第12話

 第16銀河は第7銀河より科学技術は進んでいるかもしれない。龍昂はその母船を見物しながら、そういう結論に達した。皆より先に乗船していたゲルダと二人、勝手に中を見物していたのであるが、かなり巨大な母船であり、設備は第7銀河に比べ充実していると思えた。

 うろついているうちに、仮設住宅の設備らしいものがある場所にたどり着いた。広いスペースがあり、おそらく母船の中である程度組み立てるらしい。共通言語の取説付きで、画面に出して見ていると、第3銀河用にも出来るとなっている。すでに自分たちが仲間になる事は想定済みだったと言う事だ。二人そろって、

「良い物、見つけたっ」

 と言う事となった。ゲルダの意見が、現実味を帯びて来た。

「これがあれば君の案が提案できるね。イワノフに言いに行こう」

「あなた、最近イワノフと仲が良いみたいね。私もララとお友達になれたのよ」

「それは良かった。君が時々寂しそうにしていたから、ちょっと心配していたよ」

「あら、そうだったの。大丈夫よ、あたしは。ララがいるもの」

 そんな会話をしながら、二人で、操縦室に居るイワノフの所へ行ってみた。

 操縦室では、第7銀河の船長とイワノフとで、第16銀河の捕虜と対峙していた。少し違和感を感じて、アイザックこと龍昂は、

「何か問題でも」

 と聞くと、船長が、

「こいつらは俺達に操縦の仕方を教えないそうだ」

 と、苦々しく言った。

「まあ、それが命綱だからね」

「そんなことは無い。捕虜は捕虜として、きちんと対応する事になっている。しかし、捕虜は牢に入るべきだ。ここに居させてはケジメが付かない」

 アイザックは、

「じゃあ、俺の分かっている事はお知らせしましょうか。少しさっき探りましたから」

 イワノフは驚いて言った。

「お前、異種間で、テレパシーが使えるのか」

「どう言う訳か、段々能力が増してきてね。必要に迫られているのかな」

 そう良いながら、アイザックは操縦桿を手にした。付いているボタンを押しながら、さっき感じていた暗証番号の様な物をタイプしてみるが、コンソールは開かなかった。

「ううむ、駄目だな」

 ため息をつくと、捕虜は、

「操縦桿は、私達の銀河の人しか反応しないようになっています」

 と言うので、

「だけどさっきは、俺にもビームが打てたけどな」

 と疑問の点を言うと、

「さっきは先に船長がセットしていましたから」

 と一人が言い、他の人がそれを必死で止めようとした。

 第7銀河の船長は、

「ふうん、最初にセットすれば、後は誰でも扱えると言う事らしいぞ。アイザック、セットしてもらって、動かせるかどうか試してくれないか」

 とにっこりと言い、アイザックこと龍昂も、

「じゃあ、セットしてもらえますかねえ。何方でも良いですけど。手を切り落とされたくは無いでしょう」

 とこれもまたにっこりとして、捕虜たちに誰ともなく言ってみた。指紋か何かで反応するのだと思った。すると、

「生体反応ですから、私達が死んでしまったらお終いです」

 といって、おそらく笑ったと思えた。アイザックこと龍昂は、

「じゃあ、死なないうちにお願いします。生きているのは、ひとりで十分間に合うのでは」

 と返し、本当は笑えないやり取りの後、観念したらしい年嵩の男が、操縦のコンソールをやっと立ち上げさせた。

「余り手間を掛けさせないで欲しいものですね」

 アイザックこと龍昂はもう一声、声を掛けた後、テレパシーで察した通りに動かしてみた。ある程度は可能だが、ワープの方法は分からない。第一、龍昂はそれを、経験さえしていないのだから尚更だ。仕方なく、

「ワープは分かりません。イメージがまだありませんから」

 と言うしかなかった。他の人たちは、なるほどと思ったようで、船長も仕方なく、

「では、君たちはここで操縦してもらうしかないのかな。不本意だが」

 アイザックこと龍昂は、

「妙な事をしたら、命はありませんよ。分かっていればいいですけど」

 と言っておき、イワノフに自分たちの言葉で、

「あほうどもをお払い箱に出来る名案が、見つかったんですよ」

 と、さっき見つけた住宅作製アイテムの話と、ゲルダの提案について話してみた。イワノフは、

「そうだな。それは君から彼らに話してみないか。その方が旨く事が運びそうだな。俺の信用は地に落ちたようだ。誰が勘づいたのか不思議なんだが」

 と言い出した。龍昂は妙だと思った。

「誰が勘づいたか、分からないんですか。イワノフ本人が判らなかったとは妙ですね。アンドロイドが混じってはいないでしょうね」

「何だって、そんな話に何故なるんだ」

「混じりそうになった事があるんですよ。あなたが不在の時。ゲルダはアンドロイドなら、分かると以前は言っていましたが。ブロックしたのと同じような感覚を感じるらしいですよ。機械的なブロックにですが」

「ふむ、ブロックしている様な奴は数名いるが、そうだな、そう言えば高度な技なのだから、そうそう誰もがマスターできるはずは無かった。うっかりしていたな。俺も。ブロックしている奴を、少し観察する必要が有るな。君も気を付けていてくれ」

