第33話 枯れ木坂

 フレデリック様の案内でクレコーリル高原に到着した。乗り物はこの先使えないので魔物除けを設置して徒歩で探索するしかない。オスカー君は数日分の物資を背負い移動を開始、私も落ち葉に足を取られないよう注意しながら追いかけた。


 木々は枯れているにもかかわらず、辺り一面に落ち葉が堆積している。

 不自然極まりない。



 妖精の居場所は情報が少なく、妖精の姿に関する情報も曖昧で、目撃報告されている場所は広範囲に渡っている。作戦会議を開いて議論しても決まりそうもなかった。


「目撃情報が多い枯れ木坂って場所から探索しましょうか?」

「そうですね、僕も賛成です。枯れ木坂から禿山方向に進むのはどうでしょう」

「わかったわ」

「そうなると沢に沿って進む必要があります。私の見立てでは今晩は野営になりますが?」

「野営するのね……この辺り落ち着かないというか、気味悪いよね」


 私は高原と聞いて前世の記憶にあるリゾート施設やホテル等を予想してたのに、現物は幽霊が出そうなくらい霧深い秘境だった。人っ子一人いないし、組合員などの冒険家の姿さえなかった。


「ここって、なんで人いないの?」

「先代の魔王が焼き払って魔素にまみれたって言伝えがありますね。それに、良い噂は聞かないですから」

「まあ目的に影響なさそうだし、私はカーラ様に任せるよ。それては見回り行って来る」


 ビエレッテは見張りに立ち、フレデリック様は野営できる場所を思案している。


「フレデリック、野営するなら背面が崖とか洞窟ってないかな?」

「残念ながら、この辺りは丘陵地帯で崖はないし、洞窟、竪穴は井戸くらいかな。寝泊まりは無理だね」

「そうなると丘周辺で見晴らしのいい位置くらいか」

「見晴らしねえ。その基準で考えると、どこでも良いと言えそうだけど」


 こうして議論していてもらちが明かない。私が決めないと。


「沢に沿って進むなら。沢近くで平坦な場所ってないですか」

「私の知っている場所で該当する更地がある。そこで一泊しましょう」

「お願いしますね。フレデリック様」


 霧は深くなるばかりで、妖精探しとか無理じゃないかと思ってしまう。私は気怠さを振りはらい、トボトボと後をついていく。


 幽霊でも出そうだよ。



 更地に着いたのだが、霧が多くてどこで寝ても一緒のような感じがしてくる。霧の薄いところから木々が急に見えると魔物が出たのかとビクビクしてしまう。


 ここは既に禿山の裾野で、枯れ木坂だった。



 夕食はビエレッテが持ち込んだ食材を調理して、落ち着かなさからテンション高めな食事会となった。ムードメーカーなビエレッテがいてよかった。


 夕食後は双子が最初に見張りを担当して、他のメンバーは焚火前で談笑している。


「そういえば、オスカー。封印の指輪の数が減ってないか?」

「ついに一個のところまで来たよ。長かった」


 封印の指輪? なんだろう。


「昔は指輪を外すと魔法暴走したかと思えば、場所など関係なく倒れて大変だったからな……」

「何度か屋敷まで運んでもらったよね。フレデリックの魔法操作は改善したの?」

「全然だめだな。身体強化さえできないよ」

「お二人は病気か何かなの?」

「カーラ様、二人のは獣騎士の呪いだね」


 ビエレッテが簡単に説明してくれたことによると、西辺境伯に伝わる獣騎士の伝承があるという。エバートの再誕により、獣騎士の呪いは解かれるという意味不明の伝承だった。ビエレッテがによると噂話の域らしい。


「両辺境伯家ってエバートと何か関係があるの?」

「エバートには剣と守護といった騎士仲間がいたって話だけど、剣といわれるのが我々辺境伯家の祖先だよ。私の家は獅子でオスカーの家は熊、それを括って獣騎士と呼ぶんだって」

「僕の家ではその伝承は伝わってないよ。単に熊伯だし」


 エレーンプロックス家と両辺境伯に接点があったのかもしれないと思うとロマンを感じてしまった。

 単純ね私って。



 私の強運が縁ある人を引き付けるのか、モザイカの言うところの約定による強制力なのか、私には判断できない。


「しかし、辺境伯家の直系は大変だ。オスカーは底の抜けた水瓶みずがめ、フレデリックは水源に繋がらない水道。本当に面白いよ」

「なんの話?」

「僕は魔力が一気に流れて枯渇するし、フレデリックは魔法が使えない。戦力外ってこと」

「昔から呪いに違いないと私は思ってるけどね。魔力量が多いほど顕著なのはつらいね」

「まあ、二人とも頑張りたまえ。アハハハハ!」


 二人はビエレッテを睨みつけている。ビエレッテは全く気にせず剣の素振りを始めた。

 私も呪いの話があるので、他人事ではない。



 日が暮れると巨大な魔犬の襲撃が始まり、途切れてはまた現れる波状攻撃が始まった。神経の磨り減る戦闘を余儀なくされ、交代で眠ることになる。


「姫様、犬を退治してきますね」

「霧が深いから深追いしないのよ」

「はいっ! まかせてください」


 返事しながら目の前で魔犬が成敗されていた。魔犬といっても水牛よりも大きいが、あまり強敵ではなさそうで一安心した。


 私は死体を見分しながら考える。デカくても犬、可愛くもなし、当然モフモフしてない。

 なんだかね……。


 私は寝るつもりで目を瞑っていた。

 それなのに魔物の足音や絶叫と断末魔の声で眠れそうになかった。


「カーラ様、眠れませんか?」

「犬がちょっとね」

「うるさく騒がしいですしね。遠吠えとか攻撃的に吠えますから」


 私はオスカー様の右中指の指輪に目がいってしまう。


「オスカー様は指輪を取るとどうなるの?」

「魔力枯渇して失神します」

「それでは……魔法使えないわね」

「これでも、改善してますが先は見えないですね」


 少しひきつるように笑うオスカー君に少しでも勇気を分けてあげられたらと考えてしまう。



 私の勇気の総量は少ないけど。

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