今、見事に教室内の生徒の目線が俺に向いてしまっている。窓側の席で話していた暦さんも俺の存在に気付いたようだ。一緒に話していた3人に断りをいれてこっちに近づいてきた。


「教室まで来てどうしたの?」


 誘う前にちゃんと感謝しとかないとな。実際に迷惑をかけたわけだしな。


「鏡夜に聞いた。すまない、暦さんに迷惑をかけた。ありがとう」


「うん。連君は大丈夫なの?」


「あぁ、もう問題ない。医者からも許可が出たしな。それと、話しは変わるが昼食を一緒に食わないか?話しておきたい事がある」


「良いよ。少し待っいて、友達に連君と一緒に昼食を食べてくるって伝えてくるから」


 少し考えた素振りをしたから不安だったが、誘いに乗ってくれて良かった。少し廊下で待っていると教室から暦が出てきた。少し顔が赤くなっていたように見えた。

 暦と食堂に入ると皆が賑やかに昼食をとっている中でテーブルの1つに陣取って鏡夜を見つける。鏡夜もこちらに気がついて手を振って俺らを呼んでいる。俺はラーメンを取って鏡夜の席に座る。


「暦さん誘えて良かった。改めて自己紹介。僕の名前は、幽理 鏡夜、連とは、双子の弟になるのかな。よろしく」


「暦 霞染かすみです。こちらこそよろしくお願いします。

 それで話というのは何の事でしょう?」


  暦に昨日あった出来事を話した。俺と鏡夜の過去とあの混沌を名乗る男の部分は話していない。俺達の事情にまで関わる必要がない。今は、彼女が自身で自分の身を守れるようになるだけで十分だ。

 

「そんな、では、これから私はその組織に狙われ続けるのですか。」


 暦の顔が青くなりうつむいてしまった。まあ、しょうがない。普通は犯罪組織に命が狙われてると知ったら恐ろしいに決まっている。逆に恐怖を感じない奴は、変人と本当のバカくらいなものだ。

 ちなみに会話の内容は周りに聞こえないように魔術をかけて俺が指定した部分だけ消している。結構集中しないといけないからあまり好んで使わないが話している場所が場所だけに使うしたかなかった。

 少し落ち着けたのか暦の顔色が多少ましになった。


「どういう経緯で私を呼んだのか分かりました。ありがとうございます。教えてくれて、それで私はこれからどうすればいいんですか?」


 そう、本題はここからだ。彼女には2つの…厳密にはもっとあるが、大きく別けて2つ選択肢がある。1つ目が、この学校の教師、つまり、教師に相談し何らかの処置をとってもらう方法が1つ。もう1つが、自分を自分自身の力で守れるほど強くなることだ。

 普通に考えれば1つ目一択だが、今回は事情が事情だから学校側が動くか怪しい。今回、暦を狙った犯罪組織の名はま「アトラス」構成人数不明で、彼らが起こしたと思われる事件が多くあるものの証拠がないために世界中の警察など国の組織は実情を把握できていないテロ集団だ。その存在事態が都市伝説として扱われる事すらある組織だ。それを学校側が信じるとは到底思えない。

 だから、自身で自分を守るしかない。その術を俺達で教えるんだ。


「暦さんこの後の授業は、魔術なんかを実際に使用する訓練と聞いてるんだが、どんな訓練なんだ?」


「えーと。ほとんどが、準備運動をした後に各自で組みたい人と組んで模擬戦をしたりが基本で、日によって少しずつ違うから今日の事は詳しくは分からないかな」

 

「わかった。ありがとう」


 となると教える時間は授業中にもあるのか。けど、教えられる内容もあくまでも技術的な面に絞られるな。それも、実戦で使えるような応用のきく攻防の技術だけだな。教師側からあんまり目をつけられたくない。


「暦さんには、今日から俺と鏡夜から交互に実戦形式で訓練を受けてもらいたいんだけどいいか?」


「うん。良いんだけどなんで?」


「暦さんが、自分の身を自身で守れるようになってもらうためだ。」


「わかった」


 暦は了承してくれたか。後は、授業の合間になんとかして訓練を入れる方法だが……。模擬戦の時に教えながらたる方法が良さそうだ。そうなると、俺と鏡夜で教える内容は、分けた方が良いだろうな。俺が、魔力の操作や魔術陣形成についてを教えて鏡夜はその応用だな。後は、暦の戦闘スタイルに合わせた……。


「おい。お前ら二人そこの席どけ」


 何だこいつら。何がしたいんだ。話しかけてきたのは、黒髪短髪のやつで他、取り巻き3名。他の席はもとから空席のテーブルが何個かあるから席が足りないわけじゃない。ヘイトを買うような事は鏡夜と俺はやってない。そうなると、暦さんのファンの過激派かなんかだな。とはいえ、俺は別に喧嘩をしにここまで来たわけじゃない適当に流そう。


「悪いが、今大事な話しをしてる最中だ。それに俺たちがお前の命令に従う義理はない。昼食を取るなら他の席をあたれ。他に開いてる席ならいくらでもあるだろう?」


「はぁ、分からねぇのか。テメェら二人に用はねぇよ。俺らとって用事があるのは霞染お前だ」


 暦を見ると少し困ったような顔をしている。特段こいつらを嫌っているような様子はない寧ろ、なんか気まずい理由でもあるのか?

 コイツらが暦とどういった関係なのかよくわからないな。おそらくこいつの身なりや態度からしてどっかの坊っちゃんかなんかだろうな。それとこれでは、なんの関係も無い事だし、こいつらに席を譲ってやる義理は無いがな。


「テメェは俺の物だろうが、何してんだ?」


 何だこいつ、人を自分の所有物だと思ってるタイプのクソ野郎か。さて、下手な事してこの場を乗り切った所で面倒なことになるのは目に見えてるしな。どうしたものか。


「連君、鏡夜さん、ありがとうございました。助けようとしてくれて、これは私の問題です。この件でお二人に迷惑をかけるわけにはいきません。大丈夫です私一人でなんとかします。いえ、できます」


 そう言ってるが、暦が浮かべる表情は少し強張っている。どこも大丈夫じゃないじゃないか。それに助けてもらった借りを返せずに見過ごすわけにもいかないか。こういう時に手袋って本当に便利だな。

 内ポケットにあった左手用の手袋を取り出して思いっきりクソ野郎の顔面に向かって投げつける。見事に手袋は顔に当たって床に軽い音を立てて落ちる。クソ野郎は手袋を当てられて硬直していたが、すぐに我に帰ったのか今にも襲ってきそうな形相をして俺を睨む。暦は驚きでまだ硬直している。鏡夜は鏡夜でスッキリしたような顔をしている。


「おい、お前これはなんのつもりだ。今すぐ取り消すのならそこに土下座して靴をなめろ。そしたら無かった事にしてやる」


「取り消すかよ。それともこれが何の意味かわからないのか。ほら、さっさと拾えよそれとも俺ごときにビビってるのか?」


「フッ。良いだろう。この後の授業で行うぞ。覚悟していろ」


 手袋を拾い、俺の事を睨んで食堂を去っていった。以外だな、1回は殴ってくるものだと思っていたが、案外理性的だったな。

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