 イワノフはアイザックにそう言って、失態を隠す余裕も無くなっている。

 そんな自分たちの話を船長も翻訳機を通して、聞いていた。

 チェックすべき人は、数名いた。アイザックこと龍昂は、

「テレパシー能力が無いのに、ブロックが出来るとは、考えにくい。この二人はあやしい」

 と。候補を二人に絞った。ついて来ていたゲルダは、アイザックの推理を聞き、

「あら、この二人だって、テレパシーは出来るはずよ。子供の頃には私とテレパシーで会話した事があるの、同じ歳だったから、クラスが同じだったわ」

 と言い出した。アイザックこと龍昂は、

「彼等にはテレパシー能力は無い。俺には分かっている。君らは二人が生きている時にテレパシー能力が有ったのを知っていたから、ブロックしていると思っていたのだろう。これで決まりだな」

 と厳しく言った。アイザックこと龍昂は宇宙船の事が気がかりで、アンドロイドのチェックを疎かにしていたと後悔していた。

「まあ、いつの間にか入れ替わったって言うの。怖い」

 船長も、

「俺の見た目にも、あの時、この二人は皆を煽っている感じがしたな。アンドロイドで間違いは無いだろう。どう対応するかだな」

 と話した。

 すると、船長の翻訳機を聞いていた年嵩の捕虜が、

「アンドロイドが居るのですか、彼等は近くに支配者が必要ですよ。操るものが居なくてはそれほど的確には行動できませんよ」

 と言い出し、皆を驚かせた。船長は、

「貴様、俺等を疑心暗鬼にするつもりだろう。こっちには、牢に居る第16銀河の奴以外には、第3銀河と第7銀河の人しかいないんだ。アンドロイドなど操る能力は無い。大体彼らは第3銀河からやって来たんだし」

 と言うのだった。しかし龍昂は捕虜が嘘をついているとは思えなかった。

「人間の中にも、裏切り者が居るのか」

 と、呟いた。

 イワノフは

「人間がそんな事できるだろうか、人間に擬態しているのかもしれない」

「擬態ですって」

 ゲルダが、驚いで恐怖に駆られる事となる。

 龍昂は彼女を連れてきてしまった事を後悔しそうになるが、聞かせていた方が危機を知る事となったとも言える。

「この間の会議の資料の中に、擬態できる能力のある、敵の銀河の存在についての件があっただろう、船長」

 イワノフは見た感じパニック寸前である。どうした事だろう。

「確か、水の中で擬態化し、又水に入ると正体が分かるんだったね」

「そうそう、第9銀河の奴らだ。しかし、宇宙船にはそんなにたくさん水を貯蔵してはいない。飲料水の確保がせいぜいだな。こりゃあ難しい事になったな」

 と思案している。

 アイザックこと龍昂は心配になり、

「イワノフ様子が変だね。どうしたんだ」

 と聞くと、

「ララは海難事故で一人助かっている。家族は皆水死したと言っていた」

「で、それがどうした」

「新参者はララだけだろうがっ」

 ゲルダは、

「まあ、いやだ」

 と叫んだ。

 アイザックは、ため息交じりに、

「ララを水に漬けてみないとな」

 と言った。ゲルダは、

「お友達になったのに、信じられない」

 と文句を言うものの、狼狽気味だ。 

 アイザックこと龍昂はこの事を聞いてゲルダの態度が変わってしまったら、ララは勘づくはずだと思った。しかしゲルダを連れ歩かねば、ララと過ごす成り行きだったはずである。これで良かったと言えるだろう。船長は、

「もったいないが、水が必要になったな」

 とため息をついた。



 それから、イワノフとアイザックは、ララの所に行き、何気無さそうに、船の見物を提案した。

 彼等が、連れ歩いている間に、船長が何とか手配した水を、信用できる者達が、イワノフの部屋に用意した即席のバスタブの中に入れ、お風呂をどうぞと言う設定にした。

 きっと嫌がるだろうから、アイザックが放り込む手筈である。

 ゲルダは自分の部屋で塞ぎ込んでいると、例の幼馴染のアンドロイドがやって来たが、部屋に入れないでおくと、ドアを壊しそうな勢いになって来た。ばれている。もう知らないからと塞ぎ込んでいた。周囲の部屋の人が不審に思って出て来たので、二人は諦めて部屋から離れたようだ。だが、用心に部屋からは出ない事にした。

 この事で、アイザックはきっとばれている事は察している事だろうから、もう、なるように成れとゲルダは思った。

 後からアイザックが報告したところによると、逃げようとしたララを抱えて部屋に急いで戻り、バスタブに放り込んだそうである。その頃は皆に知れて大騒ぎになり、皆の目前でバスタブに放り込み、正体が現れた所で、皆納得の所で始末したそうだ。アンドロイドもゲルダの部屋の前で騒いでいた為、皆で取り押さえ、始末した。アンドロイドは人間と変わらないように見えたが、捕虜たちがその見分け方を解説したので、解剖の上、それも皆納得したそうだ。

 仲間意識は段々出て来たものの、アイザックの提案に飛びついた皆は、第7銀河基地には行かず、基地到着前に惑星に直接行く事にして、ゲルダ達や、テレパシー能力者と袂を分かつ事となった。

 

 


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