第7話

 龍昂が化けてアイザックとなって1週間ほどで、イワノフが資金調達から戻って来た。

 龍昂こと、アイザックはイワノフには見破られるかもしれないが、成り行きに任せる事にして、一応ブロックだけはしておいた。

 いつものように集中して、作業していると、気が付かないうちにイワノフは側に来ていて、

「アイザック、資金は十分ある。あまり細かい修理の必要は無いぞ。それに、他の銀河に俺達の味方が居るらしい。その銀河の宇宙人の援助で、地球軍の基地が作られている。そこまで行けば、援助してくれる宇宙人の船が手に入る。賛同者からの情報だ。基地の座標の情報を貰って来た。これだ。ここまで行くことが出来れば。上等だ。まだ、マル秘だが」

 そう言って、イワノフはアイザックにマル秘情報を見せた。

「何だって、もうここまで他の銀河の奴らが迫って来ているのか」

「言っておくが、味方だ。敵はもう地球に居るし」

「アンドロイドだけじゃあないのか」

「そりゃそうだろう。どうやってアンドロイドだけで地球に来れるというのか。ここまで行くのならもう出発できるだろう。ぐずぐずしていると、又壊しに来そうだぞ」

「燃料はあるのか」

「持ってくる手筈はしているが、それを狙われそうだな」

「ちっ」

 アイザックは、それを龍昂として阻止したいところだが、そんな事をしたら化けの皮がはがれそうで、どうしようもない。思わず舌打ちをした。

 周りには仲間が揃っていたので、イワノフはしれっと、

「もう出来上がっているなら、君は、燃料の運び手を迎えに行っても良いぞ。俺らで船は死守する。だが、船は崩れてしまった事になっているんだろう。情報は漏れていないようだな。こっちには来やしまい。狙われるとしたら燃料の運搬だ。俺らが燃料を手に入れるのを阻止しにだな」

 等と言い出した。アイザックこと龍昂は、この言い様はばれているなと思った。だが、調子を合わせてくれているので、

「そうだな。俺が燃料の引き取りに行こう。それに俺には都会には野暮用がある。そろそろゲルダに婚約指輪でも買っておかないと。婚約をちゃんとして、機嫌を取らないと不味い事になりそうなんだ。都会の宝石店に行こうと思っていた所だ。引き取りの途中で買っておこう」

 事実、最近ゲルダはアイザックの所へ、あまりやって来なくなっていた。

 そのアイザックの言葉を聞いて、部下のジョンは、

「へえ、さすがにアイザックも気付いたようだな。俺らはだいぶ前から、破局かなと噂していた」

 イワノフはふふんと笑って、立ち去った。それを見送ったセバスチャンは、

「イワノフ、戻って来てからちょっと態度おかしくないか。アンドロイドに変わって無いだろうな」

 と言い出した。ジョンは、

「変わりようが逆じゃないか。あほらしい事言うな。態度が丸くなっているんだ。資金集めにうろついている間に、彼女でも出来たんじゃあないか」

「そうだな。そんな感じがする」

 と皆で結論付けた。

 アイザックは自分の正体のせいだと分かっていたので、そうだなと相槌だけ打っておいた。


 燃料の受け取りに行こうと、アイザックはひとり牽引車に乗り込んでいると、ジョンがついて行こうと言うので、

「大げさにしていると、感づかれそうだ。一人で行って来る。野暮用もあるし」

 と言って断った。アイザックはいざとなったら、一人の方が動きやすいと思った。犠牲者を出すのは、こりごりだ。

 鄙びた田舎の駅まで、燃料は何の変哲もないコンテナで運ばれてきていて、駅の係員が、牽引車にコンテナを取り付けてくれた。代金を払おうとすると、もう支払い済みと言われた。しかし行きがけ、イワノフに燃料代金と称して多額の現金を渡されていた。

 アイザックは指輪の代金をくれたのかなと思った。アイザック本人の貯えがかなりあるのに、イワノフは随分気前が良いことである。実の本人だったら、こんな事はしないだろうと思える。

 帰り道にも敵は現れなかった。つけられてはいないかと気になった。工場までつけられては困る。アイザックは時間をかけて移動し、様子を窺いながら戻った。

 少し予定時間を過ぎていたので、工場近くになると、仲間が迎えに来ていて、心配させてしまっていた。アイザックとして皆に気を使われていた。

 皆に燃料のセットは任せて、ゲルダの家の方に行きかけると、ゲルダが珍しく工場に来ていた。

 アイザックは思わず微笑んだ。

「あれ、珍しく来ていたんだね。ばれちまったかな。ゲルダには内緒ごとは無理か」

 ゲルダも、にっこりして、

「もう、皆が指輪はまだかってばかり考えているから。こっそり買いに行かないからよ。あたしんちに来て。ママが御馳走作っているわ」

「わあ、ゲルダのママの手料理、久しぶりだな」

「もう、来れば何時だって食べさせてくれるのに。アイザックったら仕事のしすぎだって、ママも心配していたのよ。パパやママが邪魔したらダメって言うから、あたし、しばらく行かなかったの。この前色々、言っても仕方ないことあなたに言って、ママに叱られちゃったの。ゴメンね、アイザック」

「いいよ、ゲルダは皆の事、よく考えてくれているんだから」

 ゲルダの家の前の公園まで来て、アイザックは、

「もうやっておこう、我慢できないや。あ、そうだどうやるんだったかな」

「あたしもよ。はやく欲しかったの」

 アイザックは、跪くと、かなり張り込んだ指輪を出し、

「ゲルダ、俺と結婚してくれますか」

 と言う。

 ゲルダは、

「ええ、喜んで」

 と答る。

 そこでアイザックは、ゲルダに手を出すように促し、彼女の左手薬指に婚約指輪をはめた。そして立ち上がり、ゲルダを抱きしめた。しばらくそのままでいたが、ゲルダが顔を上げたので、キスしてもう一度抱きしめた。もしかすると正体が分かるかもしれないと思って、覚悟していたが、ゲルダは分からないようだった。龍昂は何だか自分の中に、アイザックも存在しているのかもしれないと思えた。

 それから、ゲルダの両親と和やかに夕食をとる事となった。又幸せなひと時を過ごすことが出来た。だが、これはまやかしである。アイザックとなってどこまで過ごすことが出来るだろうか。

 皆を惑星に連れて行くまでは、見破られるわけにはいかない龍昂なのだった。


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