第10話

 アイザックこと龍昂とムールがゲルダの事で深刻な気分になり、押し黙っている所へ、ムールの上司であり、第7銀河のトップ3の内の一人。ピリルが部屋に入って来た。

「まだ勉強中なのか、二人とも随分熱心じゃあないか。良い事だ。では良い知らせをついでに発表しよう。アイザック・メイソン、君達第3銀河の仲間たちも一緒に、我らと出発する事になった。第7銀河の仲間共々ね。第7銀河の基地のひとつが、君たちが目指す惑星近くにあるんだが、その基地まで行く事になった。つまり、我らはここを引き払う。この第3銀河基地は、もう作業手順は完成されて、コンピューターに入っているからね。もうロボット任せで十分完成できる状態だ。後はベルに任せる。なんだかんだで、わしらはここに滞在していただけだったのだ。実の所、船の手配の都合が有ってね。昨日知らせが入って、帰りの宇宙船の手配が出来たと言うので、みんな一緒に行く事になった。明日来る。ワープでね。移動するならワープじゃあないとね。第3銀河の人たちは俺らに慣れていないんじゃあないかとイワノフさんに聞くと、イワノフさん、どうやら能力があるんだねえ。気分を変えさせるって言うのかな。驚いたけど、それで行くってさ。話によると、君、メイソン君だって、ある程度出来るそうだね。今は別口で手一杯だそうだけど」

 ムールは、噴出して、

「なんだ、オフレコってほどでもなさそうじゃあないか。さっきの話は」

 と言うが、アイザックは、

「いやいや。オフレコですよ。ピリルさんだって、別口としか言わないでしょう」

 と慌てて遮ると、ピリルさん、

「別口についてはある程度事情は聞いている。ややこしくなりそうなので、わしらは知らなかった事になっているぞ。君の仲間の手前ね。第7銀河は幹部しか知らない。ムールも知っているようだが、幹部じゃあないんだから、知らないって事にしとくんだぞ。第3銀河の仲間割れは避けたいからな。俺等、気を使う立場になって来たな。ムールも大人の対応をするんだぞ」

 と言ってくれたので、アイザックも、

「どうも、気を使わせてしまって、申し訳ないです」

 と謝っておいた。


 そう言う事で、明日はいよいよワープ体験となる。アイザックこと龍昂は初めての体験にワクワクしてきたが、人によっては恐怖を感じる場合もあるだろう。イワノフは忙しくなりそうである。



 ゲルダはひとり、部屋にいる。アイザックは言語の勉強だそうで、この基地に来てからは、又忙しくなって、毎日出かけていた。

 ゲルダは、家族を地球に残して彼に付いて来ていたので、時間を持て余していた。思い出すのは出発前の、慌ただしく過ごしていた頃の事だ。

 あの頃も、アイザックは今同様、ゲルダの相手をする暇は無かった。大体が、宇宙船の

 製作で頭がいっぱいのアイザックではあった。彼との付き合いは、学生時代からのゲルダの一目ぼれからである。ゲルダは積極的にアイザックに近寄り、付き合う事となった。ゲルダは学生時代から利口で容姿も良く、アイザックとしては断る理由は無かっただろう。

 そう言う訳で、積極的なゲルダでもっていた恋人なのだった。そしてあの出発間近の頃、龍昂が仲間に加わった。

 ゲルダは、彼の自分に対する好意を強く感じてはいた。彼女の一族はテレパシー能力があり、その能力はあまり多くを表ざたにはしていなかった。一族はそれまでの経験から、能力を隠して暮らして居たのだが、新人類が多く生まれて来た近頃は、隠しおおせる事は出来なかった。彼女もそのテレパシー能力を強く受け継いでいた。龍昂の愛を感じてはいたが、彼女としては、最初はまだアイザック一筋だった。しかし、ゲルダは、自分の気持ちの変化に気付いていた時期がある。

 アイザックが忙しくて、会いに行ってもあまり相手をしてもらえないので、家で過ごすことが多くなっていた頃、仲間の噂で、また犠牲者が出たと聞いた。そしてキールや龍昂も亡くなったと知った。龍昂に会った時から、彼の家族の死を感じて少し同情の気持ちが沸いていたものの、それだけだと思っていたゲルダであるが、彼の死はショックだった。皆は、これで彼の一家は全滅したと言っていた。ゲルダは理不尽な彼の一家の運命に悔しくなり、父親に敵を討ちに行かないのか聞いた。以前は仲間が迫害されると、皆で敵討ちに行き乱闘となったものである。ところが、惑星行きが間近な為か、誰も敵討ちを言い出す人は居なかった。付き合いの長いキールも亡くなっているのに。父親は、皆はもう気分が戦いからは遠ざかっていると言った。これからは犠牲者は死に損と言う事なのかと思うと、ゲルダは何だか居た堪れなくなって、すっかり塞ぎ込んでしまった。そして、アイザックに彼女の気持ちに沿って欲しくて、会いに行ったのだが。

 彼女は思い出していた、何だか、アイザックに会いに行ったら、又アイザック一筋って気分になったけど。あれは自己防衛だった気がする。これ以上死んだ人の事を思っていたら、生きている私が、駄目になってしまうから。

