第9話
アイザックとイワノフは、イーサン・ベルたちと一緒に、船外に出、道々案内してもらいながら、とある建築物の中に移動した。
それにしても、この建造物を作ってくれた彼らは、地球環境にしてくれ、本人達は宇宙服を着るとは、随分友好的である。アイザックこと龍昂はその為、彼等はかなり信頼できると思った。会議室らしき部屋に着くと、改めてお互いに自己紹介をする事となった。大勢宇宙人は居たが、主だった人数人をとりあえず紹介された。アイザックこと龍昂は彼の正面に座る事となった、ムールと名乗った人に特に親しみを感じた。初めて会った宇宙人なのに、奇妙な事だと感じた。おそらく彼は笑いかけているのだろう。
宇宙人のトップの、ルーンと言う人が、状況説明と言う事で話し始めた。おそらく共通言語を話しているらしく、それを地球の言語に翻訳した音声が流れ出した。一応地球の共通言語の英語になっているが、他の言語も追々追加していくそうだ。
ルーンの説明は初めて聞く話で、銀河間の戦争状況を、アイザックこと龍昂は興味深く聞いていた。何故地球人にこれほど親切にするのかは、彼の思い至った事は、地球人の、特に新人類を味方につけたいのだろうと言う事だ。頭脳はこの宇宙人に比べると、さほど優れてはいないのだが、新人類の能力は敵味方共興味があるらしい。
そして、話が一段落すると、前に座っていたムールは、アイザックに、
「さっきの宇宙船の着陸、宇宙船の着陸と言うより、君があの場所に船をのっけただろう」
と言い出した。
「そんな戯言、どうして思いついたのかな」
アイザックこと龍昂が恍けると、
「ふん、失速して船は動いては居なかったぞ。それにふわりと降りて来た。あんな事ありえないが、君に会って、物凄いパワーを感じたな。それで君がやったと確信した。恍けても無駄だ。外で見ていた連中は皆、君がやったと分かっている。俺らはそんな能力は無いが、パワーは感じることが出来る。すさまじい奴が来て、皆喜んでいる。君達の表現で言うと、『百人力』ってところだな」
龍昂はムールが地球人の言葉を、それも日本語の単語をしゃべったのでギョッとした。ひょっとして、俺の正体がばれているのだろうか。少し狼狽すると、ベルが、
「ははは、私は子供の頃は日本に居て、少し日本語が話せる。彼等に地球のいろんな国の言葉を時々教えているからね。それにしても、君も日本語を知っている様だね。ヨーロッパから出たことが無いと思っていたが」
等と言われ、アイザックこと龍昂は胸をなで下ろしたが、その様子に、皆に奇妙に思われてしまったようだ。
平静を取り戻しても、又ムールに爆弾宣言をされ、再びギョッとしてしまった。
「へえ、ヨーロッパ育ちなのか、東洋人なのに」
どうやら、彼等には龍昂の技は効いていない。それはそうだろう。アイザック本人に会ったことは無いのだから。と言う事は、ベルはきっと会ったことが有ると思える。自己紹介の時から名前を聞いて納得していた様子なのだった。
アイザックこと龍昂は、何だか頭痛がして来た。ベルが、
「ムールは人種の事、あまり理解して居ないようだね。ところで、メイソン、顔色が悪いが、どうしたのかな」
心配気に言うと、ルーンが思い至ったように、
「そりゃそうかも知れないな。ああいう大技を使えば、疲労するんじゃあないかな。敵方にも、超能力の使える銀河もあるが、しょっちゅう技を使えるものでは無いらしかったな。それで、そいつらから逃げ出せる場合もあると言う事だった」
等と話し出した。
ルーンの話のお蔭で、お疲れのようだから今日はここまで、と言う事で、会議は終った。
帰りは自分で帰れるから、と案内は辞退し、アイザックとイワノフは、二人だけで宇宙船へ戻る事にした。途中、イワノフは、
「危なかったな」
と呟いた。戻ればテレパシー能力者も多いので、その一言だけだった。
その後、手始めにイワノフとアイザックに共通言語を教え、その後二人が他の皆に教えると言う事になった。まだ、他の皆は地球外の人達に慣れてはいないので、言葉が分かるようになるまでは、あまり接触はしない事となった。随分気を使う事である。ひょっとすると、最初の狼狽ぶりを感づいているのかもしれない。とアイザックこと龍昂は思っていた。彼としても技が聞いていない宇宙人と接触したら、仲間にばれない保証はないと感じるので、良かったと言えるところである。
