第5話

 キールについて行った所は、新人類達の組織の本部と言える場所だった。とある国の片田舎の廃屋的な、元は何かの工場らしかった。

 龍昂としては薄々察していた事ではあるが、本部の中心人物たちは、龍昂をキールが紹介すると、あまり良い顔をしなかった。仲間に入れるのは不味い奴と思われている。それに気付いたキールは、

「何だよ、あんたら。妙な態度だな。同じ仲間じゃあないか。えり好みするほどの余裕あるのかよ。お前ら何様だと思っているのか」

 当の本人龍昂が驚くほどの、怒りのパワーをキールが発した。おそらくショーンの従弟である龍昂を、気に入っているのだろう。

 本部の中心的人物らしい、アイザック・メイソンは考え直したようで、

「悪かったな。龍昂。お前はいつもやられた後の仕返しだったのに。だが、一部のテレパシーの出来る仲間が、お前が少し、いっちまっているタイプだと思っていたが、俺の見た所、ストレスでいっちまっていたようだな。だからみんな誤解していたみたいだ。噂じゃあなく、実際に会ってみて、どういう奴か判断すべきだって事だ。イワノフもこれで納得したんじゃあないかな」

 話しかけられた、もう一人の中心人物、ローガン・イワノフは、

「そうだな。まだ若いし、仕方が無かったろう。これからは俺達と行動を共にすれば、問題は無さそうだ。キールに世話は任せよう。キールに睨まれたら大変だ。皆も仲間として仲良くしてくれよ」

「ふん、始めからそういう態度でいれば良いものを」

 キールは従兄と同じ年齢だったはずだが、年長者にも意見の出来る中心人物の一人らしかった。

「くさくさするな。挨拶も済んだことだし、長居する気にもならないな。もう帰ろう、龍昂。ショーンと暮らして居た住処に行くぞ」

 そう言われて、龍昂はキールに連れられて、これから暮らす借家に行った。

 そこは町の片隅にある、年代物の古いアパートで、故郷の様に地震でもあれば、一発で崩れそうであるが、この辺りは地盤が安定しているから大丈夫なのだろう。築100年以上に見える、目立たない低所得者の住処である。そこに入ってみると、人心地が付いた。これからここで暮らすことになるのか、と思うと、少しほっとした。根無し草のような気分だった龍昂は、自分の居場所が出来た気がした。


 龍昂はキールから、

「お前の部屋だ。今までショーンが使っていた」

 と言われたそこに入って、ベッドに横たわってみると、おそらくショーンの匂いだろうが、身内独特の安心できる匂いがして、少し横になるつもりだったのに、いつの間にか眠り込んでしまっていた。

 目が覚めると、窓の外は真っ暗になっていた。部屋の中には古い切れかかったむき出しの蛍光灯が点いている。台所にキールの気配がしたので、行ってみると、ピザを買ってきてくれていた。

「良く寝ていたな。ショーンのベッドは寝心地が良かったのか」

 と言われて、

「何だか懐かしい感じがして、眠ってしまった。これ、俺も食べていいの」

「当たり前だろう。遠慮するな」

 龍昂は礼を言って、黙って食べた。

 キールはそんな龍昂を見ながら、

「ふうん、あいつらも言っていたけど、噂なんかあてにならないな。随分元気が無いけれど、考えたらそうだろうな。あのアンドロイド達は、お前と一家を皆殺しにしたかったようだな。おそらく、奴らにとっては一番邪魔なんだろうな。お前は。能力全部持っているんだろう。もう奴らも襲っても返り討ちになると分かったろうな。だが、一応気御付けろよ」

「なんの邪魔になるって」

「ふん、地球征服でも考えているんじゃあないか。俺らはそれには関係なく、ずらかるつもりだけどな」

「ずらかるって、何処にずらかれるんだよ」

「お前は一匹オオカミで知らないだろうが、メイソン達、お利口軍団が宇宙船を作っていて、直に出来上がる。出来たらそいつで別の星に行くんだ。新人類のおべっか使いどもを乗せて行く気だ。気に入らない奴は連れて行かない気だな。俺は行けなきゃ行けないでも構わない」

「行けなかった奴は、アンドロイドに殺されるのかな」

「殺されるというより、新人類はアンドロイドの作成材料になるだろうな。お前みたいなのは邪魔だから消したいらしいし。思い通りにならない奴もいるってとこだろうけど。因みに俺は思い通りにならないタイプだと。前に捕まったとき、検査で弾かれて殺されそうになった時、ショーン兄弟が助けに来てくれた。まあ、あいつ等とは助けたり助けられたりだったな。二人ともやられちまったけど、お前を拾って相方が出来てほっとしたぞ。でなきゃ心細くなる所だった。よろしくな、龍昂。これから助け合って暮らそうじゃないか。本部の奴らは、最近宇宙船を盾にえらそぶって来て、気に入らないんだ」

