第34話 仮面の女

 私たちは不気味な枯れ木を避けながら、禿山を目指して歩いている。正直にいえばお化け屋敷なみに怖い。


 風で枝が揺れると乾いた音が鳴り響き、思わず縮み上がってはキョロキョロと確認を繰り返す。心理的な圧迫はそれだけではない。道が開けたと思うと枯れ木林に突入するという、ホラー映画のような嫌がらせに私は涙する。


 しばらく進んでいると怪しい石畳の道が出現して、ビエレッテが罠を疑い調査をかってでた。

 手持無沙汰な私は道端にある怪しい石碑の存在に気づいてしまう。


 恐るおそる近寄って観察すると、石碑に枯れ木坂と書かれていた。


「フレデリック様、この道は正規の街道だったの?」

「昔は麓の町から禿山まで直通していたらしく、手入れを怠ったのか枯れ木に覆われたようです」

「そうなのね。多少なりとも歩きやすくなったから警戒しながら進みましょう」


 そういえばハリエットの言っていたことが気になってくる。獣騎士と守護勇者、それに聖女たちの関係を確認しておかなくては。思いだした時に聞く、これは忘れっぽい私に必要なこと。


 余計なことをあれこれ考えていたら、もう少しで忘れるところだった。


「ちょっと休憩するわよ」


 ビエレッテはお茶の準備をはじめ、みんな喜んで待っている。

 私はモザイカに確認。


 私は人を避けてモザイカを取り出した。

 質問内容を他者に聞かれてはならないからだ。そう、極秘なのだ。


「モザイカ、教えて頂戴」

『主様、なんでございますか?』

「獣騎士について話せる内容はあるのかしら?」

『守護勇者とは役割が異なります。主様と魂で繋がる存在です』

「なんとなく推測できたわ。私の呪いと辺境伯家の呪いは同じもの?」

『主様の呪いが影響を及ぼしています』


 予想していたことだわ。私が解呪しないと彼らの呪いは解けない。

 そして彼らが獣騎士の可能性が高い。


「守護勇者とは何者なの。精霊、人、それとも超常的な存在なの?」

『人として生まれ、この世界に選ばれしもの。これ以上は約定違反になります』

「聖女は?」

『聖女も世界の祝福を受けています』


 守護勇者、獣騎士、聖女は創造主か創造神に紐づく存在ということね。

 たぶん私も。


「聖女や教会とモザイカは敵対してるの?」

『大元は一つです。ただし、今の主様の状態では敵対に近いでしょう』

「いつの間にか在籍していたクルートとの関係かしら」

『はい、女神達の妨害の一つです』

「そもそも、女神が妨害する目的はなに?」

『クルートの手帳より推測できる情報がありません』


 待って、双子に出会ったのって女神の啓示だったはず。

 違ったかしら。


「女神の妨害って守護勇者関連でもあったの?」

「はい。何度も妨害を受けています」


 クルートとの関係、表面上は仲間でも実際は敵対しているのと変わらない。

 女神たちの妨害か……。


 時間があるときに出会いについてエリシャに聞いてみよう。

 スッキリしないこの話は。


 聖女ハリエットは苦手だけど、適切なタイミングでヒントを与えてくれる。

 モザイカよりもガードは緩い。でも腹を割って話せない。


 最悪な展開。





 質問を終えて仲間たちとお茶をする。私と敵対する勢力は多い。お茶が美味しく感じない。


 休憩を終えて禿山を目指して枯れ木坂を登っていく。

 景色は単調でほとんど変化しない。

 霧はいつ晴れるのだろうか。


「姫様、前方に人がいます」

「聖女たちかしら」

「違います。獣の臭いがします」


 獣ってなんだろう。魔物って言わなかったから獣人?

 この世界にいないはず。


「姫様、気づかれました。こっちに来ます」

「防戦の準備して」


 待ち構えていると3人の人影が現れる。霧を抜けてきたのは女が二人に男一名。


 二人は獣のような容姿、もう一人の女は白い能面のような仮面をつけている。

 これ敵対者ね。



 獣女が私たちを見て鼻を突きだし目を細める。


「おや、クルートの臭いがするわ」

「どうする?」

「私一人で大丈夫よ。貴方達は聖女を追って」


 獣たちは私をチラッと見てうなずく。仮面女だけが残って獣臭のする二人は霧に消えていった。

 この状況、戦うしかなさそうね。


「あなたは誰なの仮面の人」

「名乗ると思ったの。個人情報よ。教えるはずないでしょう」

「どこかで会ったことがある気がするけど?」

「さあどうでしょう? そうね私は餓鬼のほむらドラゲアの魔人候補エヴリンでいいわ」

「取って付けたような名前に投げやりな台詞……」


 女は手に何かを握っている。枯葉のついた蓑虫ミノムシみたいな物体だった。


「名乗ったことだし、敵対者の貴方を殺して我がものとしましょうか」

「まって、あなたも敵を捕食するの?」

「敵の能力を得るには必要な儀式よ。貴方たちはレベルアップの糧なのよ!」


 女は剣を抜き構えた。逆手にはミノムシを持ったままだ。

 何かのアイテムなのか不気味である。


 スキリアとビエレッテは女に向かっていき、エリシャは中間地点まで進み待機、オスカー君、フレデリック様は私の前で剣を抜く。


 相手の攻撃手段がわからないので変則な位置取りになっている。

 女は前に出る。



 ついに仮面の女とビエレッテが激突、打ち合っては後退を繰り返す。

 メアリーよりも基礎ができている。


 間合いの外側からスキリアが魔法攻撃を繰り出すと、仮面はミノムシで弾く。

 ビエレッテはスキリアの攻撃に合わせて剣戟を飛ばすが、曲芸のようにかわされていた。


 エリシャが設置魔法を各種展開するが効果が薄い。

 こちらの魔法と相性が悪いようだ。


「スキリア! 魔法きかない」


 スキリアも剣を作り出し近接戦闘に加わった。交互に攻撃したり、連携して同時に突き込んだりして女の攻撃を封じている。


 仮面の女は明らかに押されている。


「悔しいけど、ちょっとこちらが不利ね」


 女は回避が厳しくなりビエレッテの剣戟を被弾して、吹き飛ばされていく。受け身が取れない女は枯れ木にぶつかって、よろめきながら立ち上がる。


 ダメージはあるが致命傷には程遠い。



「よくも……。こうなれば奥の手を使う! 私は最強の魔人になる!!」

「おい、何を言ってるっ!」


 ビエレッテは怒鳴り、スキリアは女に向かって距離を詰めている。


「ホホホホ! この妖精エーベルを取り込んで深化レベルアップする」

「狂ってる」


 女は仮面をとって、手に持っていた妖精エーベルミノムシを咥えて飲み込んだ。



 私はその顔に見覚えがある。

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