第11話

 龍昂は操縦室に急いで駆けつけて、外を見ながら、そこに居たムールに聞いた。

「どうなっているんだ。ムール、あの船は味方じゃあないのか」

「あいつら、又敵に寝返っていたんだ。同乗していた奴らが手引きして俺達の船に近寄らせて、攻撃し出した。同乗していた奴らは捕まえて、牢にぶち込んだが、随分思い切った事をしたものだな。自分達の身の危険を顧みずに。危険と思ってないのかも。俺達なめられているのかなってところだ」

 それは第16銀河の船で、ムールが先日から話していた。味方になったり寝返ったりしていると言う銀河の船である。アイザックこと龍昂としては、一番気に食わないやり方をする相手だ。

「なめられる訳にはいかないな。俺達としては」

 アイザックにしては、かなり凄味の有る様子でその言葉を吐いた。その所為で、そこに居合わせているイワノフや、一部の幹部の第3銀河の人たちは、驚いてアイザックを見た。

 アイザックこと龍昂は失敗したかなと思ったそんな時、又酷い衝撃があった。

 アイザックは驚いて、

「やられているんじゃあないか。負ける訳にはいかないんだ」

 と叫ぶと、この船の船長は、

「俺たちだって、負けるつもりはない。だが最初の不意打ちを防げなかったから、こっちは不利だ。相手の戦闘機に囲まれている。裏の船の急所に回られてしまった。裏は船からのビームが届かない位置があって、そこにたむろしてこの船の急所を襲っている。はっきり言ってお手上げに近いんだ」

 アイザックこと龍昂はギョッとしたが、ふと思いついた。

「そう言えばあいつらの戦闘機だってここに居る奴の分が、有るんじゃあないか」

「あるが、操縦できる奴は牢の中だぞ。何を思いついた」

 ムールが聞くので、

「そいつらの中の何人か出して、戦闘機を母船に入れさせて、俺らもそれに乗ってあの船に乗船しよう。あの船を奪わなくては、俺等の先は無いぞ。奪って後は交渉だな」

「正気か、出来っこないだろう。向うの船にはまだ相当人数がいるはずだ」

「いや、相手の戦闘機、今何機出ている。ほとんど出て総攻撃だろ。戦闘員の大部分は戦闘機に居るはずだ。残っているのは年食った幹部がほとんどだろう。戦い慣れた奴はそう多くはいない筈だ。俺が行って船を奪って来る。心配はいらない。負けるつもりは無いんだ。第16銀河の裏切り者たちを牢から出してくれ。脅して操縦させるから」

「しかし、向こうの乗員じゃあないから、怪しまれるかもしれない。入れてくれるかな」

「乗員じゃあないと分かると思うか。こんな時、一々確認するかな。何かトラブルの戦闘機がもどって来たと思うんじゃあないか。実際トラブルの種だけどな」

 第7銀河の船長が、

「その案に乗ってみよう。どっち道、他に手は無い。16銀河の戦闘機は、7機あるから、アイザックが行くなら、こっちもまだ出撃していない奴を6人選んで出そう」

「いえ、大人数は怪しまれます。俺が行ってきますから」

 龍昂としては負ける気がしないのだが、イワノフは、

「こっちの戦闘機が追いかけている感じで、2,3機こっちので付いて行ってはどうですか。もちろん、相手に撃ち落とされてはたまりませんから、16 銀河の戦闘機と接近して飛ばなければなりません。かなり熟練した人に任せなくては無理ですね」

 イワノフとしては龍昂が正体をばらしそうで、ひやひやしている。

 龍昂はイワノフが彼のストレスで、仲間を操っている技にほころびが出ているのに気付いた。

「イワノフ、それは良い案ですね。そうしましょうよ。船長。イワノフには気を使わせてしまったね。君には君の仕事があったのに」

 本人は気付いていない様なので、アイザックこと龍昂はそう言って、急いで準備に取り掛かりに、操縦室から第7銀河の仲間と共に出ていった。今からが、正念場である。

 第16銀河の一人を脅して、龍昂は16銀河の戦闘機に乗り込み、第7銀河のムールを含んだ6人が、戦闘機3機に乗り作戦通り、かなり接近して飛び母船に近付いた。

 まんまと母船は入口を開けたので、4機急いで母船に入った。おそらく、こちらの戦闘機が入って来るとは思っていなかったであろう。入ってみると、味方の戦闘機に攻撃しようと、残っていた敵の乗員が囲んで来た。龍昂は乗っていた戦闘機の敵を直ぐに殺し、外に出ると、取り囲んできた敵を、次々に格闘技で打ち殺した。スイッチが入った感じである。

 あっという間にその場の十数人を倒して、操縦室に向って駆けだした。母船に入る前に中の配置を大雑把であるが、16銀河人に白状させていた。第7銀河の皆は驚きながら、アイザックこと龍昂に付いて行くばかりである。走りながら、出合わせた敵を撃ち、龍昂は直ぐに操縦室に着いた。第7銀河の仲間は、走るだけだが、まだ道半ばである。

 第7銀河の銃は第3銀河の拳銃によく似ていて、龍昂には扱いやすかった。それに、弾を直ぐに入れなければならないような手間もかからず、長持ちしている。

 操縦室から次々に敵が出てきたが、あっさり狙い撃ちでき、気が付くと船長他、幹部しか残っていなかった。そこへゼイゼイと第7銀河の6人がたどり着いた。

 16銀河の船長らしき人物が、

「これは、これは、この物凄い奴は何者かと思えば、噂の第3銀河新人類だな。今頃のこのこ第7銀河人の登場か。しかし、戦闘員が戻ってきている。活躍はここまでだな」

 と言うものの、龍昂は、

「そうはいくものか」

 と、操縦室のビーム発射装置を操り、戻って来る戦闘機を次々に撃ち落としだした。

「なにっ、貴様、いつの間にこっちの母船を扱えるようになったのか」

 船長が驚くと、龍昂は、

「たった今さ」

 と、第7銀河の言葉で答えた。それを見た第7銀河の皆は、あきれ果ててしまったのだった。

 撃ち終わった龍昂は、船長に銃を向けた。第7銀河の仲間は、

「そいつも殺すのか」

 と、恐る恐る聞くので、

「殺した方が、あと腐れが無いだろう」

 と言って、あっさり殺してしまったのだった。ムールは、

「恐るべし、第3銀河新人類」

 と呟いた。

 アイザックこと龍昂は、その言葉には気にせず、

「イワノフがトラブっているな。戻って騒ぎを沈めないと、でも、こっちの母船の操縦は・・・」

 残りの幹部を殺す件は迷っていると、

「どうぞ殺さないでくれませんか、私達は裏切りたくは無かったけれど、本部司令官の命令だったのです」

 と、すかさず命乞いされた。テレパシーでは不信感を感じなかったので、殺さず捕虜として操縦させることに決めた龍昂は、後は他の第7銀河の人たちに任せ、ムールと共に母船に戻る事にした。

 二人で、愚かな仲間に不愉快な思いを抱きながら、母船に戻ってみると、愚かな仲間は、イワノフにさえ銃を向け、操縦室の一同は、手を挙げて壁に揃って立っていた。第7銀河と本気で戦えば負けるに決まっているのだが、それが理解できない第3銀河の愚か者たちは、一触即発と言った雰囲気である。

 操縦室に彼らを刺激しないように、静かに入って行った、龍昂ことアイザックは、

「どうしたんだ、皆。何があった」

 と困惑したように、静かに言葉を発した。何があったかは一目瞭然だが、穏やかな宇宙船製作当時のオタクっぽい雰囲気を出していた。又、横のムールに呆れられているのは分かっていた。興奮している仲間の一人が、

