第25話 噂話は唾が飛ぶ
アクエリアン・ノーツの街に戻った私たちは、念のためメフューザスが化けていたフレイアを探すことにした。変身魔法か何かを使えるので探すだけ無駄な気はしたが、予想は的中してしまい誰も知らないという。すぐに何かしてこないだろうし、このことは放置することにした。
屋敷に戻る準備をしていて、ユリアのお土産のことを思い出し家族分のプレゼントを購入した。トリステの土産よりはましだけど、あまり感心できたものではない。
その後は特に何事もなく無事屋敷に帰ることができたのは幸運だった。
屋敷に戻ると浴室でエレナに嫌というほど磨かれ、旅の疲れを流した私は部屋に戻って寛いでいた。たぶん、そのうち私が帰宅したことを知った兄か妹が押しかけてくるパターンだろう。
そして、予想通りエレナが現れた。
「フランツ様とユリア様がお見えですが如何いたしましょう?」
「追い返しても、そのうち押し入ってくるから通してちょうだい」
「はい、承知いたしました」
しばらくすると二人が連れ立って現れた。仲が好さそうでよかったよ。
私は早速土産を取り出した。
「お兄様、こちらが旅のお土産になります。古代霊廟にあったとされる古文書のレプリカです」
私がフランツ兄さんに手渡すと泣いて喜んでいる。ユリアはそれを不思議そうに見ている。まあ、女の子は興味ないよね。
「カーラありがとう。嬉しくて首を吊ってしまいそうだ!」
「フランツ兄さん物騒なこと言わないでください!!」
「すぐに読みに行っていいかな」
「遠慮せず、お部屋で読んでください。首吊りはだめですよ……」
「ああ、カーラは闇夜の天使だ。愛してるよカーラ!」
返事を待たずにフランツ兄さんは引き揚げていった。
次はユリアね。
「ユリアにはこれね、妖精珊瑚の置物よ。ベッドサイドに置いておくと美容に良いそうで、特にお肌がつやつやになるとか」
「お姉さま嬉しいです。これをお姉さまと思い、全力で抱きしめて眠りますね」
「抱きしめると壊れるわよ……」
「わたくし妖精だから大丈夫です!」
「自慢げに言われると困るわね。大事にしてね」
「はい。私にとってお宝です!」
オーバーに飛び跳ねて喜ぶユリア。
すでにお土産を抱きしめている。まあ、喜んでくれたからナデナデしてしまうよ。
「かわいいわね!」
「もっとしてください!! なでなで!!」
いきなり、ユリアは私の腰に縋りつき、質問コーナーが開催される運びになる。
結局そのまま日にちが変わる寸前まで、古代霊廟や旅のことを根掘り葉掘り質問攻めにあってしまう。
ユリアと話していると思いだすかもしれないと期待して会話したけど、ユリアのことを全く思いだせなかった。
こんなに可愛いのに、どうなってるのかしら。
翌日は勝手に安息日と決めて、適当に剣の稽古と双子たちとかけっこをして過ごした。喋らないスキリアのことは気にはなるけど、お年頃になったら変わるだろうと思うことにした。
まあ、思ってはみたものの、信じられないけど。
恒例のごろごろタイム中にモザイカよりステージアップしたことを告げられた。私はステージが上がることで、黒の端末に基礎情報が表示されるようになった。最初は立ち上がって飛び跳ねながら喜んでいたのだが、ステージとステータス相関表なるものを見つけて涙する。
「な、な、なんてこと! 最弱のカーラと呼ばれそうよ!!」
悲しいことに現ステージの最低要求ステータスを遥かに下回っていた。
私のステータスでは2ステージ下が適正となっていて、今までよく生きていたと感心する。
「ショックだけど納得の数値。しかし、私って無謀なのかな……あ! 双子たちは見えるのかな?」
さらに残念なことは守護勇者のステータスやスキルは探しまわったけど見つからなかった。
最弱で情報制限ありはつらいよ。
「ん、何か聞くことあったはずだけど、思い出せないわ。気になる」
「まあ、気にしてもね……私は、私だから」
それでもステータスが見えるほどには成長したことも事実。頑張った成果だよ。
今後どうすればいいのだろう。不安が尽きない。
「ねえ、モザイカ次はどこで行動すればいいの?」
『魔獣の森になります』
「魔の森って、この間同業者? 同陣営の人が死んだとこ?」
『いえ、別な場所です。東の辺境伯家の所領です』
「オスカー君のところね」
そうだ、オスカー君とお母様に挨拶してから魔獣の森に行きましょう。
いい考え!
オスカー君の住む場所は王都から向かって東側にあり、我が領地からは1週間くらいかかるはず。屋敷を空けるのは一ヶ月くらいかな、お父様に相談して出発しなければ。それに他の家族は心配するから黙って出発することにする。
出発準備をしているとトリステがふらりと現れた。旅の話をすると土産も持ってこなかったのに、私には東辺境伯領の特産品を買ってこいと指示がとぶ。
トリステは面倒なので従うけど。
「そういえば、あなた知っていて!」
「急に言われてもわからないわ。トリステ」
「もう、情報に弱いと損するわよ。ねえねえ、聞いてよ!」
いつものやつが始まった。もう止まらない。
「はいはい、聞くからゆっくり喋ってね」
「あのね、メアリーが修道院から抜け出したのよ。なんでもシスターに襲いかかって怪我させたそうよ。ほんと野蛮なんだからあのメス豚」
「過激な表現ね。あなたも何かされたの?」
「被害にあわなかった人の顔を見てみたい。それくらい評判は悪いわよ!」
「まあね……」
あの変質狂ぶりでは仕方ないことね。しかし、野獣を野に放つとは修道院の失態よ。
なんだか嫌な予感がする。
「あ、そうだそれとね。デボラが変なのよ。別人疑惑があるのよ! ちょっと聴いてるの!!」
「唾飛ばさないで、ちゃんと聴いてるわ。その疑惑って?」
「それがねえ、デボラの寄生虫、金魚の糞令嬢たちがいたでしょ。あれを追い払ったのよ」
「なんとなく、面倒な集団だったから、デボラが大人になっただけでは」
「……んなことはないわ! あの見栄っ張りが改心するとでも?」
「思わないわね。たしかに」
それこそ、改心していたなら別人認定だろう。
みんな周りの環境が変わり変化してるのに、なんで私は取り残されているのだろう。
よく考えると生存戦略を優先する私に余裕はないのだけれど。
トリステは喋るだけ喋って、飽きたのか帰ってしまった。
いつも嵐のようよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます