第8話 もう一度
「はぁ、はぁ……はぁ」
早く魔術を解除しなとやばいな。クソッ。情報過多で頭が……割れそうだ。だが、ここで焦って魔術を解除のしかたをミスれば反動が来る。ゆっくり慎重に確実にだが、急いで解除しろ。この魔術『万の瞳』は発動から少しずつ情報量が増えていく。時間をかけすぎると俺の脳が保たない。
魔術を少しづつ解体していく。それと同時に頭の中で溢れていた情報の波が引いていく。さっきまで、認識できた物ができなくなっていく。クリアだった視界が段々と曇っていく感覚に近い。魔術を解体しながら模擬戦の台の上から降りる。周囲の音が頭に響いて痛い。
台から降りると眼の前に鏡夜と霞染が立っていた。どうしたんだろうか?
「まったく。『万の瞳』を使ったね?そのせいで相当調子悪いみたいだし。はぁ〜。無理し過ぎじゃないかい?」
「いや、まあ、それだけあいつが強かった」
「とりあえずは良いけど。ちゃんと休みなよ?」
「そうさせてもらう。そういえば、二人は終わったのか?」
二人を見るとジャージに少し汚れている。
「連と違って、僕たちの方は何もなく終わったよ」
「鏡夜さんには色々とご指導してもらいました」
「教えると言っても最低限の体の動きと強くなるために何を伸ばした方が良いか見ていただけだから大した事はしていないよ」
「いいえ。その年でそこまで丁寧にわかりやすく教えられる人は多く無いと思います」
そろそろどこかで寝たい。かなりキツイ。足音?
俺等の右側からこちらに向けて歩いて来る足音が聞こえる。そちらを見るとそこにいたのは、嘉月だった。何であいつが?そうか。あの賭けの約束を果たしに来たのか?まあ、何にしろ今は争う気力も無いし対応は鏡夜に任せるか。
「すまない。今いいだろうか?」
さっきとは口調も雰囲気も変わっている。いや、こっちの方が素なのか。それにして変わり過ぎだ。たぶん多少姿が変わっていたら気付けない自信がある。
「なんの用だい?正直君の事はかなり印象悪いから早めに用事を済ませてくれると助かるんだけど」
流石に鏡夜もかなりトゲがある言い方をするな。まあ、当たり前か。さっきあんなキレていたし、無視せず対応するだけ、鏡夜にしては優しいほうだ。
「あぁ。さっき君たちに失礼な物言いをした事を謝罪したい。すまなかった」
「まあ、その謝罪は受けっ取っておくよ。でも、僕たちよりも謝るべき相手がいるんじゃないかな?」
「……そうだな」
嘉月が鏡夜に言われ、霞染に向き直る。さっきのチンピラみたいなこいつの姿が嘘みたいだな。
「霞染。今まですまなかった。いろんな事で迷惑をかけたし、霞染の気持ちを害する事をした。その事は許してくれとは、言わない。だからどうか、もう一度霞染の側にいる許可をもらえないだろうか」
なんというか。無駄に洗練された土下座をしていた。ここまで、洗練された土下座を見たのは初めてだ。霞染なんて驚きすぎて呆けてるな。
「と、とりあえず頭上げて嘉月。いいから私は大丈夫だから。ね。だから、頭上げて」
「ありがとう」
しばらく嘉月が頭を下げ続け、霞染が頭を上げるように言うというちょっとしたギャグみたいなのが続いた。ちなみに、鏡夜は途中からは呆れて笑っていた。
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