第1章

第1話 能力者

 やかましいスマホのタイマーの音と窓から射す光で目が覚める。その辺にあるスマホを手に取りタイマーを止めて、鈍い身体を起こし、制服に着替える。鞄の中身を確認し、鞄を手に持ち、1階に下りて居間に入る。


「おはよう、連」


 俺が居間に入ると鏡夜がこちらを向き声をかけてくる。鏡夜は俺の双子の弟で、とある事件で家族を失い親戚の家に住ませてもらっている。親戚の叔父と叔母は海外出張中で家には俺と鏡夜しかいない。


「おはよ、鏡夜」


 鏡夜に挨拶を返して、そのままテーブルの横に鞄を置き椅子に座る。鏡夜も調理途中の物に視線を戻す。テレビをいつも通り、ニュース番組を流す。


「では、今朝のニュースをお伝えします。昨夜未明、静岡県の都心の路地裏に5人の学生だと思われる遺体が発見され、遺体の見識によって、何者かの計画的殺人と断定し、ここ最近発生している殺人事件と関連性を調べると同時に現在犯人を捜索している途中です」


 ニュースから流れる内容は、ここ最近物騒な事件が続いている。学生だけではなく特に共通点があるわけでは無く今のところ無差別らしい。

 鏡夜が料理を盛り付けた皿をテーブルに置き、椅子に座る。今日の朝食は、和食の様だ。さらには、鮭の切り身とおろし大根が少し盛り付けられている。


「「いただきます」」


 鮭の塩焼きは、ちょうど良い塩加減と焼き加減で仕上がっている。味噌汁も美味しく、出汁がきいている。暖かい味噌汁を飲む事で身体が内側から暖まるのを感じる。そうして、朝食を食べ終え、台所で皿を洗い。鞄を持ち家を出る。今日から通う事になる学校への通学路を二人で歩く中、連は現在の自身と鏡夜の状況に思考を巡らす。

 俺たちは、数ヶ月前に能力へ覚醒した人間だ。能力者は、能力と言う力を扱う人々の事を指す。しかし、能力者の存在は隠匿されている。

 能力は強力な力をもたらす反面、大きな危険をはらむ。そのため、一般にはその存在が隠匿為れている。また、能力は強力だが、肉体に強烈な反動が帰ってくる。そのため、能力のでは無く、能力の代わりに魔術という技術が進歩した。俺達が通う学校は魔術と能力の扱い方を学ぶ学校だ。


「連、今日は、起きるの早かったね。どうしたんだい。いつもはもう少しおそいのに」


「今日から新しい学校だからな。少し早く起きて色々確認しておきたかったからな」


 鏡夜と他愛のない会話をしていると学校の門にたどり着いた。門の横には如月中学・高等学校とある。学校の周りには結界と思われる魔力が学校を覆っている。防犯はどんな風にするかと思えば堂々と、こんな風に結界を張っているとは思いもしなかった。

 不可視結界とはいえ、敏感な人間は結界の違和感に気付くと思うが、まあ良いか、それは俺が気にする必要はない。

 学校に登校してくる生徒と同じように校舎の中に入る。靴を履き替えて、廊下を通り職員室の前に立つ。携帯を見れば授業が始まるまで少し時間がある程度には時間に余裕がある。扉をノックして中に入る。


「失礼します。鈴鐘 響華先生は居ますか」


 そうやって鏡夜が言い中に入ると奥の机で何か書かれた紙に目を通している女性から返事が返ってくる。


「すまない、少しそこで待っていてくれ。これを終わらせて直ぐにそっちへ行く。そこら辺に座って待ってくれ」


 響華先生と思われる女性は一瞬こちらを向き直ぐに紙に視線を戻す。5分程度の時間が過ぎると、作業が終わったのか立ち上がり、こちらに歩いてくる。

 長く赤い髪に碧眼、背は高く、自分と同じ178cmほどあると思われる。また、胸もでかく、スタイルが良い。男物のスーツを着込んでおり顔も整っているため、女性陣からの絶大の人気を誇りそうな見た目をしている。


「待たせた。二人が今日から合流する転校生の幽理 連と鏡夜で合っているか?」


「間違いないです。今日からよろしくお願いします」


「ああ、今日からよろしく頼むよ。じゃあ教室に案内する着いてきてくれ」


 響華先生は、二人の前に出て校舎の中を歩く。俺達も響華先生について行く様に廊下を歩いて行く。


「分かっているとは思うが、町中および学校内の一部の場所以外での能力、魔術の使用は禁止されている。これを違反すれば、相応の罰が下される。しかし、例外もある。相手が能力および魔術の使用した場合に限り、能力、魔術の使用が許可される。あくまで、自身の身を守るための措置だ覚えておけ」


 話し終えると響華先生は1-3の教室の前に足を止める。ここが、響華先生の担任する教室のようだ。中からは話し声が聞こえる。


「教室に入った後、呼から、それまで廊下で待っていてくれ」


 響華先生が教室の扉を開け、中に入る。そうすると中の話し声が止んだ。


「おはよう。授業を始める前に二人の転校生を紹介する。入ってきてくれ」


 響華先生に呼ばれ、中に入る。教室中の視線が俺と鏡夜に向けられる。響華先生の隣に鏡夜と立つ。


「転校生の幽理 連と鏡夜だ。まだ、慣れない事が多い思うが、色々とサポートしてやってくれ。二人の席はあの空いている席だ」


 窓際に2席、空いている席が縦に並んでいる。俺と鏡夜は席に着き鞄を机に掛け、前を向く。


「今日は、転校生もいる事だ、昨日の復習から始める」


 午前の授業の終了のチャイムが鳴る。数学の教師は教材を閉じ、教室を出る。

 能力者の学校と聞いていたが、今のところ普通の学校と遜色ない授業内容だ。しかし、授業内容を進める

速度が二倍以上に早い。おそらく、一般の授業内容の他に能力者としての授業もあるからだと思うが、能力者の存在は隠匿する必要がある。大っぴらに授業ができない以上、何処かで密かにやるのだろうが、どうするつもりだろうか。

