第四話 登校

 ―――――― 別に俺は全ての人を救いたかったわけじゃ無い。俺は世界にいる人々が憎かったわけじゃない。ただ、今あるこの物語せかいより良い世界で、みんなが幸せに過ごせれば良かった。何も、争いが無い物語を望んだわけじゃない! ほんの少し、ほんの少しでいいから、みんなが幸せな物語にいてほしかっただけだったんだ。俺はこんな物語望んだわけじゃ無い!!!

 俺―壊し――まった。俺が願――――で、助け―か――人―――られな――た俺が――。だ――、今―――全―助―て――る。


 俺の意識が覚醒していくにつれて徐々に声は聞こえなくなった。声が完全に聞こえなくなると同時に俺は眼を覚ました。俺は、病室のベットだと思われる所に寝かされていた。確か、暦を迎えに行って学校に登校しようとした時に気絶したのか。

 それにしても今のは何だ? どうしても頭から離れない。声からは自責の念と決意が混ざったような何かだった。その声はもがいていた。もう誰も傷つかないようにと、自身を殺そうとしていた。その他の感情は世界への憎しみだった。でも何で……。

 声の主に思考を巡らせていると病室の扉が勢いよく開いて鏡夜が入ってくる。


「連! 大丈夫かっ! 痛っ!!」


 走っていたの病室に入ったは良いが、勢いを殺せず、転けて壁にぶつかった。ものすごく痛そうだ。鏡夜はすぐに立ち上がり俺へ駆け寄ってくる。


「鏡夜、あまり病院で騒ぐなよ。周りの迷惑になってしまうだろ」


「その感じ何も問題は無いようだね。少し安心したよ」


 鏡夜は安心した表情をする。ベットの近くの椅子に座り、俺を見る。


「何があったんだい?君がそんな風に気絶する事なんてあの時以来だろう?」


「あぁ、そうだな」


 家族を殺され、能力に覚醒したあの日と同じように今日も気絶していた。まあ、そんな事は考えても答えは出ないか。そういえば、暦さんは大丈夫か? 俺が途中で気絶していたが。


「連、暦さんは大丈夫、問題なく学校に登校したよ。後で暦さんに話しがけときなよ。かなり心配していたからね」


「分かった。そうさせてもらうよ」


 鏡夜にいったん部屋から出てもらいナースコールをして点滴を外してもらい。検査を受けた。医者からは退院の許可が下りた。退院手続きを行い鏡夜と一緒に学校へ登校し着く頃には午前の授業は終わり、ちょうど昼の休みに入っていた。


「連、鏡夜、少し良いか」


 教室に向かい廊下を歩いているとちょうど教室から出てきた響華先生に声をかけられ俺と鏡夜は足を止めた。

「はい、大丈夫です」


「すまない。今日は午後からでクラス合同の模擬戦が行われる。例の場所から下に降りられるように学生証が私のこれと同じ働きをしてくれる」


 響華先生は職員証を見せる。


「私がやったようにすれば良い。くれぐれも遅れないように頼むぞ。まあ、だが、無理はしないようにな」


「はい。わかりました」


 響華先生が廊下を歩いて行き、俺と鏡夜は教室に入る。殆どのクラスメートは教材を片付け食堂に向かおうとしている所だった。荷物を机に置き、教室を出る。


「連、昼食に暦さん誘ったらどうだい? 暦さんと話すついでにさ」


「いやいや、おかしくないか? 俺らべつに昼食を一緒に食べる約束をしたわけでもないだろ。それに、下手に俺達が関わって、あいつの人間関係に何かあるとまずい」


 そうだ。暦自身と俺は本来無関係であり、今回の問題が解決したら関わらなくなる関係だ。だからなるべく、暦とは関わらない方が良い。あいつを俺達の問題に巻き込むわけのもいかない。

 もう、あいつらにあんな悲劇は起こさせないし、あんな地獄は、知っているのは俺達だけで十分だ。そのためにも、暦達を守るためにも。


「はぁ、連。連が考えている事は分かるよ。暦さんを巻き込まないようにしようと考えているのは分かるけど、彼女もう巻き込まれてしまっている」


 ぐっ、そうだ。暦は既に巻き込まれてしまっている。けれど、本当に知る必要はあるか? 不安を煽る結果になってしまわないか? 暦を狙っている組織は不明点が多すぎる。そもそも、その事を教えた所で信じてもらえるか、その確証がない。暦からの信用が無くなり、それが原因で暦を守れなければ、あいつらの尻尾を追うことがまた難しくなる。


「彼女も最低限の事は知る権利があるよ。彼女はすでにあいつらに襲われている。その言葉を信じる、信じないにせよ彼女には真実を伝える必要はある。それに少しでもあいつら事を知って彼女が自身の事を自分で守れるようになるのが一番だからね」


 それもそうだ。いつまでも俺達が助けるわけにもいかない。暦は自身で自分を守れるようになる必要がある。そのためには、敵を知らないといけないか。


「分かった。暦さんを昼食に誘ってくる」


「じゃあ、僕は3人分の席をとっておくよ」


「じゃあ、後でな」


 俺は、鏡夜と別れ、暦の教室に向けて歩く。確か1-1だったはずだ。1-1の教室は休みの時間なのもあり、賑やかだ。扉を開けると窓側の席で何人かのクラスメートと話している。教室の中にいた女子の一人が、近づいてきた。


「誰かに用事?」


 俺が、教室の中に直接入って誘って迷惑になってしまうかもしれない。それに、頼めるならば頼んでも良いだろう。


「すまない。暦 睦月さんを呼んでくれるか?」


「へ~、ほ~」


 何故か、面白い物を見るような眼で見られている。


「なるほど〜。暦!お客さんだよ」


 なんか納得したかのような顔をして振り向いたと思ったら大声で暦さんの事を呼んだ。見事に賑やかだった教室は静かになり、全員の目がこっちを向いてしまった。暦は美人だからな人気あるだろうな。

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