「アイザック、イワノフはこいつらとつるんで、俺達を何処かへ運んでいるんだ」

「何処かって、あの惑星に行くんだろう」

「いや、こいつらの基地だ。テレパシーの出来る奴が、そう言っている」

「でも、その近くが惑星だろう。基地からすぐの所らしいよ」

「行けるかどうか分かるものか」

「でも、今からどうするつもりなのかな。皆は。この船はもう壊れてしまったし、今、敵の母船を手に入れたんだ。だから、皆でそっちに移るべきだ。この船に居ても危ないぞ。僕はゲルダを連れて、あっちに行きたいんだ。気を静めて欲しいな。ここは危ないんだから、皆で向うに移ろう。僕はゲルダと行くからね。君たちも良く考えてよね」

 そう言って、実際彼らには構わず、アイザックこと龍昂はゲルダを連れて移るつもりでいた。仲間が今からどうしようが、はっきり言って龍昂にはどうでも良かった。ゲルダを連れて、第7銀河の基地に行くことが出来れば、そこで暮らせると分かっているのだから。

「じゃあ行こうか、ムール。操縦は捕虜がすると自分から言っているから任せるにしても、大勢乗り込んだ方が、こっちに有利だからね。留守番させている仲間も早く戻って欲しいだろうし」

「そうだね」

 ムールは、呆れながら調子を合わせてくれた。

 アイザック達が操縦室からあっさり出て行こうとするのを見ていた愚か者達は、段々冷静に考えている様である。丁度その時、大きな警報が鳴った。

「何の音だっ」

 銃を持ったまま皆が、驚いて口々に叫んだ。かなり危ない状況になってしまった。

 船長は、

「あれは火災警報だ。早く消火しないと」

「何処が燃えているんだ」

「おそらくダメージを受けた裏側だろう。居住区に近いぞ」

「大変だ。ゲルダの所に行かないと」

 アイザックこと龍昂は慌てて出て行くと、皆は銃を収め、アイザックに続いて家族のいる所へ急いだ。

 龍昂が慌ててゲルダの所へ行く途中、ゲルダはイワノフの彼女、ララを連れて、船の上部へ逃げようとしていてくれていた。言われたことを鵜吞みにして、言いなりになるタイプではないゲルダだった。

「良かった、ゲルダ。逃げて来てくれたんだね。ララも連れて来てくれたんだね。ありがとう。今、イワノフは生憎トラブっていてね」

「分かっている。だから、連れて来たの」

「君が人の言う事を鵜呑みにするタイプじゃあないのが、これほど嬉しかったことは無いよ」

「でしょうね。他の人たちはあたし達の言う事を聞かないで、下に居るから、きっと煙に巻かれていると思うわ」

 そんな話をして言えるうちに、その家族達が慌てて助けに行っているのにすれ違った。

「助けが行ったようだから、僕たちは敵の母船に移ろう。操縦できる奴らを、捕虜にしたから、第7銀河基地に行くことが出来るよ」

 アイザックこと龍昂が言うと、

「他の人たちは、基地には行きたくないそうよ。いっそのこと、惑星に先に行って、そこに降ろしちゃったら」

 ゲルダは思い切った事を言った。そのアイデアは、さすがのアイザックこと龍昂も思いついていなかった。

「いい考えだとは思うが、まだ惑星の詳しい事は分かってはいないんだよ。基地で調べる方が良いだろう」

「構やしないんじゃない。基地に行きたくないって言っているんだから。行きたくない者を無理に連れて行くのはどうかしら。もめていたんでしょ。さっきから。あなたがその提案をしたら、皆乗って来ると思うわ。こっちは、知ったこっちゃないわよ。人の親切が分からない人たちには、いい薬よ」

 ゲルダのきつい言い様に、横のムールが又感心している。こっそり、

「彼女の意見に、偶には従ったらどうかな」

 と言い出すし、アイザックとしては、

「イワノフと相談してみよう」

 と答えることにした。

「彼女は正論を言っているね」

 ムールの意見に賛同の思いの、アイザックこと龍昂だった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る