「ふうん、でもみんなそんな遠くて知らない星に、よく行く気になるな」

「それがな、予知能力のある奴が、暮らしていけると言っているんだ」

「へえ、予知能力ってホントにあるんだな。怪しいと思っていたけど」

「お前、怪しいと思うのか。なるほど」

「先の事はどう転ぶか分からない気がしていたな。予想できるとは思わなかった」

「だよな。そいつらがほら吹きでも、俺等には実際の所、分からないよな」

 ふたりで、行きたい奴が行けばいいという結論に達し、それぞれベッドに入った。


 翌日は本部で定例会議があると言われて、龍昂はまたキールと一緒に本部に行く事となった。昨日より人数は多く集まっており、龍昂は、今度はリーダーのローガン・イワノフから皆に紹介された。彼は、

「見た通りの奴だから、皆、能力のある仲間が増えたと言う事で、これからも一致団結していこう。噂はあてにはならないんだぞ」

 リーダーの言う事は絶対らしく、皆の雰囲気は良かった。だが、龍昂はイワノフも、人を支配できる能力がある事は察していた。だから皆が本当に龍昂を受け入れたのかどうかは、確信できなかった。

 今日集まった仲間は、老若男女、メンバーの大人は全員参加しているらしい。来ていないのは、龍昂の父親の様に、スパイとして敵に侵入している者だけだそうだ。

 議題は龍昂の紹介と、現在の宇宙船の作製の進歩状況だったが、どうやらアイザック・メイソンが、中心となって作成しているらしく彼が説明した。すると、その説明を特に熱心に聞いている女性に気付いた。いやでも目に付く、ハートマークで見つめる様子が可愛かった。龍昂より少し年上のようだが、死んだリツとは全く違うタイプである。見るからにアイザック一筋にぐいぐい行っている感じだ。

 龍昂には関係無い二人なのだが、彼女は見ていて好ましかった。

 会議が終わると、龍昂は彼女に話しかけずにはいられなかった。

「やあ、初めまして。あなたはアイザックの彼女か何か?」

「あら、分かるの。あたしはゲルダ。アイザックとは昔からの知り合いなの。婚約とかはまだだけど、例の惑星に着いたらその時は結婚するつもり。アイザックは今とても忙しくって、わたしに構っていられないんですって。そうよね、皆の運命が彼に掛かっているんだもの。だから私は、今は見守っているだけ。わたしに出来る事は無いんだもの。それにしても、あなた、随分と不幸事が重なっているわね。皆が色々噂していたけど、あなたのした事は、わたし、全然悪くないと思うの。わたしだって、私の家族や恋人が殺されたら、絶対仕返しするわ。倍返しか、それ以上ね」

 ゲルダの見かけによらない激しい物言いに、龍昂はギョッとしてしまった。

「あら、驚いたの?だって当然の事でしょう。それに半分以上は人間じゃあない代物でしょう。でも、皆にはその区別がつかないらしいのよ。わたしたちシェル一家には分かるけど。実を言うと、貴方に隠し事なんてできそうも無いから言っておくけど、私も家族も、人の考えている事が分かるの。テレパシー能力よ。知っている人も居てね、あまり、皆親しくしてはくれないのよ。アイザックは別だけれどね。彼はあまり小さなことに頓着しないの。今はもっと大きなことに気を取られているの。あ、それから、わたし達今日は、デートなの、会議が終わったらね。こんな日じゃあないと彼、宇宙船の事で頭がいっぱいで、わたしに構う暇が無いの。じゃあまたね」

 そう言って、ゲルダはアイザックの許へかけて行った。

 龍昂はゲルダが見かけによらず、激しい性格なのが分かった。それに、アイザック一筋なのが分かって、あの性格では自分の割り込む隙は無いと思った。

 龍昂のこの仲間内での役目は、宇宙船作成材料の調達だった。と言っても、何せ宇宙船なので、何処でも手に入るような材料ではない。早い話が、普通の人間の所有している宇宙船作成センターから非合法的に頂く役目である。最近、そういう所はズーム社が手広く手掛けていて、キールに言わせると、どうも怪しい会社だそうである。

 龍昂の初参加の際、キールは、

「いいか、このズーム社っていうのは俺らの仲間が入り込んだあげく、殺されてしまった会社だ。つまり何か訳ありっぽくて、危ない。今からは、手引き無しで行くしかない。一応見取り図は手に入ったが、その後仲間は連絡が取れないまま、シェルさん一家が死体を見つけて来た。あのシェルさん一家と言うのは、テレパシー能力があってな、彼らによると、アンドロイドもそこの会社が何処からか持って来ているそうだ。だから油断するなよ」