毎日数時間、イワノフとアイザックは共通言語を習いに、地球外の人に会いに行った。彼らは第7銀河系の人と言われており、地球の自分たちの事は、第3銀河人とひとくくりに言われているのが分かった。
最初は共通言語を彼等が話し、翻訳機を使い地球人の言葉に訳しながら教えてもらっていた。だが最近、彼ら第7銀河の言葉を共通言語に訳す翻訳機の出来ばえも、この際確かめようと、それを持って来ていた。つまり翻訳機を2種類使い出した。そう言う事で、彼等は第7銀河の言葉をアイザック達相手に、しゃべり出していた。
ある日、イワノフが、リーダーとしての用事で行かれないと言い出し、アイザック一人で彼らと会う事となった。
藪蛇のようではあるが、アイザックこと龍昂はムールにどうしても聞いてみたくなった事がある。
最初の日の事である。本来、第3銀河の内々の人種の事がどうして知れているのか、不思議でならない。イワノフがいては止められると思っていたので、良い機会だ。
アイザックが会議室に一人で行ってみると、ムールも一人で待っていた。どうやら今日は、リーダー達の会議だったらしい。
ムールは、
「今日は下っ端抜きの会議らしいねえ。今後の事でも話しているんだろう。最近、第7銀河に敵がやって来て、戦闘が始まっているんだ。それで、今までの様にここに関わる余裕が無いんだ。あ、俺は下っ端だから。まだ、出番は無い。心配しなくてもまだここに残るからね」
「そうなんですか。それじゃあ、上官は第7銀河に戻るって事ですか」
「そうなんだ。配置転換って事だな。ふむふむ、ちゃんと訳せているね。おれらだけだから、ぶっちゃけた話が訳せるか、試してみないか」
「良いアイデアですねえ。どれだけ訳せるか試してみますか」
と言う事になり、普段使わない単語をしゃべって、ふざけて遊んでいるうちに、アイザックこと龍昂は、あの疑問を聞いてみた。
「所で、ムールは第3銀河人の人種が分かるのですか」
「うん。普通は人種とか区別できない奴の方が多いんだが、俺はちょっと別銀河の味方だった人の中に親しくしていた人が居てね。彼らは、戦争なんかより他の銀河の人種とか文化とかに興味がある人達でね。と言うのも、彼等同じ銀河の中でも考え方の違いがあって、統率者が変わると、敵になったり味方になったりしている。だから他の銀河の人種にも興味があるらしい。第3銀河の君たちの人種の見分け方も彼から教えてもらった」
「なるほど、それで俺の特徴は東洋人だと思ったのですね」
「そうなんだ。皮膚の色や、骨格や髪の色、目の色とかね。俺の言った事、当たっているだろう」
「当たっていますよ。でも、ここだけの話なんですけど。仲間は皆、俺は西洋人のアイザックと認識しているんですよ。事情があってね。俺は催眠術が出来るので。これ、訳せてますかねえ」
「いや、エラーだ。どういう意味か詳しく頼む。登録しよう」
「すみませんが、登録はちょっと待ってください。イワノフとも相談したいので」
「なんだ、なんだ、オフレコってか」
「あ。オフレコは入っているんですね。それなら話が早い。俺が東洋人と言うのは、味方の仲間に言わないで欲しいのです。味方のはずなのに、変に思われるでしょうけど。で、オフレコで事情を説明しますね」
「良いよ、興味深い話が聞けそうだし」
アイザックこと龍昂は、長い話になるがその事情を、ムールに話す事にした。話し終わると、ムールは、
「おお、そういう物凄い能力、信じられないが、信じるしか無さそうだな。しかし、大丈夫なのか。彼女との夫婦生活は。いつかはばれるぞ。彼女には打ち明けられないのか。ばれたら破局間違いなしだな」
「怖くて、とてもじゃないが打ち明けられないです」
ムールはゲルダとの仲を一番に心配し出した。龍昂は、違う銀河同士の人間でも、親友になれる事が分かった。
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