第4話

 龍昂がとぼとぼと、伯父さんの家に帰ると、従兄のショーンが帰って来ていた。龍昂を見て、

「もう、やっちまったのか」

 と驚いて言った。龍昂は、ローリーの目玉をショーンに渡し、

「もうしない。パパも死んだし」

 そう言って、自分のベッドにもぐりこんだ。

 伯父さんがショーンに、

「龍壱さんが死んだのか。彼の侵入していたアジトの奴らだったのか」

 と話す声が聞こえた。

 後で聞いた話によると、そこはヨーロッパ人の、敵対グループのトップのアジトだったそうだ。龍昂がそこを壊滅させたのだが、少年がする事では無かったと言える。

 伯父さんたちは褒めもしかりもしなかったし、龍昂も、褒められたくは無かった。 

 他の新人類もそれを知る事となったが、龍昂は仲間達にも恐れられる存在となったらしかった。


 龍昂は元気なくしばらく過ごしていた。3年ほど過ぎ父親の話を忘れた頃に、聖マリア病院の一画に日向一家が引っ越してきた。

 そして、龍昂の通っていた学校に日向リツは転校してきた。学年はこの辺では龍昂と同じ学年の歳周りになるそうで、龍昂はすっかり有頂天になった。

 それからは龍昂はリツの友達兼護衛で、毎日の送り迎えやら、何やらでリツとリツのママとのお出かけにも付いて行き、伯父さんには、

「日向さんちで暮らすか?」

 と呆れて言われたが、冗談なのに、

「それは、日向さんの迷惑になるから言えない」

 と真面目に答える龍昂だった。


 大きくなるにつれ、龍昂は自分が仲間の新人類達にも、煙たがられる存在なのに気付いていた。伯父さんやショーンが龍昂が原因じゃあないし、敵の中心人物だって消したのに、と文句を言っていたが、パパが「妙な奴になった」と言った事が事実なのだろうと思っていた。

 龍昂は、病院のアルバイトで稼いで、中古のバイクを買った。

 日々、後ろにリツを乗せて学校に通い、高校も、もうすぐ卒業となったころの事である。


 暫く平和だったが、人間達の敵対グループが、大きくなり大人たちは又、小競り合いを始めだした。従兄のショーンは大学を辞めて、活動のグループに入っていた。

 龍昂はそれにはかかわらず、ひたすらリツとのデートの日々だった。


 ある日リツに大事な話があると言われ、龍昂はリツの家にお邪魔すると、リツが自分の部屋に招き入れ、

「あのね、龍ちゃん。赤ちゃんが出来たみたいなの。産んで良いでしょ。予定日は卒業してからなんだもの。二人で育てていけるよね。きっと」

「そうなのか、最近リツちゃんの体調が違う気がしていたんだ。凄いねリツちゃん。二人で暮らせるよね。卒業したら結婚しよう。おじさん達きっと許してくれるよね」

 龍昂が喜んで言うと、

「そうしてくれるの。良かった。パパやママもきっと許してくれると思うわ。パパ達が帰ってくるまで今日はここに居てね」

 龍昂は、自分に家族が出来る。新しく家庭を作って行くんだと、希望に胸を膨らませた。

 それからは、以前伯父のジャックが冗談で言っていたように、リツの部屋でずっと暮らす許しが、リツの両親からもらえた。一日中、リツとお腹の子の護衛である。リツはお腹の子をレインちゃんと呼び、日々話しかけている。

 龍昂にとっては毎日が夢のような日々であり、後日思い返せば、夢だったのかもしれないと感じるのだった。


 新人類と人間との争いが、大人たちには過激になって来る日々だった。

 日向家は病院を開院し、彼等の能力を生かした治療を始めていた。日向家は代々、癒し能力と言う並外れた治療方法が出来た。はっきり言って、死んでいない限り助けることが出来た。助からないのは、脳と、心臓の両方のダメージが酷い場合である。その能力で多くの新人類は助かっていた。

 リツにもその能力は備わっており、妊娠中は控えているが、出産後は父親の病院の医師として、働くことが決まっており、龍昂は彼女の護衛担当だった。リツの能力は日向一族の中でも秀でているそうである。

 リツの父親によると、その原因は龍昂であり、彼との愛の日々がリツの能力を秀でたものとしたそうである。そう言う訳で龍昂は、リツの父親にリツの婿として、日向家に来てくれと言われた。

 龍昂としては万々歳の展開である。何だか幸せ過ぎて不安になる時もあった。後から考えると、そういう不安は龍昂の能力でもあった。


 卒業まであと数日、リツは臨月になり、予定日間近の日の事である。その日は、伯父の農家のジャガイモの収穫日であり、収穫日は龍昂としても今まで世話になっているので、体力の必要な作業でもあるし、手伝いに行っていた。

 ショーンは最近争いごとにはまっていて、留守の事が多くなっていた。龍昂としては、父親に言われた事を守って最近は関わらないようにしていた。龍昂は、ショーンも深入りしない方が良いのではと思っていた。しかし所詮、年上の男がやっている事で、龍昂の意見する事ではなく、彼としては伯父さんの手伝いをするしかなかった。

 収穫が終わり、二人で一休みしていると、ショーンがのこのこやって来た。龍昂は、

「グッドタイミングでお帰りだね、ショーン。もう終わったよ」

「へえ、はかどっているな。前は日が暮れるまでに片付くことなど、無かったけどな。まだ昼過ぎじゃあないか。龍昂は2,3人分位の働きをするみたいだな」

 伯父さんは、

「本人に言わせると、これでもテレっと手伝っているんだそうだ。お前が来たら変わろうと思っていたんだとよ。ショーンには道具の片づけ位してもらおう。龍昂は帰っていいよ。半日以上リツちゃんと合わないと、具合が悪くなるんだろう」