「シェル一家って、ゲルダさんの一家なの?」

「そうそう、お前ゲルダは止めておけよ。お前の相手に出来る範疇には無いぞ。お前よりもだいぶ上手だから」

「分かっている。怒らせたら怖そうだ」

「分かっているなら良いけど」

 そう言う事で、ズーム社管轄の倉庫に入って、材料を手に入れるつもりのキール達や龍昂である。龍昂は何だか、冷静に行動する事になってみると、少し怖気づいてしまう。これは無謀な事じゃあないかと思ってしまうが、皆行く気になっているので、彼としてもついて行くしかない。

 ズーム社の倉庫の裏手のこんもりとした山の樹々の間から、倉庫の様子を窺ってみる仲間達。付いて来た龍昂は、あまり乗り気にはなれなかった。第一、出発前に見せてもらった見取り図、一応頭の中には入ってはいるが、実際そうなっているという保証はないと思う。

 龍昂は躊躇しながら、ここはやはり彼の意見をキールに言っておくべきだと思って、

「ねえ、キール、さっきの見取り図だけど変だと思わなかった」

「どうして」

「あの図は一階しかなかったけど、そこの倉庫随分デカくないかな。2,3階はありそうじゃないか」

「あのな、倉庫って言うのは天井が高い作りなのがほとんどなんだ」

「ほとんどねえ」

「例外もあるがな」

「だから、違うんじゃあないかと思うな」

「分かっている、ぶっつけ本番で行く」

「そうだよな」

 意思の疎通を何とか図って、龍昂は皆について最後の位置で侵入した。一応隠しカメラがあるかもしれないと、その担当の者がカメラのチェックをして、無さそうなので入ってみる事にする。しかしついて行きながら、龍昂は、カメラがある事に気が付いた。何故、仲間は

 気が付かないのだろうか、不信感が募って来た。

 入ってみると、案の定、あっさり見つかっていて、撃ち合いになった。撤退だと、キールが言い、龍昂は入口を開けようとするが、びくともしない。

「キール、ロックされている」

 龍昂は、かっと熱くなって、それからは必死で待ち伏せしていた奴らを殺していった。アンドロイドと言われていたので、頭の中は冷静だった。

 龍昂は、アンドロイドを全て始末したが、その時は仲間はほとんど殺されていた。それでもキールは少し腕にかすり傷は会ったものの無事で、二人で手に入れるべき材料を見つけると、それを運ぶだけで精いっぱいで、仲間を運ぶことは出来ずに、撤退を余儀なくされた。帰り際には何処からかアンドロイドが現れて、龍昂はそいつらを始末するのに手いっぱいだった。キールと二人、必死で逃げて何とかトラックまで行き材料を乗せ終わってみると、キールが後のアンドロイドとの争いで、酷く負傷しているのに気が付いた。

「キール、こんなに酷くやられていたなんて、頑張ってくれよ。直ぐ医療班の所に連れて行くから」

「いや、この材料は急ぐんだ。俺はもう手遅れだから、先に工場にこいつを持って行け」

「何、言っているんだ。キールの手当てが先に決まっているよ」

「もう、出血が多すぎる。早く工場に行け。追手が来て届けられなくなりそうだ」

 龍昂も、追手に気付いていた。一人で対処できるか考えていた所だったので、工場に行けば、誰か仲間が助けてくれる可能性もあった。それで、工場に行く事にしたが、この判断がどういう結果になる事だろうか。

 工場に逃げ帰っていると、行きつく前に追手は何故か付いて来なくなった。それで何とか、材料を渡すことが出来、そこには丁度日向さんの親類が来ていて、キールを治してくれた。

 龍昂はほっとした。日向さんの親類と言う人は、そう言えば最後にリツを見てくれたリツの伯父さんである。彼はキールを助けた後、龍昂を見て、

「君は、あの時のリツの彼氏だろう。あのまま何処かへ行ってしまったね。もう手遅れと思っていたんだろうが、赤ちゃんは生きていたよ。リツの従兄の夫婦が育てると言って引き取った。リツがレインと言って話しかけていたのは、皆知っていたから、その名前にして、彼らの息子として出生届を出した。君は育てられないと思ってね。どこかへ行ってしまったし。そう言う事だから一応知らせておくよ」

「そうだったのですか。じゃあ、生きていたのか。あの子は。すみません。彼らに俺がお願いしますと言っていたと機会があれば話して下さい」

 龍昂はリツが楽しみにしていた子をほったらかしてしまい、悪かったと思ったが、後の祭りである。それに、自分よりその大人の夫婦の方が、レインの親にふさわしい気がした。

「そう伝えよう。どっち道、君に子育ては無理のようだし、結果は同じで、彼らが育てる事になりそうだったしね。あの子の事は、心配いらないから、君は君で新しい人生を生きてくれ」

 龍昂は、何だか、リツと同じような事を言われ、リツの伯父さんと別れた。

 キールに、

「お前、見かけによらない奴だったんだな、子持ちだったのか」

 とからかわれながら、住処に戻る事となった。

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