 まあ、それは後で良いだろう。とりあえず食堂で昼食を取ろう。鏡夜の方に目を向けるとクラスメートと話している。こうも何故、俺とあいつでは態度が違うのだろうか。まあ、そんな事はどうでも良い今に始まった事ではない。

 クラスメートと話している鏡夜に近づき話しかける。


「鏡夜。昼食食いに行こう」


「OK、行こう。ごめんね。それじゃあ」


 鏡夜は話していたクラスメートに謝り、近づき隣を歩く。


「助かった。あのままだったら昼食を食べ損ねる所だったよ」


「いや、ぼっちで食べるのが嫌だから呼んだだけだから感謝される事じゃない」


「それでも、助かったのは事実だからね。感謝されたら黙って受け取っておくものだよ連君」


「そうだな」


 鏡夜の何度目かのその返しに笑う。そうこうしているうちに食堂についた。昼食を取り、席に着く。周りを見渡す。クラスで食べる人たちがいるのか食堂にいる人数が少ない。それでも少なからず食堂で集まって食べる奴らもいるらしい。


「そろそろ、行くか」


「そうだね」


 昼食を終え、少し鏡夜と話したが、もう少しで昼の時間が終わる。行きと同じ道を通り、教室に戻る。教室の扉を開けると響華が教卓の前に立っていた。


「よ~し、全員集まったな。それじゃあ、いつもの場所行くぞ。」


 響華は教室を出る。慣れた様に響華先生の後をクラスの生徒がついていく。その流れに任せ歩いて廊下を歩く。響華は1階の階段の前で足が止まる。響華先生はポケットから職員証を取り出し、壁にある小さな幾何学模様に職員証をかざす。何もなかった奥の壁が開きクラスの生徒が入っても余る程度に大きな空間があった。その中に全員が入ると扉が閉まり、部屋が降下し始める。

 部屋の降下が止まる。扉は開く1階と同じように廊下があり、左右に教室その奥に更衣室が、一番奥には学校の体育館を思わせる扉がある。

 響華先生は上の教室と同じ1-3と書かれた教室に入って行く。俺達は同じ位置の席に座る。響華先生はさっきと同じで教壇に立ち、黒板に書き、こっちに向き直り授業を始める。


「では、授業を始める。転入生の二人がいる事だ。魔術の振り返りから始める」

 

 響華先生は、魔術の成り立ちに話していった。能力者は遺伝子によって突然変異が発生したが、西暦1700年頃にその存在がすでにいたと考えられるらしい。様々な要因があるらしいが、能力者はその力の存在を隠匿してきた。 西暦1900年頃に魔術が技術として確立されたようだ。魔術は、今まで身体に多大な負荷がかかっていた能力の行使が魔術の確立によって身体にかかる負荷を大きく軽減する事が可能になった。この魔術と言う技術は、現在は能力者の学校教育として行われるようになったようだ。

 響華は魔術の成り立ちについて一通り話すと教卓の前に立ち、魔術を行使し手から一瞬魔術陣が現れ、炎に変化した。


「この炎を出す時に、魔術は燃焼反応を魔力で使用し再現している。一部の例外を除き全ての魔術に共通する事だ」


 響華先生の手の上の火がナイフような形状に変化する。


「しかし、燃焼反応の再現でしかない。つまり魔力を使用した偽物でしかないわけだ。故に炎を物体みたく触れられるようにも、形状も変化させ、刃にもする事ができる。この性質によって炎で作った槍などの武器は刺す、切る事が可能になっている」


 炎のナイフを元に戻し炎を消す。


「ただし、一部の魔術はさっき話した過程の再現を行っていない。幻覚、洗脳系の魔術は術者独自の法則に則り魔術を行使している。そのため幻覚、洗脳系の解除法は共通している事が多いが気をつける事に越した事はない油断しないように」


 魔術に関する授業が続く。響華先生は属性ごとの性質、魔術陣とは何かなどの魔術の基礎となる部分を話しを終えるとチャイムが鳴る。


「今日はここまでだ。上の教室に戻るぞ」


 来た時と同じ道をたどり教室にもどり、自身の席に座る。響華先生は教卓の運んできた物を置きこっちを向く。


「今日はこれで、解散とする。なるべく寄り道はするな。最近物騒な事が多い。気をつけて下校するように」


 鏡夜がクラスメートに捕まる前に教室を出る。学校からの帰り道、鏡夜が分かれ道で立ち止まる。俺も、鏡夜が止まる。


 「連、もう食材ないの忘れてた。僕が行ってくる来るよ、連は先に帰っていて」


 そういう事か。そういえば、チョコのストック切れそうだったな。食材を買うついでにチョコのストックを買っておくか。


「いや、鏡夜が先に帰って米とか炊いておいてくれ。俺はチョコを買うついでに食材を買っておく」


「わかった。じゃあ先に帰っているよ」

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