 あの龍昂が死んでしまった頃、ゲルダの気持ちは、自分を愛してくれる龍昂に移っていたはずだ。でもこの事は、自分の心の奥に閉まって置く事にしたのだった。誰も探れない心の奥底である。だって、もう居ないんだもの、どうしようもないじゃないか。とゲルダは思ったのだった。


 部屋の外では、皆気分が慌ただしくなってきていると感じたゲルダである。何か変化が起きている。そこへ、アイザックが帰って来た。ご機嫌である。ゲルダは嬉しくなり、

「アイザック。おかえりなさい。何か良いことでもあったのかしら」

 アイザックにはゲルダは自分の能力を隠しはしなかった。彼も気にしてはいなかったから。アイザックは彼女の感じていたとおり、

「そうなんだよ、ゲルダ。とうとう明日、惑星に行くんだよ。第7銀河の宇宙船に乗ってね」

「本当なの。明日行くって、そんなに早く行けるの」

「そうだよ、ワープと言う方法があるんだ。俺らには迄出来ない技術だけど、彼等の宇宙船はそれが出来るんだ。楽しみだな。早く乗ってみたいし、どんな技術か知りたいものだな」

「明日それが判るのね。凄い。楽しみなのね。私もワクワクしてきちゃう」

 ゲルダも、彼の機嫌が良いと、嬉しくなっていた。

 当日、ご機嫌なアイザックと共に、初めて間近で見る第7銀河の人たちは、悪い印象は無く、ゲルダは何の懸念も無かった。しかし他の人はどうだろうかと、少し心配になるが、以外にも皆友好的である。

 ゲルダは、イワノフが操っているのが分かった。しかし、皆、不安そうだったはずである。大勢を操り、ゲルダはイワノフが疲弊していると感じた。

「イワノフ、大丈夫かしら」

 ゲルダは思わず、アイザックに懸念を言った。

「そうだね、ここが彼の一世一代の頑張りどころの様だな」

 アイザックはゲルダの懸念にも、どこ吹く風の答えようで、彼女は思わず吹き出してしまった。

「いやだ、アイザックったら。彼がオーバーフローしちゃったら、どうなるの。真剣に考えてね。パニックになったら、人は何をし出すか分からないのよ」

 と教えたつもりが、アイザックは以外にも真剣な顔をして、

「それは良く分かっているよ」

 と答えた。

 その様子にゲルダは、少し違和感があったが、その時は何か対処してくれるのだろうと思うのだった。


 いよいよ宇宙船が到着すると、アイザックはゲルダを連れて、ムールと言う人の案内で宇宙船内を見物した。ゲルダには訳の分からない言葉で話し合っている。アイザックは共通言語どころか、すでに第7銀河の言葉もマスターしていた。ゲルダはアイザックの理解したことを感じて、間接的に理解していた。楽しいひと時だった。

 その内に皆が乗船となり、荷物を運んだり、部屋を割り当てたり慌ただしく過ごしたが、1日で到着では無かっただろうか。ゲルダは、疑問をアイザックに言ってみた。アイザックは、

「敵の銀河系の奴が来るらしい。用心に一般人は船の奥に待機する。戦闘が始まったら、さすがのイワノフもお手上げだろうからね」

「まあ怖い、どうなるの。私達」

「心配いらないよ。さっき俺も船のビームの撃ち方を習ったから。きっと敵は撃ち落とすからね」

「まあ、アイザックったら、そんなのやった事ないでしょ」

「やったことは無いけど、やった事のある人に教えてもらったからね。心配しないで。ゲルダには今まで黙っていたけど、俺もテレパシー能力があるんだ。第7銀河の人たちは、地球人と相性がいいね。彼らの考えも分かって来たから」

「うっそう。あたしは全然分からないわよ。あなた相当強い能力ね。でも、隠しておきたかったのは解かるわ。この能力を持っている人は皆そうよ。出来るなら知られたくないわね。あたしの一家は皆に知られてしまったから、仕方ないけど。あなたは出来るだけ隠しておいた方が良いと思うわ。知られてしまったら、あなたのリーダーシップには返って邪魔な能力だわ」

「ゲルダ、君は賢いね」

 アイザックはにっこり笑った。ゲルダは彼が自分の気持ちを分かってくれていると思うと、嬉しかった。

 他の銀河の宇宙船の中ではあるが、二人は久しぶりに幸せなひと時を過ごした。しかしそれは、長くは続かなかった。敵の現れない航路を選んだつもりだったのに、二人が部屋で休んでいると、信じられないような強い衝撃の揺れが起こった。

 アイザックは飛び起きると、

「ゲルダ、心配しないでここにじっとしていてね。俺は彼らを手伝うから、部屋の外が騒がしくなっても、ドアは開けないでね。危ないから俺が戻る迄、外に出ないでね」

 そう言ってアイザックはゲルダを部屋に残して行ってしまった。少し不安だったが、ゲルダは、彼の能力が分かっていたので信じて待っていた。

 アイザックの予想通り、外が騒がしくなった。きっと、イワノフの能力では抑えきれなくなったのだろう。パニックの仲間に対しては、ゲルダとしてはどうしようもない事なので、ドアは開けず、成り行きに任せていた。


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