第32話 黄金のライオン

 次の目的地は西のバルニエバルド辺境伯の所領にあるクレコーリル高原で、またしても妖精の涙を採取するクエストだった。今回の対象は枯葉の妖精エーベルと呼ばれているらしい。オスカー君の提案からバルニエバルド辺境伯家で情報収集することにした。


 こちらの辺境伯は獅子伯と呼ばれ、東西でクマとライオンなのである。


 今回の出発は夜逃げスタートではなく堂々と出立した。西辺境伯領は少し距離が近く、4日ほどの行程になるという。当然、移動は牛荷車と従者二人は騎乗して追従することになる。


 ソフィーと水龍は池に沈めてきたので今回は居ない。

 しっかり確認したから大丈夫。



 道中は大きな遅れもなく和やかに進むことができた。旅の景色はこちらも綺麗で、初めてみる間欠泉を遠くから眺めたり、青々とした穀倉地帯を抜けたりして楽しめた。


 私は旅が好きだということを自覚してしまった。

 旅は良い。

 いつか好きな人と旅したい。




 獅子伯領に入ると魔物が多くなり、時々襲撃を受けるようになる。とはいえ、戦力的には過剰なので、双子とビエレッテのローテーションにより討伐していた。


「魔物は鳥と蛇が多いわね。どちらかといえば醜悪な姿だから見つけたら即撃破でお願い」

「承知した。両方一度に出てくると混乱しやすいから。まず足元注意して」

「馬や牛は大丈夫なの。魔物に狙われない?」

「ああ、問題ない。先に我々が狙われるからね。アハハハハ!」

「あまりうれしい話ではないわ」


 時々蛇が足元の藪から出てきては肝を冷やすパターンが多かった。鳥は黒くて見分けやすいので、エリシャが飛んでくる前に焼き鳥にしていた。不味そうだけど。


 しばらく道沿いを進んでいると寒村が見えてくる。簡易砦は半壊していて荒れているのが遠目からでもわかる。さらに近づくと村のいたる所で魔物が暴れまわっていて、村人は魔物の襲撃を受けていた。


 私は躊躇せず討伐の指令を出す。


「突入する。スキリアだけが私とくるのだな?」

「そうしてもらえると助かるよ。スキリアもお願いね」


 スキリアはコクリと頷くと走り出し、ビエレッテがそれを追うように全速で駆け出していく。徒歩であるのにスキリアの移動速度は異常に早い。空飛んだり滑空したり風魔法なのだろうか。


「しかし、早いな。スキリアがどうやって加速するのか知りたいぐらいだ」

「たぶん、喋らないから判明しないと思うよ」

「それは残念だな」


 大声でしゃべるビエレッテ。余裕でアルマジロのような魔物を蹴散らしていた。

 スキリアはビエレッテの打ち漏らした魔物を退治している。


 村の中に突入した私たちは大きな広場で戦う黄色いライオンを見つけた。

 子供達を庇っているようで、明らかに本来の実力が出せていない。


「全員であそこまで行くよ」

「はいっ!」


 私は指示して広場に突入した。広場に面した家の前には簡易バリケードが設置され、村人は家に避難しているようだ。取り残された子供たちが中央に孤立したのだろう。


 その子たちを守りながら戦う少年は黄金色の髪を腰まで伸ばして先端で結っていた。


「子供たちを助けるわよ」


 ビエレッテが魔物を蹴散らして道を作り、双子がさらに道幅を広げる。

 私と他二名は開けた道を用心して進むだけだ。


 金髪少年は苦戦している。手に持つ剣は湾曲した刀剣で、スピードタイプなのか手数が多い印象である。ただ、一撃が軽く私と同じようにダメージを与えられない。


「オスカー!」


 金髪少年が叫ぶとオスカー君が目を見張る。


「フレデリックなのか?」

「助かったよ。守り切れるか不安になっていたところだ」

「話はあとだ」


 どうやら知り合いのようだ。西辺境伯家の次男がフレデリックだった気がする。

 例によって、うろ覚えだ……。


 魔物はほどなくして一掃される。子供たちは村はずれで遊んでいて逃げ遅れたようで、駆け付けたフレデリックに助けられたようだ。子供は無事で、既に家に帰っている。


 村長から感謝されたが、飲食の招待を断って西辺境伯家に向かうことにした。


 村を出て休憩に適した空き地があったので、休憩も兼ねて一度会話することにした。少年はバルニエバルド辺境伯家のフレデリックと名乗り、私の予想は的中した。また、フレデリック様は熊伯のところで修行していた時にオスカー君と友人になったと言っていた。


「カーラ様、今後ともよろしくお願いします。いずれお目にかかりたいと思っていましたので、ここで会えたことは神のお導きに違いありません」

「こちらこそ、よろしくお願いしますわ。フレデリック様」


 明るく闊達な人のようだ。


「もしよろしければ、我が領を訪問する理由をお聞きしても?」

「伝承にある妖精の涙を探しています」

「妖精の涙、たしかエーベルだったかな妖精の?」

「はい、できれば出現する場所をお聞きしたいと思い、はるばるこの地を訪れました」

「なるほど、それなら私が案内しましょう」


 驚くほど簡単に案内役を見つけることができてしまった。どうやら、フレデリック様は屋敷に戻りたくないようで、直行することにこだわっていた。まあ、面倒な社交をするよりも妖精探しに行きたかった私と利害が一致した。



 こうして、妖精が待つクレコーリル高原に向かうことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る