「そうそう、段々気分が悪くなってきているんだ。じゃあ、伯父さん。ショーン、またな」

 龍昂はそう別れを告げ、病院の方へ行きかけると、ぞくっと不吉な感じがした。慌てて病院へ走って行った。

 それを見ていた伯父さん達は、異変を察した。彼らは車で追いかける事にした。車でも、龍昂に追いつくことは出来なかった。病院に着くと、普通の人間達が逃げて行く所だった。ショーンは、

「病院を襲うなんて、奴らも悪魔に魂を売ったんだろうな」 

 と、言いながら中の様子を見に入ろうとすると、龍昂が血まみれのリツを抱えて出て来た。

「何てことだ。聖マリアに連れて行こう」

 ジャックは叫び、ショーンは慌てて運転席に戻った。必死で急いでリツを運び、龍昂とリツを病院に連れて行ったショーンは、龍昂に、

「リツさんに付いていてやれ、敵は俺らが討ちに行く」

 そう言って、父親と共に逃げて行った奴らを追った。

 龍昂は従兄の言葉を後ろに聞きながら、知った顔のスタッフにリツを託した。病院内は大騒ぎになった。みんな必死でリツの治療をしてくれていた。だが龍昂には、もう手遅れだろうと分っていた。車で病院に行く途中、リツは気が付き、龍昂に、

「先に天国に行くわ。レインちゃんと待っているけど、あなたはずっと生きてね。そして、誰かほかの人をまた、あたしを愛したように愛してあげて。きっとよ。他の人を幸せにしてあげてね。そして、お爺さんになったら、その時は、あたしの所に来てちょうだい。ずっと後で良いから」

 そう言って目を閉じた。

 ぼうっとスタッフの喧騒を眺めていたが、手術室に入ってしまったので、自分の役は終ったのだと悟った龍昂は、とぼとぼ病院を後にした。


 それからどうしていたのか分からないまま、ふと気が付いて、駅の掲示版を見た。田舎の駅に何故か居た。時刻は、あの日から6日後の朝7時だった。

 今までどう過ごしていたのか考えると、折り重なっている伯父さんやショーンの遺体を見た事を思い出した。

 たぶん、また敵討ちをしたらしい。伯父さん達の遺体は、ほったらかしてしまったようである。ここが何処かは分からないが、どうでも良かった。すべてを失ったのだから。

 だが、「誰か他の人を愛してあげて」死ぬ間際のリツの言葉を思い出していた。


 駅のベンチにしばらく座っていると、誰かが、

「おい、そろそろ列車が来るぞ。ホームに行こう」

 と、声を掛けて来た。見上げると、知らない男がこっちを見ている。

「俺に言ったのか。お前誰?」

 と言うと、

「何だ。まるで正気に戻ったような言い草だな。そう言う事なのかな。俺はショーンの幼馴染のキール・テイラーだ。前にも名乗ったんだけどな。今から俺とショーンの入っているグループの本拠地に行くんだ。お前も入れるためにな。この話も何度もしたけどな」

「へえ、そうなんだ」

 初めて聞いた話の様な気がするが、彼は嘘を言っていない様である。龍昂は自分の居場所はもう無いので、彼について行くことにした。キールは、

「憶えていないのか。二人で敵のアジトに行ったじゃあないか。一緒に奴らを片付けたのも、覚えてないのか」

 と言うので、

「さっき、駅のベンチに座っているのが分かった感じ」

 と答えた。

「そういうの病気と違うか」

 キールに言われて、龍昂は首を傾げた。

「かっとなったら、記憶が無くなる」

「そりゃあ、もしかしたら病院に行く必要が有りそうなのと違うか。連れて行くのまずいかなあ」

 キールを悩ます事となったようである。龍昂は、

「親父が死ぬ前、俺を見て『変な奴になった』と言っていたからな。きっと人殺しの面だったんだろうな」

「いやいや、お前分らなかったのか。まあ、やり出すとぶっ飛んでいるみたいだったからな。最近分かった事だけど、俺等を襲うのは、人間じゃあないぞ。いや、少しは人間も交じっているけど。どうやら、この地球以外にも頭のいい生き物が居るんだろうな。そいつらが、人間そっくりの、アンドロイドって奴をこっちに送って来て、俺等、新人類を襲っているんだ。考えてみろ、新人類相手に人間が互角か、それ以上に戦えると思うか。それで、変だと思った仲間の医者が、奴らの死体を解剖して調べてみたんだ。敵は7対3ぐらいの割合で人間じゃあなくなっている。お前には人を操れる能力があるだろう。最近効かなくなっていると思っているだろうが、生きていない者には、催眠術は効かないんだ。だから、人殺しはほとんどしていないと思え。神経やられる必要は無いんだ」

「そうなのか。でも三分の一位は殺しているんだろう」

「いや、お前を襲おうと思う物好きは、人間には居ないな。お前の相手はほとんどアンドロイドだ。心配するな。まあ、ちょっと見たぐらいじゃあ、見分けは付かないが」

 龍昂はそれを聞いて、少しほっとした。だが敵の内の30%は人間だそうだから、成り行きでこの男について行っているが、あまり関わりたくはなかった。

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